第41話041「領主のフィアライト侯爵家に行ってみた(1)」
「君に紹介する貴族のパトロンとは、この地の領主であるフィアライト侯爵家当主『カイゼル・フィアライト』だ」
「は? はああああああっ?????」
フィアライト侯爵家当主ぅぅ?!
いや、孤児院長があまりにサラッと紹介するから危うくスルーするところだったわっ?!
「い、いや、何でですか?! なんでここで領主様の名前が出てくるんですか!」
「君が貴族のパトロンを紹介してくれと言うからその望みを叶えてやっただけだが?」
「いやそれは本当ありがとうございますぅぅ⋯⋯ってそうじゃなくて! いくら何でも初手からそんなビックネーム出すとかおかしいでしょ?! 優先順位の概念バグってますって!」
「フン、見苦しい。そんなことで焦るのは君が準備不足である証拠だ。反省しなさい」
「いや、えええええええええっ!? な、なんでぇぇぇっ!!!!」
非常に、ヒッジョーーーに! 納得のいかない話ではあったが、しかしせっかく孤児院長が俺を認めてパトロンを紹介すると言ってくれたんだ。このチャンスをフイにするわけにはいかない。だからここは我慢、我慢だ、アナスタシア!
孤児院長の指摘に、全く、ちっとも、到底納得いっていなかったがここはグッとこらえ飲み込む。
ぐぬぬ⋯⋯孤児院長め!
「で、でも、領主様をご紹介くださるなんて孤児院長って領主様の親戚か何かですか?」
「⋯⋯まーそのようなものだ」
「?? はあ⋯⋯?」
何だか奥歯に物が挟まったような言い草だな。まーここで変に追求しても『藪蛇ちっく』なので、それ以上踏み込む愚かなことはしないでおこう。そうしよう。
「交渉材料をきちんと準備しておくように」
「うう、わかりました」
ということで、次の日の朝——フィアライト侯爵家へと向かった。
********************
「⋯⋯着いたようだな」
「でかっ?!」
次の日——俺は孤児院長の指示通り、朝早くに孤児院を出た。ちなみにフィアライト侯爵家へは徒歩ではなく迎えの馬車が来ていたのでそれに乗った。
もちろんそれを見た俺も迎えの豪華な馬車にビックリしたが、俺だけじゃなく子供達もビックリしていた。ていうか「アナスタシアがなんかやらかしたー!」と騒ぎになった。⋯⋯おい!
一応、すぐにマイルスさんが来て皆に事情を説明したので事なきを得たが、なんで俺がなんかやらかしたなんて話になるんだ。しかもなぜかその言葉に皆が「ああ、ついにやったか」「いつかやると思ってたんだよねー」って納得してんだよ!⋯⋯解せぬ。
いや、そんなことよりもだ! でかい! なんだこれ! 貴族の屋敷すげー!
馬車から降りた俺の目の前に広がったのは、フィアライト侯爵家のお屋敷⋯⋯なのだがかなりデカい。具体的にいうと屋敷の幅がね、とにかく長いの。
あと門から屋敷の間にあるお庭がこれまた美しい。手入れはもちろんのことだが、色々考えられて花とか木を植えている感じだ。あと屋敷が『白亜の宮殿』っていうやつ? もうー真っ白ピッカピカ(語彙力ぅぅ)。
そんな興奮冷めやらぬ俺にゲンコツが飛んできた。
「痛っ!」
「はしゃぎすぎだ、バカ者」
孤児院長親分である。
もう最近しょっちゅう孤児院長からゲンコツもらってばっかなので、最近はヤクザの組長みたいに感じる(偏見ボンバイエ)。
セバス的な執事さんを先頭に屋敷の入口まで行くと、ちょうどタイミングよく扉が開かれた。
「「「「「ようこそ、おいでくださいました。アナスタシア様!」」」」」
扉が開いた瞬間、そこには恐らく屋敷内全ての執事とメイドであろう方々が縦にズラリと並び、寸分狂わず一斉に俺に挨拶をしてくれた。
え、なんでぇ?! 俺、庶民ですけど! いや庶民どころか孤児なんですけどぉ?!
初っ端からいきなり驚きの連続だがそれはまだ止まらない。
「おお、よく来てくれたね。アナスタシアちゃん!」
「あら〜可愛らしい子ねぇ! ようこそ、アナスタシアちゃん!」
「⋯⋯え?」
フィアライト侯爵家当主でこの地の領主でもある『カイゼル・フィアライト』さんとその妻『セリーナ・フィアライト』さんが、俺みたいな孤児をこんなに大歓迎で迎えるとは毛ほども思っていなかったので今日イチビックリした。
ていうか、二人ともかなりの美男美女だ。年齢はわからないが見た目は20代後半から30代前半くらいに見える。そんな若さで領主とかすごい有能なんだろうなぁ⋯⋯と領主夫妻の顔面偏差値の高さと有能さに一人感動していると、
「⋯⋯すみません、お二方。アナスタシアが二人の異例の歓迎に放心しておりますので、もう少々お控えくださいませ」
と、孤児院長が俺の戸惑いを察して領主夫妻に一言入れてくれた。それはとてもありがたかったのだけれども、でも孤児院長が領主夫妻にかけた言葉って少し強くように感じた。大丈夫?⋯⋯などと危惧していたが、
「はっはっは! いや〜すまない、すまない。これはちょっとアナスタシアちゃんを驚かせちゃったな」
「ごめんねさいね、アナスタシアちゃん。あまりに可愛い子だったから興奮しちゃったわ」
と領主夫妻は特に孤児院長の言葉に対して特に反応はなく、また自分たちの所作に関して孤児院長の指摘を素直に受け入れると孤児の俺に対してまさかの頭を下げての謝罪をした。
「ちょっ?! そ、そんな⋯⋯頭をお上げください! 私は全然気にしていませんし、それに私のような孤児にここまで歓迎の意を示していただけるなんて⋯⋯身に余る光栄です!」
と俺もすぐに二人に頭を下げて歓迎してくれたことに対してお礼を述べた。すると、
「ほぉ⋯⋯? アナスタシアちゃんはすごいな。9歳でこんな言葉や所作が出せるとは。いや改めて驚いたよ」
「ええ、本当に。9歳でその言葉遣いと所作は驚きですわ」
というと、今度は俺に優しげで柔和な笑顔を向けてくれた。あくまで直感に過ぎないがこの二人が本当に俺を歓迎して迎え入れてくれたんだなぁと実感した。そんな二人に居心地の良さを感じていると、
「⋯⋯はぁ、カイゼル様。とりあえずここで話されても仕方ないので場所を変えませんか?」
と孤児院長が言葉を掛けた⋯⋯のだがいやその言葉ちょっと棘っぽくね?! ていうか、さっきから孤児院長の領主夫妻に対する態度がすごい失礼に感じるんだけど!
いやマジでどういう関係⋯⋯?
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