第19話019「子ども先生アナスタシア爆誕(2)」
「え〜⋯⋯まず、みんなが文字の読み書きやお金の計算ができるようになればポテトフライの販売が始まります。そしてそれが売れて利益が出たら子供達一人一人に給料としてお金が入るようになります」
「「「「「え? お金?」」」」」
「はい。そうなれば、そのもらったお給料で好きなものを買えたり貯金したりすることができるようになります。どうですか? それってワクワクしませんか?」
「そ、そんなの⋯⋯孤児院長が許したの?」
ヴィラが信じられないという眼差しで訴えてきた。周囲の子供達もヴィラの言葉にうんうんと同じ懸念を抱いていることを示す。
「はい、もちろんです。ちゃんと了承を得ています。ただ、孤児院長としてはそう簡単に文字の読み書きやお金の計算の習得は難しいから1年はかかるだろうと仰いました」
俺はみんなに理解してもらえるようゆっくりと説明をしていく。
「けれども、私はすぐに販売を始めてお給料が欲しいと思ったので孤児院長に『1ヶ月で身に付けさせます!』と高らかに宣言しました。皆さんはどうですか? お給料欲しくないですか?」
「そ、そりゃ欲しいに決まってる!」
「欲しい!」
「欲しい!」
「はい。私も同じです。なので、この1ヶ月は死に物狂いで頑張りましょう!」
「「「「「はいっ!!」」」」」
「ポテトフライは売れる! あとは私たち次第です!」
「「「「「はいっ!!」」」」」
「絶対にぃぃ〜⋯⋯習得するぞぉぉ!!!!」
「「「「「おおーっ!!!!!」」」」」
どっかの怪しいセミナー会場のような一体感が生まれた。素晴らしい。
********************
「知識⋯⋯それは暗記。異論は認めません」
俺は授業の冒頭、みんなに力強く宣言した。皆がポカーンとする中、話を進めていく。
「ということで、まずはみんなに文字を覚えてもらうために1文字1文字声を出しながら何度も何度も反復して書いていってもらいます」
「あ、あの、アナ⋯⋯」
「アナスタシア先生です!」
「ア、アナスタシア先生⋯⋯」
「何でしょう、リッツ君」
「ど、どうして声に出して何度も書く必要があるんだ?」
「よくぞ聞いてくれました。人は何かを覚えるとき声を出しながら書く⋯⋯つまり視覚・聴覚といった『五感』、そして『書く動作』といった『運動神経』をフルに使うことが『長期記憶』の定着に一番効果的なのです」
「え、えーと⋯⋯何を言っているのか全くわからないんだけど⋯⋯」
おっと、いかんいかん。
「⋯⋯コホン。要するに『声を出しながら書く』と覚えやすいってことです。孤児院長からは事前に紙とインクとペンを人数分お借りしていますが、まだ文字の一覧表を準備できていないので勉強は明日から始めていきます」
孤児院長には食堂に来る前「用意して欲しいものがあります」といって紙とインクとペンを人数分用意して欲しいと催促した。正直ペンとインクは高いと聞いたので難しいと思ったが孤児院長は眉間に皺を寄せ嫌な顔をしながらも「まーいいだろう」となんと了承してくれた。
孤児院長、マジありがとう!
そんなことを思い出していると、今度はシエラが「ア、アナスタシア先生!」と手を挙げた。
「はい、シエラさん」
「え、えっと、小さい子供達はその⋯⋯勉強は難しいと思うんですけど」
「はい、もちろんです。孤児院には私たち9歳の年長組が多くその次が1つ下のセーラとアイラ、あとは最年少で5歳のファラとミネアの二人しかいませんので強いてまで上の子たちと一緒にやる必要はありません」
「よかった。それなら⋯⋯」
「ですが! 最年少組もみんなと一緒に参加してもらいます」
「えっ!? で、でも⋯⋯」
「大丈夫。二人は参加するだけでいいから。大事なのは一緒にみんなとやることだから」
「わ、わかった」
「では、明日から午前中に薬草採取や孤児院の掃除などいつものお仕事を済ませた後、お昼を食べ、午後から授業を開始します。みんな明日からよろしくお願いしますね」
そういって、俺は初日の説明会を終えた。
********************
その後、俺は明日の資料づくりのためにとすぐに部屋に戻り、この国で使われている文字の一覧表づくりに着手した。イメージは『ひらがなの五十音表』みたいなものだ。
あと、接客でよく使う言葉の例文や、計算練習といったその他必要な諸々の資料をこの際一気に作成する。
ところで孤児院では部屋といっても一人部屋などはなく大広間に一人一人のベッドが置かれていてそこを自分の部屋みたいな使い方をしている。なので、俺は自分のベッドの上でも文字が書けるよう平らな板切れを持ってきてそこで資料づくりをした。
ちなみに大広間なので俺が何をしているのか興味を持った子達が何人か後ろで見ているようだったが、俺は気にせず資料づくりをせっせとこなす。
そうしてほぼ丸一日をかけ、俺は授業に必要な資料を作り終えた。
「よし!」
俺は充実感に満ちた疲労を感じながら、明日から始まる授業に気合いを入れるのであった。
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