第三章:隠された真実(コード)
私は郷田さんと共に独自の捜査を開始した。事件現場の田中のオフィスを訪れた時、私の特殊な知覚は様々なシグナルをキャッチした。
現場のカーペットに残されたかすかな赤外線の足跡。
それは犯人が特定の高価なイタリア製の革靴を履いていたことを示していた。Berluti製の手縫いの革靴特有の、靴底のステッチパターンが熱残留として記録されていた。靴底のコバの形状から、少なくとも50万円以上する高級品であることが分かった。
被害者のPCのハードディスクから、微弱な超音波ノイズの痕跡が検出された。
現代のペースメーカーは70-80ビート/分で動作し、その電磁パルスが特殊な条件下でハードディスクの磁気記録に痕跡を残すことがある。データ復旧の専門技術により、消去されたファイルの断片から、このノイズパターンを抽出することができた。
さらに、現場の空気成分分析から、特殊な電子機器が使用された形跡があった。
オゾンの生成パターンから、高電圧の電気機器が動作していたことが判明。そしてそのオゾン濃度の減衰パターンから、機器の動作時間も推定できた。
一方、奏もまた自分の潔白を証明するため、そして何よりも私の信頼を得るため、自らの特殊能力を使って関係者のアリバイ証言の嘘を暴いていく。
「あのレコード会社の役員の声は腐った卵の味がした」
奏は私に報告した。
「彼は被害者と金銭トラブルがあったことを隠している。硫黄のような味は、強い罪悪感の現れだ」
「被害者の恋人だった女優の声はひどく酸っぱい悲しみの味がした。彼女は本当に彼を愛していたようだ。だが、その悲しみの奥にほんの少しだけ甘い安堵の味がした。なぜだろう?」
私は奏の観察を分析した。
人間の感情は複雑で、しばしば矛盾する要素を同時に含んでいる。
愛する人を失った悲しみと、同時に脅迫から解放された安堵感。
それは決して珍しいことではない。
しかし、私たちの調査が進むにつれ、より深刻な事実が浮かび上がってきた。
私の視る「物理的な証拠」と、奏の聴く「感情的な真実」。
二つの全く異なるシグナルが組み合わさり、事件は思いもよらない方向へと進んでいく。
そして私たちは、戦慄すべき事実に気づいてしまった。
現場に残された全ての物理的証拠が、二年前私を襲ったあの連続殺人犯へと繋がっている。足跡の靴は彼が愛用していたブランド。ペースメーカーのモデルも、彼が心臓病の治療で埋め込んだものと一致していた。
犯人は同じ男だ。
二年前、私の言葉を奪ったあのサイコパス。
彼は音楽家を標的に犯行を重ねていた。
そして今回殺害されたプロデューサーも、次のターゲットである奏も、全て彼の仕業だったのだ。
「佐藤慎一」
私は郷田さんに文字で伝えた。
「彼はまだ生きています」
警察の記録では、佐藤は二年前の事件後に自殺したとされていた。しかし実際には、彼は身分を偽って潜伏していたのだ。そして今、何らかの理由で犯行を再開した。いったい何のために?
私たちは急いで奏に警告しなければならなかった。
しかしそのとき既に、佐藤は次の行動に移っていた。
あの恐ろしい計画を実行するための。
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