星骸の魔女

蒼華

憧憬

プロローグ 魅せられ日の夜

「綺麗だ」


高き天から降り注ぎ地に落ちる流星の群れのような感傷的な情景。

そんな無二の情景を見た俺の感想は簡潔だった。




俺の名は六連星むつらぼし

というのは異世界に転生したからだ。

死因はおそらく自殺。多分享年19歳・・・というか記憶がない。まぁ、割とどうでもいい。


今の俺の名前はアルデバラン・プレイアデス。親しいものからはアルと呼ばれている。

俺の上にはなんと七つ子の姉がいる。

上からマイア、エーレ、ターユゲテー、キュオネー、ライーノ、テロペー、メロペー。


なんか聞いたことがあるのは気のせいだろうか?


この世界には魔法がある。エンチャントがある。エルフがいる。獣人がいる。

おおよそすべてのファンタジーで出てくるものがこの世界にある。

だが、結構規制が厳しい。

理由は魔法が全く扱えない人や種族がいるからだ。

一部を上げると、魔法の規模に年齢制限があるとか、属性によってはすごい厳しい制約が課されるとか。もちろん禁術もある。

刑罰で言えば、破れば五年間の貼り付け(魔法による)、禁術一歩手前までいれば終身刑、禁術を使えば魔力と記憶だけ吸われてお陀仏とかシャレにならない。


じゃあ、一般で魔法が扱えないのか?と言われれば、そんなことはなく、魔法実践を含む教育は規則さえ守れば家庭に合わせるというちょっと緩い感じになっている。

何なら総合大学みたいな学術機関がこの世界にあるしな。受験は相当めんどくさいらしい。

七人の姉はそこを目指しているらしいが、結構厳しいらしい。


俺?

俺は入る気がないので、フッツーの人生を送ろうと思う。この世界を楽しみつつな。




そんなこんなで八歳になった。

八歳になると割と自由に魔法が使える。

まぁ、対人は厳禁、禁止指定場所・・・『人間の文化圏』での魔法の使用が禁止となっている。


昼に魔法を打っていたら、受験勉強の邪魔だからあっちいってろと、この世界での両親にめちゃくちゃ怒られ、仕方がなく、夜の森で撃つことにした。


この世界には魔獣がいる。

といっても、前世の獣に毛が生えた程度なので、魔法を一発二発撃てば大体逃げる。

魔獣狩りの趣味はないので、『邪魔したら追っ払う』をモット―に気の向くまま魔法をぶっぱなし続ける。


そんな時、ガサガサガサッと草が生い茂った方から音がした。

また魔獣か、と思った俺が風の玉一つをぶつける。

殺さずに済むから結構助かる魔法だ。


草むらからトカゲモドキが飛び出し、逃げていく。

それでいい。


それから十分くらいだろうか。

急に風が強くなった。そよ風が中ぐらいの風になった感覚がして、後ろを振り向いた。


「ええぇぇぇええええ!?」


そこにはドラゴンがいた。東洋的なのじゃない。西洋的なドラゴンだ。


俺は逃げた。

あんなのに勝てる気がしない。上の姉が全員でかかれば勝てるかもしれないが、こちとら八歳のいたいけな少年。勝てるわけがない。


森から離れ、丘陵に出た。

家の方角逃げなかった自分を恨んだ。

攻めて家の方に逃げればどうにかなったかもしれないのに・・・

あ、ヤベ、死んだ。


最後っ屁か逆ギレか。俺はこの龍野郎に一泡吹かせようと決意した。

俺の持っている全魔力を込めて、特大の火の玉を作り、野郎にぶつける。


「ギャァァアアアア!!」


成功。目を焼くことに成功した。

それと同時に俺は坂に仰向けに倒れた。


「グルゥウウアアア!!」


龍は見えない目で俺を一瞬見て、空気が震えるほどの咆哮を上げた。

何をしたかはすぐにわかった。


「嘘だろ・・・」


地獄だ。

この龍野郎は『ドラゴン・サモンなかまをよぶ』を使いやっがった。

恐らく俺を『脅威』と勘違いしたのだろう。

ご丁寧に、十を超えるなかま群れを呼びやがった。


「ふざけやがって・・・」


全ての竜が俺を一族の敵とでもいうような眼をしやがる。

俺が何をしたってんだよ。


終わった。

元から終わっていたが、もっと終わった。

享年八歳とはクソみたいな人生だな。


そんな時だった。


流星が降ってきた。

まるで情熱的な色を混在させた天の川のような、色とりどりの星骸が天から降り注いだ。

それは十以上の龍どもに当たり、花火玉のように爆ぜた。


「綺麗だ」


絶句状態から解かれた俺の口が発したのは簡潔で、簡素で、ありきたりな言葉。

だが、それでいい。それ以外に表せる言葉がない。


まるでと自然の芸術流星群人工の芸術花火が絶妙なマッチをしたかのような情景。

俺の脳裏に焼き付いて離れない。絶対に忘れられない情景。


そして、俺は見た。

その最上の芸術の隣で箒に乗り、たたずむ魔女を。

三角帽子、装飾が施されたドレスのようなスカート、穂の部分が天音色に色づいた箒。


気づけば龍どもはすべて屍になっていたが、関係ない。

今日この夜を一生忘れることはないだろう。

これが、これこそが、後々の俺の行動を決定的に変えた出来事だということは言うまでもないだろう。

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