第34話 圧倒・怒涛・逃走

なん……何なの?私たちが何したっていうの!?」


「チート使ってるじゃん」


 奴に向かって踏み出した。

 対する行動はチートを切ったニュートラルの乱痴気乱舞。

 このスキルはそれ程ダメージを負うスキルではない。

 だから多少の攻撃は受け入れて奴の懐めがけて進んでいこう。


「ひいっ!やめてっ!やめてっ!」


 チートを攻略されて自信が崩壊したチーターは血相を青く変えて後ずさり、俺から逃げていく。乱痴気乱舞の間合いは俺の『掴み』が届く範囲である事実に気付いた奴は、次第にスキルを使わなくなりただただ逃げ回るだけの地を這う蛆虫となる。


「やめてたまるか!お前のせいで何人のプレイイヤーが不当な不快感を味わったと思っている!!」


 彼女はスピードに厚く振ったステータス構成をしている。

 スピードさんまでとは言わないがこの足と動体視力だけで捉えることは困難だ。

 だがそれでいい。既に奴は毒に犯されている。このまま時間が経てば毒のダメージで倒せる。


 だが問題が一つ。


「不快!?知らないよそんなの!!ゲームは遊びでしょ?私が好きなようにやって何が悪いの?」


 戦闘による研ぎ澄まされた状況ではないため、普段はスルーしている不快な言葉に神経が逆なでされてしまう。


「はぁ、なんでそうなるんだよ」


 その言葉に怒りを飛び越えて呆れが漏れる。

 ゲームは楽しむための娯楽だ。それは合っている。

 だがしかし、奴の言う『好きにやる』は常識のそれを逸脱している。


「別に人がどんな思想を持つのかなんてどうでもいい。そこに介入する余地はない。なんでチートを使うのかって話をしてるんだよ。こっちは」


「あ!お前だって私の楽しみを奪ってるじゃん」


 すると奴は思い出したかのように持論を展開し始める。

 こんな、穴だらけかつはりぼての感情任せで醜い反論だ。


「チートで人を不快にしている奴の言葉じゃねぇな!!」


 感情任せの反論をしてしまった。それを少しだけ悔いながら最高速で地面を蹴り飛ばし再び奴の懐に飛び込むことに成功した。

 胸倉を掴まれた彼女は両手の武器でスキルを発動して俺に攻撃しようとしてくる。


「させねぇよ」


 左手から繰り出される乱痴気乱舞は甘んじて受け入れながら、奴の右手を本でキルの発動を防ぐ。

 数秒。時間が欲しかった。

 そして2秒後、


「ヒートマグナム・サーカス」


 放ったのは50本の光線。

 全て奴の体を貫いて体力を消し飛ばす。


 こうして俺はラウンド1を勝利した。

 俺たちは再び最初の、少し離れた場所にワープする。


「べつにいいよ!!アンタは私たち、チーターに倒され続けるんだから」


(さて、次も圧倒しよう…………え?)


 次は違うチートを使用されることも考慮されながら作戦を組み立てていたので、彼女の言葉に一瞬反応できなかった。

 ラウンド1と2の間、10秒のインターバルで奴は気になる言葉を吐きだす。

 それはまるでチーターたちが徒党を組んでいるかのような言い草だ。


「お前は私たちの間で指名手配されている。これから私たちがお前をスナイプし続ける!!」


「はは」


 もしそれが事実だとして、そんな仮想により感情と言葉が同時に漏れた。

 これは歓喜だ。


「ははははは!!!」


 今まではチーターたちと巡り合うくらいしか遭遇する手段がなかった。

 だからヒーローランクに至るまでのランクマッチではチーターとは戦う機会にあまり恵まれていなかった。チーターがよく活動している時間帯をDMで教えてもらってそこでランクを上げていたものの、それでも経験を積む機会は少なかった。


「はははははははははははははは!!!!!」


 俺が喜びを爆発させている間にカウントダウンは終了してラウンド2が始まった。

 しかし目の前のチーターは戦法が思いつかないのか、ただ茫然とこちらを見ている。


「そうか、そうか、そっちから来てくれるのか!!なら探す手間が省ける。どんどん来てくれ全員返り討ちにしてやる!!」


「……何を言っているんだ?」


 奴が動かない原因は作戦が思いつかないという事実がではなく、意図していない反応が返って来たことによる困惑であるようだ。

 どうぞどうぞ、困惑してください。と奴にどう思われようがどうでもいい俺は試しに探りを入れる。


「ああ、そう。ついでお前たちのその集まりの名前も教えてよ。覚えておくからさ」


 困惑しているのならふっかけてみよう、という考えでそのチーター集団について問いを投げかけた。


「お、お、教えるかばーーーーか!!!!」


 しかし奴は応えることなく捨て台詞を吐いてからこの場から消滅した。

 これは回線を切断したことによるリタイアだ。つまり彼女は逃げたことになる。


『回線が切断されました。対戦を解消します』


 その表示が出で俺はもとの酒場に戻ってくる。

 こういった場合、回線が切れたプレイヤーの敗北となる仕様なので、この勝負は俺の勝利となる。


「……チーターの集まりがるのか」


 この一戦で俺は興味深い情報を得た。

 チーターたちが集まって何かを企んでいるらしい。

 この情報がセカンドマキとやらと関係しているものであるかどうか分からないがチートハンターズの面々に共有しておくべきだろうと考えた俺は、すぐさまディストートに連絡した。


『マッチングしました』


 そうしている間に次の相手が見つかった。

 敵プレイヤーの名前は『Best cheat.com』。



 ドメインを使った名前である。



(まじかよ……!まじかよ……!!!)



 名前が目に入った瞬間、脳でアドレナリンと敵意が弾けた。

 プレイヤー名に『.com』といったような表記をするプレイヤーはあまりいない。

 そして、俺の経験ではあるがこのような名前のプレイヤーにはとある法則性がある。


「チート販売業者……!」


 『Best cheat.com』。恐らくこれはチートを販売しているサイトの名前だ。


 サイト名をプレイヤー名にすることで自身のチートを宣伝する手法。

 奴の情報は今まで俺たちに寄せられてこなかった。ただ単に情報が耳に届いていなかった可能性はある。

 それ以上に存在感を放ちながら浮かび上がるもう一つの可能性。


「乗り込んできたか……!」


 セカンドマキとは関係ない、第三勢力にして新たな敵が現れた。

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