第2話 ネコミミ幼馴染(姉)からはバブみを感じる
美々との付き合いは物心つく前からだ。家族ぐるみの付き合いで、お互いの家族が自分の家族みたいに仲が良い。
美々は普通の女の子と少し違う。ほんの少しだけ。だけど、そのほんの少しの違いを指摘する奴ってのはこの世の中に少なからずいる。本人に悪気があろうが、なかろうが、それで美々が傷ついてしまうのを何度も目撃している。
幼馴染として美々には笑っていて欲しい。だから俺は極力美々を喜ばすことを考えて日々を過ごしている。
「こりゃまた凄いな」
高校に入学して数日。中学の頃は学食なんてものはなかったため、興味本位で足を運んだのだが、超満員であった。座る席なんてパッと見でないことがわかる。あかん、こんなところで飯なんて食えない。諦めて購買でも行くか。
「それにしても……」
学食をパッと見ただけだったが、この学校にはanimal emotionsの人が結構いたな。小、中の頃は数えるほどしか見当たらなかった。学年に一人いるかいないか程度。だけどこの学校には美々と同じ様な人が結構な数いるみたいだ。
「流石は
「私が、なに?」
学食から購買に向かうため、渡り廊下を歩いていると聞き慣れた声が後ろから聞こえてくる。振り返ると、手に大量の書類を抱えている見慣れた美少女がいた。首を傾げて、ふわっと長いロングの髪が揺れる。
「もしかしてじぃちゃん、学校でも私のこと考えてくれてるの?」
ピョコっと彼女の頭からネコミミなんか生えてくる。
「そんなに私のこと好きなんだー」
ネコミミをピョコピョコさせながらからかうように言ってくるこの美少女は
音弧もanimal emotionsで、美々と同じく感情が昂るとネコミミが生えてくる。だが、音弧は美々と違ってネコミミを隠す素振りはまったく見せない。
「俺は年上のじいちゃんになった覚えはないぞー」
「小さいころからそう呼んでるから今更矯正はできないなぁ。あ、でも、恋人同士になったら呼び方変えるかも」
「じゃあ、音弧と恋人同士になったら、じぃちゃんばぁちゃんカップルの完成だ」
「なんで私の呼び方を変えるのよー」
なんて、幼馴染のお姉ちゃんといつものノリの会話を繰り広げているところで本題だ。
「それで、渡り廊下で私の名前なんて呟いちゃってどうかした?」
「さっき、学食覗いた時にanimal emotionsの人が結構いたからさ。音弧が教えてくれた情報通りだなって思っただけ」
「うんうん。自分が言うのもなんだけど、この学校は多い方だよね。世の中には私と同じような人がいるって知って嬉しかったよー」
言葉通りにネコミミを嬉しそうに動かしている。この子はネコというよりはイヌに近い気がするな。
「それでさ、じぃちゃん。みぃちゃんは大丈夫そ?」
音弧は昔から妹思いの優しいお姉ちゃんだ。こんだけ同じような人が多い学校の中でも妹のことが心配なのだろう。
「まだ入学して数日だからなんとも」
「そ、っか。そうだよね。にゃはは。ごめんね。あの子、私と違って恥ずかしがり屋さんだからさ」
言いながら音弧は自分の耳を触ってみせた。
「私は好きなんだけどね、自分の耳。みぃちゃんはあんまりみたいだからさ」
音弧と美々の性格は真逆だ。音弧は自分の耳をチャームポイントとしているのに対し、美々は自分の耳にコンプレックスを抱いている。
「安心しろって。いつも通り、俺がいるから大丈夫」
そう言ってやると信用しきった顔して「うん」と頷いてくれた。
「あ、そだ。じぃちゃん、学食に行ったんだよね?」
「ああ。あんな激混みの中で食える気なんてしないから購買に行こうと思ってな」
「やめた方が良いよ。結局購買も激混みしてるから、行っても売り切れになってる」
「まじかよ。昼飯なしとか、きっちぃ」
「大丈夫」
言いながら渡り廊下から明後日の方角を眺める音弧。
「あっちの方にカップ麺の自販機があるんだよ」
「カップ麺の自販機って、これまた懐かしいというか、なんというか」
「だねぇ。だけど知る人と知る穴場スポットってやつだから、絶対買えるよ」
「流石音弧パイセン。なんでも知ってて頼りになるぅ」
「にゃっはっはっは。パイセンを褒め称えたまえ」
ドヤっと胸を張って威張っている姿を見ると、到底パイセンには見えん無磁気な笑みをしていらっしゃる。ま、胸のところは随分とパイセンなんだけどね。
「みぃちゃんにも教えてあげたからいるかもだよ。ふたりで仲良くカップ麺食べてね」
じゃーねー、なんてネコミミを生やした美少女がイヌみたいに去って行った。かと思うと、そのまま引き返してくる。
「そだそだ。一応、これ受け取ってくれる?」
「んぁ?」
ずっと持っていた書類の一枚をこちらに手渡してくる。そこには、『にゃんでも相談オッケー♪』なんてキャッチコピーが書かれていた。どうやら生徒会選挙のビラらしい。
「生徒会長に立候補する完城音弧をよろしくね」
ここでウィンク一つする辺り、この子は生徒会選挙をアイドル総選挙と間違っているのではないかと思ってしまう。
「身内贔屓で音弧に絶対投票するわ」
「にゃははー。私も悪徳政治家仲間入りー」
陽気に笑って、今度こそ音弧は去って行った。
「相変わらず性格の似てねぇ姉妹なこって」
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