しるし

smile

ーーー第1章ーーー1話


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オギャァァオギャァァオギャァァ

分娩室に響き渡る泣き声の中、私の命が生まれた。

「おめでとうございます、元気な女の子です」

「よく頑張りましたねお母さん

助産師さんがお母さんの顔の汗をタオルで拭う。

「あれ…?この子…左目と左耳がない…」

「え?」

あとから聞いたがあの時の分娩室はザワザワしていたそうだ。これは何十年経っても忘れられないことだと思う。

そして出産してからお母さんと私はすぐに離されて、1ヶ月に及ぶ検査を繰り返したのだ。

そしてわかった病名は…

お医者さんからこう言われた。

「野田さんは、片目欠損と小耳症です。」

難病だ。

「生まれつき片方の目が欠損している状態を片眼欠損といい、眼球の形成不全を指します

生まれつき片方の耳が未発達な状態を小耳症というんですね。


野田さんの場合は、

両方同時に発症していらっしゃるので

トリーチャーコリンズ症候群

ゴールデンハー症候群

等の名前もありますね


片方の耳が先天性難聴で全く聴こえません」


そんなこといきなり言われてもすぐに受け止められるわけない、母親は困惑した


すぐに手術の予定を入れたが当時の医療では治ることができなかった。


私は保育園、小学校、中学校とこの顔で過ごした。

でもさすがにそのままは怖いから眼帯をつけて左耳はないから長い髪で隠してる。

保育園から同じ小中一貫校だから私の顔を見ても誰も何も言わない。親から何か言われてるのかなとか思うけど…

それでも昔から馴染みある学校で私は安心してた。

友達もいて学校の先生もお母さんも優しい


だけど高校入ると生徒の目が途端に変わった。


「2年間なんで眼帯してきてるの?」

同級生の女の子に今日も放課後の教室で言われる言葉。

「怪我?火傷?ならうちらに見せてほしい。クラスメイトだから気になるからさ…」

クラスメイトが気になるのも無理はない。

保育園から今までずっとバレないようにして過ごしてきたが、それでもバレなかったのが周りが優しかったからだと思う。

「ごめん無理」

でもいつもこうして断ってる。

そうすると大抵彼女達は引き下がってくれるのだが、今日は違った。季節はセミの鳴き声が目立ち始めた7月下旬。

ちょうど夏休み間近だ。

「お願い!クラスの子もみんな気になっててさ…ほら、うちら今3年じゃん?このまま何もしずに卒業とかなって大人なってから野田さんにこんなこと聞けないなと思って。体育祭も同じ髪型してて気になってるって」

2人とも両手を顔の目の前で重ねている。

彼女の1人は桑田弘子。

クラスのリーダ的な存在。桑田さんの隣にいるのは暮野さん。

今日は前よりいつになく桑田さん達の顔が真剣だった。

確かに…大人になってからだとそれこそ触れちゃいけない話になる。高校の今だからできることもあるかもしれない。

リーダ的の人に見つかるとこういう時困る

今まで目立たないようにしてたのにもういられなくなった時期の音がしたので覚悟する。

深呼吸をして言った。

「…火傷…じゃないよ」

「え…?」

そして私は眼帯をゆっくりと外した。

すると彼女たちの表情が変わるのがすぐわかった。

ただれてもないなんの変哲もない肌しかないからだ。


家に帰るとお母さんが台所で夜ご飯の準備をしており、人参を切ってるところだった。

「ただいま」

「おかえり、」

「今日、クラスの子に眼帯外したとこ見せた…」

「え!?ごめんね。」

お母さんは私の方を見ると人参を切る手を止めて、手を水で洗って手拭きタオルで拭いてから私のそばにより、頭を撫でてくれた。

テレビ台棚のを見るとアルバムが何冊か並べてあり、その中に写真たても何枚かある。

そのほとんどが私の写真で眼帯を巻いてて笑顔の写真だ。家族と写ってる時も笑顔。

この笑顔は中学校の時まででそれ以降私の笑顔はない。


次の日、学校に行くといつもよりクラスの子達が私を見てヒソヒソ話してたり、私の隣の席の男子が机を離したりしてるのが目についた。

昨日のこと言ったんだと瞬時にわかった。

私は自分の席に着いたけどいろんな所から話声が聞こえるのが止まらない。

前後左右から変に目立ってるのがわかる。

私が眼帯してなかったらこういうことも言われないんだよね。いつももなるべく触れないようにしてるクラスの子達

病名言っても分からない人多いんだろうな…

わかる人もいると思うけど

休みの日にお母さんと買い物行くだけでも他人に変な目でも見られるし…

遊園地いっても並んでる人にジロジロ見られる。

私自身も片目がないだけで不自由にもなるし…

ほんとなんで…こんな目に

涙が溢れてきた。でも左目からは何も感じない。

「小学生みたいだよね」

不意に私の背中越しに低い声の女の子の声がした。

俯きながらも目線を横にやる。

「もうすぐ卒業って時に何見た目がどうとか言ってるの?

1人相手に大勢で面白がってんの見るとムカつくんだよ」

背の高い女の子は昨日の彼女達に向かって怒鳴ってる。

「ごめん…私が言った…昨日びっくりしちゃって」

彼女…桑田さんが言った。

何回も会ってるから嫌でも名前を覚えてしまった

水滴が机に垂れた。

「気にしなくていいよ?」

!いつの間にか机に垂れた水滴が黄色いハンカチで拭かれていた。そして顔を上げると目の前にあんまり見たことない女の子の顔があった。

黒髪で頭のてっぺんからお腹までポニーテールをしてる。

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