第13話:二つの天下統一
将軍・足利義輝と、尾張の風雲児・織田信長の対立が決定的なものとなり、天下は、二つの思想によって、大きく揺れ動いていた。
京の都。
御所の庭では、将軍直属の部隊が、近藤の厳しい指導のもと、訓練に励んでいた。
その訓練は、かつての新選組の訓練を彷彿とさせるものだった。
「構えは、ただの型ではない。お前たちの魂の表れだ!」
近藤の言葉に、隊士たちは、泥にまみれ、汗を流しながら、真剣に刀を振るう。
その姿は、かつての烏合の衆だった頃とは、比べ物にならないほど、力強く、清らかだった。
その様子を、森可成と、息子である森長可が見つめていた。
「父上。将軍様の教えは、我らが信じてきた武士道とは、まるで違います…」
長可は、驚きと戸惑いを隠せないでいた。
近藤の教えは、ただ強くなることだけを求めてはいなかった。それは、己の利を捨て、民と、将軍のために刀を振るうこと。長可は、その教えに、戸惑いながらも、次第に惹かれていくのを感じていた。
「長可。将軍様は、お前の中に、真の武士の魂を、見出しておられるのだ」
可成は、息子に、静かにそう語った。
長可は、息を吸い込む。泥と汗、そして刀の金属の匂い。
「武士道のため…」
心の中で呟き、槍を握る。手が震える。
だが、一歩、踏み出した。槍の石突が、訓練場のぬかるんだ泥にめり込み、靴の中に冷たい泥が流れ込む。
その冷たさが、彼の心を、冷静にさせた。
近藤は、明智光秀を呼び出した。
「光秀。彼らに、新たな任務を与える」
近藤は、光秀に、都の治安維持を命じた。それは、かつて新選組が、京都の治安を守るために行っていた、任務そのものだった。
「殿下。将軍直属の部隊は、都の治安を維持することで、将軍様の武士道が、民の暮らしを守ることを、天下に示しまする」
光秀は、懐から筆を取り出し、静かに「私闘禁」「兵糧私益禁」「民冥加」と紙に書き付けていた。
数日後、その三箇条が、御所の壁に、そして都の辻々に、掲げられた。
光秀の声は、冷静だったが、その筆音には、将軍の理想を、制度化していくことへの、確かな手応えが宿っていた。
一方、尾張の国。
織田信長は、南蛮から取り寄せた火縄銃を手に、静かに立っていた。
その周りには、数えきれないほどの兵士たちが、火縄銃の訓練に励んでいた。
「撃て! 撃て! この音こそ、新たな時代の夜明けを告げる音だ!」
信長の言葉に、兵士たちは、一斉に火縄銃を発砲した。
その音は、まるで、雷鳴のように、尾張の空に響き渡った。
硝煙の匂いと、火薬の焦げ臭さが、尾張の風に乗り、遠くまで運ばれていく。
その様子を、信長の家臣である、柴田勝家と、丹羽長秀が見つめていた。
「勝家殿。殿は、将軍の武士道など、一笑に付しておられるようですな」
丹羽長秀が、静かに勝家に語りかける。
「ああ。だが、将軍の言葉には、心を揺さぶられるものがある。武士の魂…か」
柴田勝家は、将軍の言葉に、かすかに心を動かされていた。
しかし、信長は、将軍の言葉を、ただの戯言だと思っていた。
「義など、腹が膨れぬ理屈だ。天下を獲るのは、義ではない。力だ」
信長の瞳は、冷たく、そして、燃えるような野心に満ちていた。
信長は、火縄銃の訓練を、さらに効率化させていた。
兵士を三つの隊列に分け、一列目が発砲する間に、二列目が準備し、三列目が装填する。
それは、まさに「三段撃ち」の試行錯誤だった。
「銃声は雷だ。雷は天の声だ。ならば、我が軍が天命を鳴らすのだ!」
信長の言葉に、家臣たちは、息をのんだ。
信長は、家臣たちに、静かに命じた。
「長篠の地を、見よ。いずれ、あの地が、俺と、将軍の天下を分ける、戦場となる」
信長の言葉に、家臣たちは、息をのんだ。
信長は、将軍との戦いを、すでに、運命的なものだと考えていた。
その頃、京の都では、将軍直属の部隊が、都の裏路地で、治安維持に励んでいた。
「将軍様は、我らを信じてくださっている」
「将軍様がいる限り、京の都は平和だ」
「将軍様の義は、腹が膨れる。だが、信長様の力で、腹を奪われぬ世の方が良い」
市井の声は、将軍への感謝と、信長への期待で、揺れ動いていた。
そして、近藤は、静かに、将軍の座に戻った。
彼の手に、伝来太刀の鞘が冷たく光る。
「信長…」
近藤は、遠く尾張の空を見つめ、静かに呟いた。
「俺は、お前を、武士の道に、引き戻す」
それは、将軍・足利義輝が、新選組局長・近藤勇の魂を宿し、天下を二分する、壮大な戦いの序章だった。
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御所の庭。静かに、風が松の葉を揺らす音が響く。
遠く、尾張の空から、鈍く、しかし、確かな銃声の音が、二つ、三つと、響いてくる。
二つの音は、それぞれの思想が、天下に響き渡る、未来を告げていた。
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