魔法使いに憧れて!

わたくしですわ

前日談

第0話 むよくの魔法使い

 何となくで人生を過ごし十五年、俺は思い悩んでいた。魔法が中心のこの世界でどう生きるべきか?


 俺は、医者である父親の仕事を継ごうと思っていた。もちろん、本心ではない。しかし、他にやりたいことが無いのだ。そして、取り柄も無い。


「少年。浮かない顔してるね。君の名前は?」


 そんなある日出会ったのが、自称むよくの魔法使いを名乗る男 グレンさんだった。


 医者になるために通っていた学校の帰り道。時間は六時を過ぎ、辺りは薄暗くなっていた。その時、田舎であるこの町では、なかなか見かけることの無い格好の男が俺の帰り道に現れた。

 その男こそがグレンさんであり、俺の人生を変えた物を見せてくれた。


「中級魔法 サン・ライトに、収縮した水を発生させる初級魔法 フォーム・ミストを合わせる。そしたら……」


 水が集まった渦に、粒となった光が入っていく。すると、小さな虹が発生した。


「凄いだろ? これぐらいならフロイ、お前でもすぐに出来るよ」


 フロイ・ヘルベルクという名前を与えられた俺は、平凡な特徴も無い人生を歩んでいた。

 濁った水色の重い前髪に、筋肉が少なく平均より軽い体重。見栄を張れる特徴なんてない。

 そんな俺にとって、目の前に映し出される魔法で作られた虹は未知の物だった。

 その瞬間、魔法が日常を便利にするただの道具から人の心すら動かす物へと変わり、俺は魔法に強く惹かれていた。


「俺も魔法使いになりたい。魔法を知りたい!」


 十五歳になったというのに、発言は五歳児と変わらない。でも、十歳も退化するぐらいには魔法の虜になった。


「フロイなら魔法使いになれるさ。この俺が、保障しよう!」


 そうして、魔法を見せて去って行ったグレンさん。彼の姿が完全に見えなくなった事を確認した俺は、家へ駆け足で帰ると両親に虹を見たことを話した。


 医者の父は、話を簡単に聞くと後は聞き流そうとしていたものの、息子の目の輝きに気づき勘づいた。


「フロイ。やりたいことは見つかったか? 医者を継ぐのか?」


 俺はずっとやりたい事を見つけられなかった。そんな自分が苦しかった。でも、ようやく見つけたよ父さん。


「父さん。俺は、魔法使いになりたい」


 両親は、初めて息子が自分からやりたい事があると聞いた。十五年。長いようで短いこの期間。

 母さんと父さんはすぐに賛同し、魔法を学ぶ事を許してくれた。

 

 こうして、俺は魔法を学ぶべくラインブルク魔法学院へと向かうのだった。

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