夜の帳は柔らかく並木道を覆っていた月は二つ薄銀の光を降らせ枝葉の間を縫い揺れていた

そこに立つ少女は夢の中であることを、まだ気づかない

ただ目の前に広がる景色に足を止め、その姿は「みこと」現実の世界では穏やかな朝に目覚めるはずの彼女は今

夜の静寂に抱かれていた風は語りかける枝を揺らし葉のざわめきが遠い歌声を連れてきた

それはどこか懐かしく悲しみと希望を同時に抱えた響きだった

まるで世界が生まれる前の孤独と初めて光を見たときの喜びが溶け合った旋律

「みこと」はその声に導かれるように歩き出した

歩を進めるごとに並木道は現実の風景を超え夢の光と影の交錯する幻想の世界へと変わっていく突然

影が揺れ並木道の先に二人の少女が現れた一人は「あまがみ」彼女の周りの空気は春の朝露のように澄んでおり柔らかな光を纏い微かな歌声を零し、その存在自体が癒しだった

もう一人は「ペリラチカ」深い闇に沈む瞳を持つ少女で銀色の髪は月光を吸い込み足元の石畳の上は静かに星屑を敷き詰め煌めき光が散らばり瞬いて木々の葉が微かに揺れ影を透かし遠い記憶の残像の揺らぎを震わせ彼女の存在は夜の闇そのものが形を成していた

その静寂は数多の時を封じ込め閉ざされたままの少女

夢の空気は重く同時に軽やかで時間の流れさえも揺らいでいた「みこと」が声を上げる

「あなたは……誰？……」

「ペリラチカ」の瞳が微かに揺れ夢の闇の中で光の粒を散らした

その光は遠い過去の記憶の断片であり失われた故郷の風景

「私は……太古の魔族の女王ペリラチカ……封印によって隔絶された別の次元に幽閉されています……」

その声の源「ペリラチカ」の姿は深更が造形的調和が際立っているが揺らぎ輪郭は淡く光と影の狭間に消えかかっている長く封じられた幾多の時を宿した少女は夢の空間を押し広げ存在し

まるで闇そのものが流動して息づいていた「みこと」と「あまがみ」の胸に届く、その声は風のように柔らかな光の波となり

その瞬きごとに心の奥を、そっと撫で春の朝露が光を反射し声の余韻が優しく心を満たし導きとなり同時に深い闇に沈む記憶の

ひだに触れるように胸の奥を静かに抉り銀色の髪に降り注ぐ月光が冷たく光る

そして、さらに、その声と存在が二人の心に重なり星屑の揺らぎと絡み合い導きと訴え希望と痛み封印された苦悩と悲哀が一体となって夢の空間を揺らめかせ

そっと突きつけてくる鋭い切れ味を持っていた

それは岩を削り水を穿つ永い時の流れが作り出した言葉の刃で夢の中でしか交わせぬ言葉「みこと」と「あまがみ」の心に直接触れる

それはただの音ではなく存在そのものが深く染み入り語りかけていた

「みこと」と「あまがみ」は同じ声に包まれながら

それぞれの胸に異なる波紋を広げる夢の流れは止まることなく棚引く光と影の中に星の数ほどの歳月を少女の存在が静かに刻まれていった

「あまがみ」はそっと手を伸ばし「みこと」の肩に触れる

その指先から伝わる温もりが「みこと」の心を落ち着かせた

「怖がらなくていい声は届いている私たちの歌が彼女に伝わっているの」

三者の間に静かな空気が流れ並木道の木々はしなやかに揺曳し光の粒が舞った

その光は彼女たちの心の共鳴によって生まれた小さな奇跡の証だった

「ペリラチカ」は唇を動かさず胸の奥から言葉を通わせ心に響かせる

「祈りの歌……あなたの歌声が……私を呼ぶ封印の中でも……私はそれに応えようとしている……」

その言葉は、まるで深海に沈んだ聖鐘の音であり「みこと」と「あまがみ」の胸に反響し合い胸に熱く切ないものが込み上げる

それは理解でもなく感情でもなく、ただ世界の奥深くに流れる命の声を感じる感覚で種が大地の下で春の訪れを感じるように魂の根源的な部分で深く感銘するものだった夢の空は刻々と変わる

時に並木道は炎に包まれ、その炎は過去の悲劇の記憶に燃え盛る

時に氷の森となり、その氷は絶望と孤独の象徴のように冷たく輝く

時に夜空の果てしない星海へと変化する

そのたびに「ペリラチカ」の姿も揺蕩う少女としての無垢な面が見え隠れし

時にそれは、まだ封印の奥で眠る希望の光と女王としての威厳が覗く

永き時を生きた者の孤独と無垢さの二面性を同時に示していた彼女の魂は無数の時の中で幾度となく

その姿を変えてきたのだ「みこと」は声を震わせる

「あなたは……人に寄り添おうとしているの？……」

「ペリラチカ」の瞳に微かに光が宿る、その光は遠い過去に失われた故郷への、そして人への優しい想い

「はい……でも……私は魔族の女王でもある…….封印を破れば……世界を揺るがす力になる……」

夢の中での対話は現実の世界の秩序と運命を揺るがす力を秘めていた

それは一滴の水が大海を動かすように小さな言葉の交差が世界の歴史を動かす力となる事を示唆していた

それでも「ペリラチカ」は歌声に応え「みこと」に寄り添おうとする

「あまがみ」は歌を歌い始める、その旋律は並木道を渡り夢の空間を震わせ封印の深淵に届く

それは太古の魔族が最後に紡いだ希望の歌「ペリラチカ」は目を閉じ胸の奥でその歌に身を任せる小さな涙が頬を伝い銀色の髪に光が反射する

その涙は悲しみの象徴であると同時に一筋の曙光の粒でもあった

それは氷が溶け水となって流れ出すように凍りついていた心が再び動き出した証で夢はさらに深くなり時間の感覚が消え三人の世界は一つの存在のように溶け合う影が揺れる並木道に「ペリラチカ」の声がそっと漂い風に混ざり星屑に乗り「みこと」と「あまがみ」に届く

「祈りと呪いの違い……それを知るまでは……私は目覚めることができない……」

その声は夜の空気に溶けるように流れ時に静かで時に鋭く夢の世界を揺るがす雷鳴のようでもあった

それは世界の真実を問う深く重い問いかけだった

やがて並木道は再び穏やかさを取り戻す月は二つ夜空に静かに輝き風は歌声の余韻を運ぶ三人の存在は夢の中で静かに佇み言葉を交わさずとも心が通い合う

それは静謐であり同時に激しい感情の奔流でもあった「みこと」の心は震え「あまがみ」の歌声は夢に響き「ペリラチカ」は微かに笑む

その微笑みは封印された孤独を超え人と魔族の未来への前途に光明を示していた

それは数知れない時を超えて、ようやく芽吹いた小さな花

夜が終わる前に「ペリラチカ」は最後に一つだけ告げる

「閉ざされた……この領域で……私は待つ……歌が届く限り……私はここに囚われ続けています……」

そして夢は静かに消えていく並木道には月光だけが残り葉のざわめきが優しく揺れる現実の世界に戻った「みこと」は目を覚ますが夢で見た光景と声の余韻が胸に深く刻まれていた

それは、まだ封印の奥で眠る太古の魔族の女王「ペリラチカ」の存在を告げる未来への序章であった