「あまがみのみこと」「スカタルノ銀色の旋律」第一章:オカリナの少女
スカタルノの星その中心に位置する鼓動を映す様に揺らめく聖なる静寂の樹叢この森の奥深くに暮らす「あまがみのみこと」の一族に少女「こと」は生まれました両親は魔物に襲われ「こと」自身もその時に声と記憶を失い孤児となった残されたのは胸の奥に残響する寂しさと手にした小さなオカリナだけ
けれど沈黙の中で彼女は学んだ声を持たない代わりに掌に抱いた小さなオカリナに祈りを込め旋律を紡ぐ事で不思議な魔法を使う事ができ「こと」がオカリナを奏でれば音は祈りとなり精霊を呼び覚ます魔法へと変わり世界に触れられる事を
だけど心に、ぽっかりと空いた穴は塞がる事はありませんでした今日も「こと」のオカリナの音色が森に響き渡ります
その音色は清らかで美しくも、どこか千思万感
胸に迫る哀しく寂しげで森の梢を渡る風すら涙する彼女の胸の内に秘められた孤独そのものを映し物語っていた一族の他の者たちは「こと」を拒むことなく温かく育て彼女を疎外しているわけでは
ありませんでしたが「こと」自身の声を持たない記憶喪失という思いが塞ぐことができずに影を落とし彼女を孤立させ空白が広がり続けていたていたのです
「「こと」〜今日もお祈り?〜」
ひとすじの風が木々を揺らしヒュ〜っと「こと」の肩に羽音が舞い降りちょこんと乗ったのは手のひらサイズの可愛らしい妖精で「こと」の唯一の話し相手オカリナの音色で召喚される水の精霊で親友の「リケア」でした「こと」がオカリナを吹けば必ず呼び寄せられる彼女だけは「こと」の心の声を聴き取ることができ
いつも「こと」の孤独にそっと寄り添ってくれました「リケア」は小首をかしげ「こと」の胸懐にある言葉を受け取る
『うん今日の音色は西の災いが早く収まりますようにってお願い』
「リケア」は「こと」の心の声に優しく頷きました
「大丈夫だよ〜「こと」の祈りは〜き〜っと届く応えてくれるよ〜神様だって〜「こと」のオカリナの音色には敵わないんだから」
「リケア」は微笑み「こと」の胸に差す影を和らげてくれる、それでも「こと」は小さくつぶやいた
『「リケア」……どうして私には記憶がないんだろう?……』
「いつかき〜っと〜「こと」の記憶は〜戻るよ〜だって〜神様が「こと」を〜見守ってくれているんだから」
「リケア」の言葉は水面に映る月のように柔らかく彼女の孤独を照らす灯となり「こと」の心は少しだけ軽くなりました
その日の夜の事「こと」の枕元に淡い光が現れました光は音に変わり音は言葉を持ち彼女の頭の中に直接響く荘厳な声へと変わります
「「こと」よ……失われた声と記憶を戻す方法は探しておる……西の災いの何か役立てる事をしてみせよ……そして次の指示を待て……その先に道が開かれる……」
それは「こと」の声と記憶が戻る為の唯一の導きである神様からのお告げでした声と記憶を失っている彼女にとって、このお告げは
この孤独な世界に自分を繋ぎ止める、かけがえのない希望と自分の存在意義を示し与えてくれる大切な道道標でした
翌朝「こと」と「リケア」は西へと向かう旅支度を始めました
お告げを聞いた「こと」の瞳に確かな強い光が宿りました失われた声と記憶を取り戻すための大切な旅になる不安と期待が入り混じる中「こと」のオカリナの調べは不安をかき消すかのように決意に満ち躍動する響きを帯びていました「リケア」は弾む声で囁いた
「「こと」〜さぁ〜行こう! 一緒に西へ!」
「リケア」は「こと」の決意に満ちた表情を見て嬉しそうに飛び跳ねました「こと」と「リケア」二人の心は今まさに一つにな結ばれていました
だが、いつものお祈りの場所から帰り旅に出ようと玄関の扉を開けると家の前には凛とした影の佇まい一人の青年が立っていました
「君が……お告げを受けた「こと」殿ですね……はじめまして私は「レオナール」と申します水の国の伯爵にお仕えしております……」
静かであり穏やかな声の主「レオナール」の涼やかで澄んだ瞳は、まっすぐに「こと」を捉えていました
その眼差しに込められたのは威圧ではなく確かな誠実さが秘められている意志でした「レオナール」は「こと」の旅支度を見て悠然とした口調で続けます
「伯爵の家系は古来より神のお告げを受け継ぎ……この国の均衡を守り保つ役割を務め担ってきました……そして伯爵様は「こと」殿が神のお告げを受けた事そして……あなたの能力が西の災いを鎮める為に必要だと我々は承知しています西で起きている災いは……この国の安寧を脅かすほど深刻です伯爵様は……あなたの旅に協力を惜しまないでしょう伯爵様は国の安定を願うと同時に……あなたの能力と神のお告げの真意に強い関心を抱いておられます……」
「レオナール」の言葉に「こと」の心はざわめき驚き戸惑いが波紋の様に広がります神の声と青年の言葉が奇しくも同じ西を指し示していたからだ彼は一歩近づき深く礼をして、さらに「レオナール」は続けた
「実は伯爵様の奥方も西で起きている災いの影響で不治の病に倒れておられます奥方を救うためにも……そして国の安寧のためにも我々は……あなたの力が必要です……どうか我々の馬車にお乗りくださいそして旅の道中で伯爵様が知るお告げの真実について……お話させていただけませんか?……」
その言葉は「こと」の心を試す鐘の音の様に響いた「リケア」が不安げに羽を揺らし「こと」は静かに胸にオカリナを抱きしめ彼女は小さく息を呑む神託と旅の始まり
そして伯爵家が握る真実オカリナを握りしめ彼女の瞳に揺るぎない決意が灯った
やがて彼女の足は一歩また一歩と運命へと踏み出し銀色の旋律がまだ見ぬ未来を呼び覚まそうとしていた
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