四章

相沢の取り調べは続き、彼は何度も同じ台詞を繰り返した。「指示を受けた」「数字が言われた」「我々は遊びの延長だった」。言葉そのものは証拠ではないが、言葉は社会を動かす。メディアは語られたものを土台にして次の行動を設計する。相沢の言葉は装置の潤滑油になった。

俺は彼の言葉をどう扱うべきか分からなかった。まっさきに浮かんだのは否定だ。否定は防御だが、同時に空虚も生む。否定が受け入れられないとき、別の嘘が組み上げられる。否定は透明性のマントをまといながら、その下には濁った肌がある。

ある夜、若い女性記者が訪ねてきた。松田という名で、目が冷たかった。彼女はノートを開き、淡々と訊いた。

「押尾さん、相沢さんはあなたの名前を出しました。何か言うことは?」

俺は言葉を探し、結局出たのは見苦しい逃げの一言だった。

「彼は話が好きなんだ」

松田はペンを動かし、紙にそれを書いた。部屋にはペンの摩擦音だけが残った。

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