第3話 ユウ

仲間と別れた後、緊張を崩さぬまま彼は歩を進めた。


シャドーに侵入されると、世界は「不変」に閉じ込められる。


朝の鳥の声は昨日と同じ旋律を繰り返し、

村の人々はまるで決められた台本を演じるように、同じ仕草で笑い、同じ言葉を繰り返す。


ただ人形のように生きているだけ。

…いや、生きているのか?


彼――ユウは、胸の奥底でぞっとする感覚を覚えていた。


あいつらの侵入で村が壊れた。

その確信は、誰に告げても信じてもらえるはずもなかった。

両親も、弟も、村人も。

まるで糸で操られる人形のように、昨日と同じ日を過ごしているだけなのだから。


唯一の救いは、彼女と出会えたことだ。

彼女は、この異常を理解している。

そして、自分と同じように“恐れている”。


だからこそ、ユウは生き残るために決めていた。

どんなことがあっても、彼女と一緒に動く、と…


瞬間。

ユウは空気に異様な静けさが漂っているのを察知した。

村の広場に足を踏み入れると、ざわざわとした違和感が肌を刺す。


…影が…濃い?


夕暮れでもないのに、建物の隙間から落ちる影が、いつもより長く、黒く伸びている。

まるで地面そのものが口を開け、何かを待ち構えているかのようだった。


ユウは唾を飲み込み、足を止める。


そのとき。

視界の端で、ひとつの影が――揺れた。


ぞわり、と背筋を走る悪寒。

影はじわじわと輪郭を変え、人の影に近づいていく。


「……くそっ!」


ユウは振り返り、走り出した。

彼女と仲間たちに伝えなければならない。

影の蠢きは、やつらの侵入の証だ。


息を切らしながら、彼はただ一つの思いを胸に刻む。


――守る。

この世界を。

そして、仲間を。

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