第六話 面接 6(美人)

 今日は今まで送り出してきた勇者の一人が、魔王の小規模砦を陥落させたとの話が来てウハウハである。こんなにクソな面接もやっと日の目をみたのだ。

 今日の面接はいい面接になると違いないと思ったが、それはフラグであることは言うまでもない。


 「次の者、入れ!」

 相変わらず宰相の声はいい声だ。なんとも清々しい、吉報を聞いてわしもだいぶ心が広くなったと思ったのも束の間である。

 人間の骸から作られた杖でカラカラと音を立てながら、全身に怪しい刺青を入れた、かなりの美人の女性があらわれた。


 「面をあげよ。名をなんと申す?」

 「マルーデ族のシャマンと申します。本日はよろしくお願いいたします。」

 なんと、声まで美しいではないか。眼福、耳まで嬉しいとはこの事だ。やはり、今日はついている、そうとしか思えない。今まで、勇者といえば大体ムサイ男、男まさりな女性ばかりを相手にしてきた。


 「シャマンよ。お主の自身が勇者であるという所以はなんじゃ?」

 「はい。私は霊を身体に下す事ができます。つい先日、過去の勇者の英霊を下す事に成功いたしました。」

 「ほう…、勇者の力を自身に宿らせると言った理解でよいかの?」

 「はい。そのご認識で相違ございません。よろしければお見せしたいと思うのですが?」

 「それは興味深い。是非ともお願いしたいところじゃ。」

 過去に勇者と呼ばれた者達は数多く存在する。有名どころで言うと、滅魔の勇者、撃滅の勇者のなどが有名であり、単騎で一つの国を落とせると言われたほどの実力者だ。だが、そんなことはどうでもいい、なるべく美人のシャマンとの面接を長引かせたいという下心の方が大きい。


シャマンは摩訶不思議な踊りを踊り、踊り終えたと思ったら天を仰ぎながら何か呪文の様な言葉をぶつぶつと唱える。

 その様子をわしは緊張しながら見護る。


 「入りました。では勇者の人格に切り替えますわね。」

 「うむ、よかろう。」

 シャマンは一瞬肩の力を落としたと思ったら、プルプルと震えだした。初めて見る様子にわしも固唾を飲んで見護るしかできず、宰相をチラチラと見るが、宰相は真剣な目でシャマンを見ていた。


 「おっ?ここは城か?王座たぁ、懐かしいな。」

 「勇者よ、よく降りてきてくれた。お主の事を教えてはんれんかの?」

 城の内装についても知ってると言う事は、あたりの勇者の可能性が高い。王に会える勇者のなどほんの一握りであるのだ。


 「勇者?あぁ、あの時の昔の呼び名か…。」

 「うむ。そうじゃ、世界に轟かした、その名前を教えてくれ。」

 「しゃあねぇな!そこまで言うなら教えてやろう。」

 美人がおっさん言葉を放つのも乙な者だと思っていたが、その勇者の名前を聞いて戦慄した。


 「俺はゴンザレスだ。」

 わしは思い出した…。ゴンザレス…全裸の勇者…、ある闘技大会で優勝し、その後処刑されたと言うある意味で伝説の男だ。

 その優勝セレモニーで王族との交友会の際に全裸になり不敬罪で処刑されたという…、あのゴンザレス。王女の前で、いちもつをぶらぶらさせたという伝説は男の中の男、勇者であったと語り継がれている。


 おいおいおい、なんて勇者憑依させてんのよ、シャマン…。そいつ勇者だけど、違う勇者なのよ…。いや、勇気ある者だけど、負の意味での勇者よ。

 いや待てよ…興奮すると脱ぐ…んであるな…。シャマン…脱ぐ…。わしは唾を飲んだ。


 「ゴンザレス…、そなたの事は勇気ある者と語り継がれておる。この場であの日、王族にした事、そなたの勇気を見せてほしい。」

 わしは言ってしまった…。下心に屈服したのだ。これには宰相も呆れた顔でこちらを見ている。


 「おぅよ。みとけ!」

 わしはワクワクしたのは束の間、ゴンザレスがプルプルしだした。

 「ふう、どうでしたか王様?私の英霊下ろしは?」

 おいおい、今いいところだったのに!とは言えず、宰相の目線が痛い。王の威厳が失墜している。


 「素晴らしい、英霊下ろしであった。お主を支援する。20万ゴルと少し脱ぎづらいとは思うが強力な防具を贈呈しよう。その服では心許ないのでな。これからもこの国の力となってくれ!」

 「はっ、ありがたき幸せ。この英霊の力を存分に発揮し、世界に名を轟かせて参ります。」

 わしは最後に紳士であると言うことをアピールしたかったが、宰相の目線は変わらずであった。

 しかし、今までの中ではましな面接であったので、わしは満足した。

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