桜の木の下、ふたりきり
桜のつぼみが膨らみ始めた頃
桜の木のそばにあるベンチで肩を寄せ合った二人の女子生徒が座っている。
この校舎には三年間
いや、この二人にとってはもっと長い時間の思い出が詰まっている。
そんな校舎を眺めながら、
「もう卒業だね」
「そうだね、あっという間の三年間だったね」
空を眺めて未来に思いを馳せていそうな私の彼女、
「この高校に入って、彩香と出会えて本当によかった」
「私も」
何度も交わした言葉のはずなのに今日はじんわりと心に沁みた。
「卒業しても会ってくれる?」
彩香を信用していないわけじゃない...
だけど彩香の口から聞いておきたい。
「当たり前でしょ、毎日でもいいよ?」
その返事があまりにも彩香らしく、私はつい笑みをこぼしてしまう
「忙しくなるだろうし、さすがに毎日はいいよ」
本当は一瞬たりとも離れたくない。
別れ際に言われる「また明日」さえも、私には寂しく感じる。
「え~、結構本気だったんだけどな~」
ささいな表情の変化に気づいたのか、彩香が私の顔をのぞき込みながらそう言う
「彩香かわいいからさ、大学行ったらすぐに彼氏できそうで私、心配で…」
本当は言わないつもりだった
──それでも口から出た言葉は戻せない
「琴乃ってたまにかわいいところあるよね」
きっと私の頬は桜色を通り越して真っ赤に染まっているだろう。
口を結んで彩香をにらむ。
「彼氏なんて作らないから大丈夫だよ!!私を信じなよ!」
胸を張って彩香がサムズアップする。
「じゃ、じゃあ約束のキス…しようよ!」
何回言っても照れるな、と思いながら口にする
彩香は一瞬きょとん、としてからほほえむ
「いいよ」
彩香は目を閉じて私を待っている
何回見ても私からのキスを待っている彩香の顔はかわいい。
ふれたら無数の花びらになって、ぱらぱら〜と飛んでいってしまいそうな
儚さも併せ持っている。
──彩香にも聞こえているんじゃないかと思うほどに私の心臓はドキドキしている。
彩香に聞こえていてもいい、私はゆっくりと顔を近付ける。
この香り、確か初めてのデートで一緒に買った...
ピーチとサンダルウッドの香水。
朝一緒に登校した時の
ピーチの甘くフルーティーな香りとは違う
サンダルウッドの落ち着いた香り。
彩香の匂いがだんだんと濃くなっていく。
唇がふれるほんの一瞬前
私も目を閉じた。
それからどれくらいの時間が経ったかはわからない。
琴乃の唇が離れたことを感じて私は目をゆっくりと開く。
私たちの門出を祝福するような、やわらかくてやさしい春の光が私たちを包んでいる。
明るさに慣れた私の目に映ったのは、胸のあたりまで伸ばした黒髪を風になびかせ、顔を真っ赤にしている美少女。
私の大好きな彼女、琴乃だ。
「ほんと、かわいいんだから」
私は、にやりと笑顔を見せて琴乃の頭にぽんぽん、と手を乗せてからかう
「っ…からかわないでよ」
私たちの笑い声が、果てしない空に
春風に乗って飛んでいった。
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