第8話 中央区ダンジョンのファイブ
「本当に、気をつけて欲しいよな!」
相棒のカシャが気炎を上げている。
私は、中央区ダンジョンをホームにする探索者"ノリン"。14歳の女の子だ。ちな、相棒のカシャは13歳。
劣等遺伝子を持った貧困層の私たちなんか、学校にも行けない。
義務教育?
なにそれ?
この男女比1:100のディストピア世界で、道徳だとか倫理とか常識なんか語るなよな。
カシャが激オコなのには、キチンと理由がある。
男からしたら「なにそれ?」って言われそうなくらい訳ワカメな理由だけど、私たち女にとっては重たい理由だ。
ここ、中央区ダンジョンの中層にあるセフティーエリアで、男が服の裾を持ち上げて顔の汗を拭いたのである。
その時、男の肌が
劣情が爆発して、襲いかかりそうになった。
このセフティーエリアで休憩する探索者パーティーは多い。
休憩するならば、気持ち悪い汗を拭きたいのも分かる。
だが、女の性欲を煽るような行為は謹んで欲しい。
女は男と違って、射精してスッキリって訳にはいかない。
女は、性欲を処理するのが大変なのだ。
自分で慰めろと言うだろうか?
それでは満たすことが出来ない種類の性欲がある。
たとえば、目の前で生の男が肌を晒しているとか……。
男性のみの探索者パーティー"ファイブ&ワンズ"がアイドル扱いされてからというもの、ここ中央区ダンジョンに、探索者を目指す男たちが集中するようになった。
女どもは喜んだが、こういう弊害もある。
弊害とはすなわち、性欲の処理が大変になってしまったのだ。
今にも襲いかかりそうなカシャを右手で掴み、左手でスマホで緊急時連絡先の彼のところに電話する。ここ、中央区ダンジョンは通信機器が使えるのだ。
ほんの数回のコールで、彼が出てくれた。
『よう、どうしたノリン。緊急事態か?』
中央区ダンジョンの女の子たち全員の恋人、クロくんだ。
「クロくん、3番。すぐに来て~、カシャが性犯罪者になっちゃう~っ」
3番とは隠語で、『発情した女が男に襲いかかりそう』という意味である。
そう、
そういう隠語が共通言語になるほど、こういう事態が頻繁に起こっているのだ。
なお、なぜ3番というかというと、クロくんたち貴峰中学Sクラスが経営する企業の、特別休暇の書かれたリストの上から3番目が『生理休暇』で、それが変遷して『生理的な理由で業務続行不能』→『えっちな気持ちが暴走して、ダンジョン探索が続行不能』→『発情した女が男に襲いかかりそう』という意味で使われるようになったのだ。
『おっと、それはいけねえ。すぐに行く』
クロくんの声と共に、カシャのお守りからヒト型の和紙が飛び出して、クロくんの分身が現れる。
「「クロくんっ」」
私たちの声が重なる。
笑顔で応えるクロくんが、カシャの肩を抱き寄せて、セフティーエリアにある連れ込み宿……ただの大型テントに連れて行った。なかば強引に。まるで警察に連行される犯人のようだ。ほどなく、カシャの嬌声が聞こえ始めた。
「良かった~」
ホッと胸を撫で下ろすと、私のお守りからも、クロくんが現れた。
「ほら、ノリンも行くぞ」
そう言って肩を抱いて連れ込み宿に連れて行ってくれた。
そう、
実は私も、暴走寸前だったのだ。
私は頬を染めて、クロくんの肩に頭を預けて、少し内股でモジモジしながら連れ込み宿に入っていった。
なんか女性向け風俗の風俗嬢みたいに、クロくんが私とカシャの性欲を存分に満たしてくれたのだった。
クロくんは否定するけど、クロくんは私たちの、最高のファイブだ。
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