第25話 税のバグを直せ!
朝。
机の上に山積みになった帳簿を前に、僕は頭を抱えていた。
「……これはもう、“書類”という名の怪物だな」
どれも父上の署名入りで、意味不明な出費が並んでいる。
“井戸復旧記念花火:五百金貨”“パン再生研究費:八百金貨”“祝賀祭予備費:無制限”
「……無制限ってなに?」
セバスが静かに答えた。
「旦那様の経済哲学でございます」
「哲学で経済崩壊するのやめて!」
リリィが勢いよくドアを開けて飛び込んでくる。
「若様ー! 今日のお手伝い、どこからやればいいですかー!」
「どこっていうか、全部火の海だよ」
「はいっ! じゃあ消火活動から始めます!」
「文字通りじゃないからぁぁ!!」
◇
僕はペンを取り、帳簿をめくりながら考えた。
要するに、支出と収入のバランスが崩れてる。
数字の羅列は、もはや呪文か暗号だ。
「若様ー! パン代が“国家機密費”になってますよ!」
「何それ!? 誰が隠したの!?」
「きっとセバスさんです!」
「濡れ衣です、リリィ様」
「じゃあ……父上か」
「旦那様にございます」
「やっぱりぃぃ!!」
僕は深呼吸した。
冷静に考えよう。混乱するだけでは何も進まない。
「まず、不要な支出を整理しよう」
リリィが手を挙げる。
「はいっ! “お祭り費”はどうしますか!?」
「消して! 即削除で!!」
「でも、みんな楽しみにしてますよ!」
「僕の胃が死ぬ方が早い!!」
「じゃあ“花火費”は?」
「消して! 屋敷が燃える!!」
「“パン改良研究費”は?」
「父上の趣味だから消して!!」
「“リリィの掃除道具補充費”は?」
「……それは必要」
「やったぁ!」
セバスがため息をついた。
「若様、削りすぎると旦那様が“経済停滞だ!”と騒がれますぞ」
「じゃあ、ほどほどに削ろう……父上がギリ泣くくらいに」
◇
昼下がり。
僕とリリィは、帳簿の山と格闘を続けていた。
「この“領民感謝記念碑費”って、もう三回出てるよね?」
「はいっ! 毎回“建設中”って書いてます!」
「永遠に建設中じゃん!」
「でも、看板だけは立ってるそうです!」
「看板しかないのかぁぁ!!」
リリィが不思議そうに首をかしげる。
「若様、これって……どうして数字が合わないんでしょう?」
「簡単だよ。父上が“勢いで計上”してるからだ」
「“勢い会計”……かっこいいです!」
「悪い意味でね!!」
セバスが冷静に紅茶を置いた。
「若様、もしよろしければ、私が魔導計算機を持ってまいりましょう」
「そんな便利なものがあるの!?」
「はい。旦那様の発明品でございます」
「……もう嫌な予感しかしないけど、使うしかないか」
◇
魔導計算機は、想像以上に禍々しかった。
黒い鉄製の箱に、なぜか角が生えている。
中央には“笑っている魔眼”のような装飾。
「……これ、計算より魂抜き取るタイプじゃない?」
「安全です! たぶん!」とリリィ。
「“たぶん”の段階で不安しかない!」
セバスが操作方法を説明した。
「このボタンを押して、数字を入れてください」
「わかった。えーっと、税収は五千金貨で……」
カチッ
「認識完了……再計算開始……」
箱の目が光り、低い声が響いた。
『支出:無限。収入:微量。結果:地獄。』
「いやぁぁぁぁ!! 言葉で刺してこないで!!」
「若様、計算機は正直ですな」
「正直が過ぎるんだよぉ!!」
リリィが慌ててボタンを押す。
「わ、私が調整しますー!」
ブンッ
「おおおおお!? 目が回ってるぅぅ!!」
「それ、動かしたらダメなやつぅぅ!!」
バチィィィン!!
爆音とともに煙が上がった。
計算機は見事に沈黙した。
「……動かなくなった」
「リリィ、触った?」
「はいっ! “かわいいボタン”があったので!」
「デザインで選ばないでぇぇ!!!」
セバスはため息をつき、机に新しい帳簿を置いた。
「では、手計算で参りましょう」
「アナログ最強ぉぉ!!」
◇
夕方。
一日の格闘の末、帳簿はついに整理された。
「ふぅ……なんとか、黒字ギリギリ……!」
リリィが涙目で拍手する。
「若様! やりましたね!」
「ほんとに、奇跡的に終わった……」
セバスが静かにうなずく。
「素晴らしい成果でございます。旦那様もお喜びになるでしょう」
……その瞬間。
バァン!!
勢いよく扉が開いた。
例の豪快な声が響く。
「アル! 聞いたぞ! 財政が立て直ったそうだな!」
「はい……なんとか……」
「よし、ではその記念に祝典を開こう!!」
「またぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「名付けて“財政回復祭”だ!」
「絶対やめてぇぇぇ!!!」
リリィがきらきらした目で言った。
「わたし、パン焼きます!」
「ダメぇぇぇ!!!」
父上は満面の笑みで叫んだ。
「明日は盛大に盛り上がるぞぉぉ!!!」
僕は机に突っ伏した。
――この家、祝うたびに赤字になる。
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悪役貴族に転生したけど、魔法がコードにしか見えないのでデバッグしてたら最強になった件 Ruka @Rukaruka9194
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