第17話 財政崩壊!?お金がない!!

数日後。

村の畑に立って、僕は大きく伸びをした。


「……おお、ちゃんと流れてる」


先日の川の整備が功を奏し、土砂は少しずつ取り除かれ、水流が安定してきた。

村の畑は青々と茂り、農民たちは笑顔で収穫している。


「ふふ、やったね……僕のちょっとした提案が役に立ったみたいだ」


この成果を見て、ちょっとだけ胸が熱くなる。

ゲーム時代の悪役貴族・アル様は、こんな穏やかな顔をしてただろうか。

いや、してない。彼はバッドエンド製造機だった。

でも今の僕は、少し違う。


そんな感慨に浸っていると――


「若様ぁーっ!!」

背後から突風と共に、リリィが突進してきた。


「ひゃっ!? ちょ、ちょっと、近い近い!」


「見てください若様! にんじん! 大きくなりましたぁぁ!!」


彼女が抱えてきたのは、まるで腕ほどの太さの巨大ニンジン。

……え、何これ。野菜というより鈍器じゃない?


「ど、どうやったらそんなモンスター級が育つの……」


「がんばって水をいっぱいあげましたっ!」


「……多分あげすぎだよ!」


そこへ、背後からドシン、と地鳴りのような足音。

父上、登場。


「アル! 聞いたぞ! 川の流れが整い、畑が潤ったと!」


あっ、これ絶対褒められるパターン。嬉しい。

でも同時に嫌な予感もする。

父上が“褒める”とき、それは“暴走”の前触れだから。


「よくやった! これは領地の一大功績だ!!」


「え、えへへ……いや、そんな……」


「よし! 祝いだ!!」


「祝い……?」


父上の目がキラーンと光った。


「収穫を祝う祭りを開くぞ!!」


「えぇぇぇぇ!? ま、祭りぃぃぃ!?」


セバスが一歩前に出て淡々と補足する。


「旦那様、祭りとは具体的に……?」


「決まっている! 花火だ! 屋台だ! 歌姫だ! そして――像を建てる!!」


「ぞ、像!?」


僕の脳内に、石像バグの記憶(※ゲーム時代、調子に乗った悪役が自分の像を建てて嫌われた)が蘇る。


「父上! 待って! そんな大げさなことしたら、村人の税金が! 予算が!!」


「心配するな! 全部私の懐から出す!!」


「いやそれはそれで金銭感覚バグってる!!」


セバスが軽く咳払いして言った。


「旦那様、開催まで三日は必要でございます」


「ならば三日でやる!! 全力でな!!」


リリィが目を輝かせる。


「わぁぁ! お祭りですか!? 私、屋台のお手伝いします!!」


「君がやると爆発する未来しか見えない!!」



三日後。グラシア領、収穫祭当日。


僕は村の広場で、完成した“祭り会場”を見て絶句した。


「……なんか、もう王都級の規模になってない?」


色とりどりの旗、屋台、楽団。

そして中央には――


「アル・フォン・グラシア像……!」


五歳児にして銅像デビュー。やめてほしい。

しかも笑顔でリンゴを掲げてる。ポーズが妙に勇ましい。


「どうだ、アル! 立派な像だろう!」


父上が満足げに腕を組む。

その隣でセバスが静かに頭を抱えていた。


「旦那様……わずか三日でここまでとは……」


「金は力だ!!」


「力の使い方間違ってるよぉぉぉ!」


リリィは屋台の前で「いらっしゃいませー!」と張り切っていた。

……が、既にポンコツフラグが立っているのは明白だ。


「リリィ、なに売ってるの?」


「焼きトウモロコシです! 焦げ焦げですけど!」


「もうそれ炭!!」


「だ、大丈夫です、香ばしいです!」


「香ばしいにも限度があるよ!!」


おまけに風が吹いて、炭が飛び散り、通りすがりの父上のマントにパチッと火花が――


「おお! 情熱的だな!!」


「父上、燃えてる燃えてるぅぅぅ!!」


セバスが無言でマントを払って消火。

もう完全にカオスである。



その後も父上は勢い止まらず。


「花火を百発打ち上げよ! 夜空を焦がせ!!」


「いや! 村が焦げるからやめてぇぇぇ!!」


「酒を配れ! 踊れ! 笑え! 我が息子の偉業を讃えよ!!」


「父上、ちょっと落ち着いて! これ僕の功績っていうか、村の皆のおかげだから!」


「ならば皆で祝う! それが領主の喜びよ!」


……うん。

言ってることは正しい。やってることが極端すぎるだけだ。


周囲では村人たちが笑顔で踊り、子どもたちが駆け回っている。

リリィは相変わらず屋台を爆破しかけているけど、なんだかんだで楽しそうだ。


「……ま、結果オーライ、なのかな」


「若様ぁぁぁぁぁぁ!」

どこからともなくリリィの叫び声。

振り返ると、焼きもろこし機(なぜか回転式)から炎が吹き上がっていた。


「ギャーー!! やっぱりオーライじゃなかった!!」


セバスが素早く鎮火し、父上は「勢いがあって良い!」と大笑い。

僕の胃だけが限界を迎えていた。


「……お祭り、楽しいけど、寿命が縮む……」


空を見上げると、夜空に打ち上がる花火。

ドドーン、と大きな音が響く。


リリィが隣で微笑んだ。


「若様、きれいですね……」


「うん。……まあ、悪くないかも」


その瞬間、ドガァンッ!!!


「きゃああああああ!! ま、また爆発しましたぁぁぁ!!」


リリィの屋台から炎柱。

焦げたトウモロコシが夜空に打ち上がる。

父上はそれを見て――


「おおっ!! 花火が増えたぞ!! 素晴らしい!!」


「違う違う違う!! それ野菜だから!! 非常事態だからぁぁ!!」


セバスは無言で消火器を装填、僕は頭を抱える。


「……なんで毎回こうなるの……」


「若様ぁぁぁ! これも成功ですよぉぉぉ!」


「どの辺が!? 何が!? 具体的に!!?」


リリィの必死の笑顔と、父上の爆笑、セバスの冷静な火消し。

その中心で僕だけが叫んでいた。


「僕、ただ川を整備しただけなのにぃぃぃ!!」


夜空に花火と焦げコーンが打ち上がる中、

グラシア領の収穫祭は――盛大すぎるバグを残して幕を下ろした。







朝日が昇る頃、僕は机に突っ伏していた。


「……夢じゃなかったんだな……」


祭り。銅像。花火。屋台の爆発。

全部現実。全部経費。

全部、父上のポケットマネーだと思っていた。


――思っていたんだよ。


「若様、こちらが本日の報告書でございます」


セバスが淡々と帳簿を差し出す。

……いやな予感しかしない。


「……どれどれ……う、うわぁぁぁぁ!!」


開いた瞬間、視界が真っ白になった。


「な、なんで赤字の山ぁぁぁ!? なにこれ!? 祭りなのに血の海!!」


セバスが眼鏡を押し上げ、冷静に答える。


「旦那様の“ポケットマネー”は、“領主予算”と同義でございます」


「は!? つまり領地のお金じゃん!! 完全に領民の税金から出てるじゃん!!」


「はい。非常にダイナミックな予算運用でございました」


「それただの浪費ぃぃぃ!! 経営破綻一直線!!」


ちょうどその時、ドアが勢いよく開いた。


「アルよ、見たか! 昨夜の祭り、見事だったな!」


現れたのは、破産寸前の原因こと、父上。


「父上ぇぇぇ!! 領地の財布がスッカラカンなんですけどぉぉ!!」


「はっはっは! 金は天下の回り物だ!」


「どこの世界でもそんな物理法則聞いたことないよぉぉ!!」


「よいではないか。皆が笑顔だった。笑顔こそ最高の投資!」


「精神論で経済は回らないの!! それバグってるの!!」


父上はどこ吹く風。

一方、セバスは書類を広げ、冷静に地獄を提示した。


「こちら、昨夜の出費内訳です。屋台設置費、花火百発、銅像製作費、爆発損害補償……」


「補償まで出てるぅぅぅ!? うちのメイドが原因の損害までぁぁ!!」


「申し訳ありません若様ぁぁぁ!!」

リリィが机の影から飛び出してきた。

泣きながら頭を下げ、手に何か握っている。


「これ、弁償しようと思って……貯めてたお小遣いです……!」


「リリィ……これ、三枚の銅貨じゃん!! 桁が違う!! 気持ちは嬉しいけど焼け石に水!!」


「すみませんぃぃぃ!!」


「泣かないで! 泣かれるとツッコミに罪悪感が出る!!」


父上はそんな修羅場を見て、うんうんと満足げに頷いた。


「良いぞ、皆で苦労を分かち合うのが家族だ!」


「父上が原因なんですよぉぉぉぉ!!」


セバスが控えめに咳払いをして、現実を告げる。


「旦那様、現状の予算では、来月の兵糧と道路整備が滞ります」


「……え、普通に危機じゃん」


「では、どうするアル?」


「なんで僕に振るの!? 五歳児だよ!? まだ九九も怪しいよ!?」


「領主の器を試す時だ!」


「試すなぁぁぁぁ!!」


とはいえ、放っておくわけにもいかない。

僕は渋々、帳簿を手に取った。


「うう……まるでコードがぐちゃぐちゃにスパゲッティ化したバグ案件だ……」


セバスが小さく笑った。


「若様、こちらが主要支出の一覧です。無駄な経費を削れば、再建の糸口は見えるかもしれません」


「……削る、ね。えーっと、どれが無駄なんだろ……」


ぱらぱらとめくっていくと、妙な項目が。


「『父上のマント新調費 金貨百枚』」


「必要経費だ!」


「高すぎるよ!! 何でマントに城買える額使ってんの!!」


「領主の威厳は外套から始まる!」


「始まらない! まず財布からだよ!」


リリィが横から口を挟む。


「あの、若様……この『豪華昼寝ソファ代』もいりませんよね?」


「昼寝ソファ!? 誰の!?」


「旦那様の」


「削除ぁぁぁ!!」


バサッと帳簿を叩き、ペンでぐるぐるっと消す。

こうして、僕の“領地デバッグ作業”が始まった。



数時間後。


「ふぅ……なんとか見直せた……」


「若様、見事な削減でございます」

セバスが頷く。

父上は腕を組んで感心したように笑った。


「うむ、さすが我が息子。立派な領主だ!」


「いや、普通に浪費がバグってただけですからね!? 常識を直しただけ!!」


「よし! 祝いに宴を開こう!」


「反省しろぉぉぉ!!」


ドカーン!!

――その瞬間、廊下の向こうから爆発音。


「ひゃあああああ!! ま、またやっちゃいましたぁぁぁ!!」


リリィの悲鳴。

そして焦げたマント姿のセバスが、無言で現れた。


「……今度は何を……?」


「紅茶を淹れようとしたら、やかんが……」


「爆発ってどういう淹れ方したの!?!?」


父上は豪快に笑い、肩を叩いた。


「はっはっは! 良いではないか! 笑いがある限り、この家は安泰だ!」


「いや、財布が安泰じゃないの!!」


僕の絶叫が、公爵邸に響き渡った。




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「バグだらけのスキルを授けてきたポンコツ女神を完全論破し、ハイスペックAIの相棒と異世界のルールをハッキングして成り上がる。目標は、神々の運営する理不尽なクソゲー世界からのログアウトだ」


https://kakuyomu.jp/works/822139836293989015


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