第4話 初めての魔法


 四歳になったある日、僕の人生(四年目)にして最大のイベントが訪れた。


 ――魔力テスト。


 貴族の子供なら誰もが受ける一大行事である。

 専用の魔法陣に手を置き、どれくらい魔力を持っているかを調べる。

 数値が高ければ将来有望、低ければ「平凡」認定。

 家族にとっては超大事、子供にとってはただの試験だ。


 「アル様、準備はよろしいですか?」

 神官っぽい白ローブのおじさんが、仰々しく僕に微笑みかけてくる。


 「うん。……っていうか、これ、どう見てもバグってるんだけど」


 床に描かれた魔法陣を見て、僕は思わずつぶやいた。

 他の人には美しい幾何学模様に見えるんだろう。

 でも僕には違った。


 ――ただのコードだ。

 それも、ぐちゃぐちゃに書き散らかされた、素人丸出しのスパゲティコード。


 「if文がネストしすぎてるし……。このループ、絶対止まらないやつだろ」


 泣きたいのはむしろ僕だ。

 この世界の魔法、どう見てもバグだらけじゃないか。


 「では、アル様。手を」

 神官のおじさんが促す。


 僕は小さな手をおそるおそる魔法陣に置いた。

 瞬間――青白い光がふわりと浮かび上がり、空気がピリピリ震えだす。


 「わ、やっぱりコードが流れ込んでくる……!」


 僕の頭の中で、デバッグ画面がバンッと開いた。

 しかも真っ赤なエラーメッセージがずらっと並んでいる。

 「え、こんなの普通の子供に見えないんだよね!? 僕だけだよね!?」


 恐る恐る、一か所だけ修正してみた。

 無限ループになってるfor文を削除。


 ――結果。


 「――っぎゃあああああああ!?」


 床一面が稲妻のように輝き、窓ガラスがガタガタ震える。

 シャンデリアがキィキィ揺れ、メイドたちが「キャー!」と悲鳴をあげる。


 「え、え? 僕なんもしてない! ちょっとfor文削っただけなのに!」


 いや、してるんだよな。冷静に考えたら。


 バタン!

 勢いよく扉が開き、母が飛び込んできた。


 「アル! なにしてるの!?」


 その後ろから、堂々とした父の声。


 「フハハハハ! さすが我が息子!」


 なんで拍手してんだよ!?

 どっちが正しい反応なんだよ!?


 「ち、違う! 僕のせいじゃなくて、元からコードがめちゃくちゃで!」

 必死に言い訳する僕。


 「……コード?」

 母が眉をひそめる。


 「よくわからんが、アルがすごいことをしたのは間違いない!」

 父はさらにドヤ顔を強化。


 「いやいや、マジで違うから! 僕はただの被害者だから!」


 でも現実は待ってくれない。

 光はどんどん強くなり、シャンデリアの鎖がギシギシ音を立てる。


 「シャンデリアが落ちます!」

 「アル様が世界を滅ぼす気です!」

 侍女たちが大騒ぎだ。


 「滅ぼさない! 僕、そんな気まっっったくないから!!」


 仕方なく、もう一度コードを覗き込む。

 ……ああ、やっぱり。while文が止まってない。

 強制終了コマンドを突っ込んで――


 「break!」


 僕がそう呟いた瞬間、


 ――ピタッ。


 嵐のような光が消え、部屋は静寂に包まれた。


 「……ふう。デバッグ完了」


 小声でそうつぶやくと、場にいた全員が固まった。


 「で……でばっぐ?」

 神官のおじさんが口をあんぐり。


 「よくわからんが……アル、お前は天才だ!」

 父は腕を組んで満足げにうなずく。


 「もう二度と魔法なんて触っちゃダメよ! 絶対だからね!」

 母は涙目で僕を抱きしめてくる。


 ……評価が正反対すぎて困る。


 こうして僕は、初めての魔法で「家族と使用人をパニックに陥れる」という前代未聞の成果を叩き出し、

 公爵家史上最も規格外の子供として噂されることになったのだった。

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