聖女を見つけた人が次の王になるらしいですが、ハンカチ作りが好きな私は王女のメイドとして働くことになりました

KMY

本編

プロローグ

「よくぞ来た、わが息子よ」


国王は、普段通りの城の大広間の中で、我が子に告げていた。

左から順に、第一王子アベル。第二王子マシュー。第三王子トマ。


アベルは第一王子でありながら騎士団でも訓練を積んでいる。短い黒髪ですらっとした体格ながらそこから引き出される力は常人の比ではない。

マシューは王らしい金髪であり、次の国王として有望視されているアベルをライバルとして見て、最近は政治の勉強に励んでいる。

トマは、アベルやマシューとは正反対の温厚な人だ。王位には興味こそ示していないが、ときたび王都の街で平民と交流しており、人望もある。


「最近、この王都に聖女がいるという噂はお前らも知っているな?」

「はい!」


アベルが勢いよく返答する。


この王都では最近、とあるハンカチが話題になっている。

それを手に入れた人は病気が治るとか、身体能力が上がるとか、試験に合格できるとか、王都から出ても魔物に襲われないとかなんだの‥‥。

当然、そのハンカチを手に入れたい人が殺到。貴族を中心に、半年後、ひどいところでは3年後まで予約待ちになっている。


そのハンカチはすべて、たった1人の人間が作って、各所の店に卸している。

店によってハンカチのデザインや大きさは違い、効能も微妙に異なるが、魔除けの能力は共通している。

しかしどこの店主も、その人物の住所は知らない。卸業者の住所などいちいち聞く必要がないからだ。

貴族から所在を問われた時も答えていない。その人物を独り占めにされてこれ以上商売できないと考えた店主たちによる、暗黙の協定である。


「この国では200年に一度、魔物を排除し国を豊かにする聖女という存在が繰り返し現れている。しかし、まもなく前回から200年経つというのに、聖女の気配は一向に現れない。そこにあの噂だ。聖女を先に捕まえ、教会で証明させることのできた人に聖女を妃に迎えてもらい、王太子とする。配下の者が捕まえれば、その者の主を王太子としよう。お前たちのどれにも属さない者が捕まえれば、その者に王太子を選んでもらおう」


この国では伝統的に、聖女と結婚したものは必ず国王となっている。慣習であって決まりではないが、例外はないのだ。なので聖女と結婚したものは次の王とみなされる。国王もそれに倣って告げたにすぎない。


「あ、あの‥」


国王が威勢よく話している横で、トマがおそるおそる手を挙げる。


「なんだね、トマ」

「この場にお姉様がいないようにお見受けしますが‥‥」

「ああ、ジュリーか‥‥‥‥結婚と言われても女だしな、伝えても困るかと思ったが‥‥‥‥一応継承権はある、後で伝えておく。他にないなら行け!」


アベルとマシューは「はい!」と力強く叫んで、我先にと駆け出す。

トマはふうっとため息をついて、国王にもう一度発言する。


「お姉様にお伝えする任、僕がお受けします」

「いいのか? そのぶんトマの準備に時間かかると思うが‥‥」

「いいんです」

「トマは欲がないな。それもトマのいいところだが、ただ優しいだけだと王を任せるには心細い。肝に銘じておきなさい」

「‥‥分かっています」


トマは一礼し、貴族らしく慌てず落ち着いて大広間を出ていった。

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