第11話「新クエスト発生!」

​ 僕の目の前に浮かび上がる、【受け入れる】と【受け入れない】の選択肢。


 魂共鳴ソウルリンク……。


​ 僕は迷わず【受け入れる】のボタンを選択した。


​ その瞬間、僕とコンの体が淡い光に包まれる。


 そして、荘厳なシステムアナウンスが僕の意識に直接響き渡った。


​《魂共鳴ソウルリンクが成立しました》

《今後、プレイヤー“マオ”と神獣“コン”は、各スキルを共有します》

魂共鳴ソウルリンクの祝福により、あなたの成長テーブルが【神獣】へと変更されました》


​ アナウンスが終わると、止まっていた時間が再び動き出す。


 僕たちを包んでいた光が、スウッと体の中に吸い込まれた。


 彼女は黄金色の瞳をキラキラと輝かせて、僕を見上げている。


​「マオ、嬉しい……! 受け入れてくれてありがとう!」


​ そう言ってコンは、僕の胸にグリグリと顔を埋めてくる。


 もふもふで気持ちいいし、何より喜んでくれたみたいで良かった。


​「二人とも、何してるんだー?」


​ 不思議そうに、ゴブリンの子どもたちが尋ねてきた。


 その問いに、コンは僕の腕の中から顔を上げて、満面の笑みで答えた。


​「私とマオが、結ばれたんだよっ!」

「「「わっ! コンがしゃべったー!?」」」


​ 僕が通訳するより先に、コンの言葉が直接ゴブリンたちに届いた。


 ゴブリンの子どもたちは目を丸くして、一斉に驚きの声を上げる。


 すごい。本当にコンも《魔物通訳》を使えるようになったみたいだ。




​ それから僕とコンは、ゴブリンたちの“父ちゃん”に挨拶をしに行った。


​「おう、マオ! よく眠れたか?」

「はい。おかげさまでグッスリでした」

「そうかい、そりゃ良かった。して、この後は何か予定でもあるのか?」

「いえ、特に何もないです」

「そうか。だったらウチのせがれに、この辺りを色々案内させてやる。おい、ゴブオー! ゴブオはおるかー!」


​ 父ちゃんが洞窟中に響き渡るような大声で叫ぶと、遠くから一人のゴブリンが走ってきた。


 あ。この前コンを追いかけていた、ゴブリンたちのリーダーだ。


​「どうしたんだ、父ちゃん?」

「ゴブオお前、マオたちを連れて森を色々案内してやれ」

「おっ、マオ起きたのか! わかったよ、父ちゃん!」


​ ゴブオと呼ばれた彼は、ニカッと人の良い笑みを浮かべる。


​「ゴブオ、よろしくね」

「おう! この辺は俺の庭みたいなもんだからな。任せとけ!」


​ こうして僕たちはゴブオの案内で、森の中を探検することになった。



​◇


​「あそこに見えるのがドラゴンの巣だ。夜になると大体帰ってくるぜ」

「へぇー、すごい……!」

「で、あっちの谷の向こうがオークどもの縄張りだ。あいつらとは仲良くないから、近寄らない方が良い」

「うん、わかった」


​ ゴブオの説明はとても分かりやすい。


 現実の世界でこんな風に森の奥深くを歩くことなんて、まずないだろうな。

 澄んだ空気と草木の匂いに、時折聞こえる鳥の鳴き声。すごく気持ちがいい。


​「よし! 次は、すげえ公園に連れてってやるよ!」

「公園?」

「ああ! 色々面白い形の建物がある、最高の遊び場なんだ!」


​ ゴブオは僕とコンを手招きして、自信満々に森の奥へと進んでいく。


(どんな公園なんだろう。昔の人が作ったアスレチックか何かかな?)




​ しばらくゴブオの案内に従って森を進んでいくと、急に視界が開けた。


​「着いたぞ! ここが俺たちの公園……あれ?」


​ ゴブオが指し示した森を抜けた先にあったのは、面白い公園!


 ――ではなく、木々が立ち枯れて地面がドロドロにぬかるんだ、薄暗い湿地だった。


​「おかしいな……? ここには格好いい石の像とか、面白い建物がいっぱいあったんだけど……」

「ドロドロだね、マオ」


​ 僕たちがそんな風に困惑していると、ゴゴゴゴゴッ……とすぐ目の前の地面が地震のように盛り上がった。


 そして泥の中から、巨大な黒い人影がゆっくりと姿を現した。


​『……なんだお前たちは。……敵か?』


​ それは僕の背丈の二倍はあろうかという、巨大なゴーレムだった。

 全身が真っ黒な岩でできていて、表面には不思議な模様が刻まれている。


​「敵じゃないですよ! ただの通りすがりです!」


​ 僕が慌てて両手を振って否定すると、ゴーレムは興味を失ったように、ゆっくりとまた泥の中に体を沈めていった。


​『……そうか。……では、構わん』


​ そしてゴーレムは再び、ぬかるんだ地面に寝転がってしまった。


 周りをよく見ると、同じような巨大なゴーレムが10体ほど、ゴロゴロと寝転がっていた。


​ コンが僕の隣で心配そうに呟いた。


「ねぇマオ。なんだか、みんな元気ないみたいだね?」


 泥に寝そべっていたゴーレムは、ゆっくりと顔だけをこちらに向けた。


​『ここは我ら“ゴーレム建設団”の作業場だった。多くの作品を作り、一般公開していた。だが……』

「だが?」


​ ゴーレムはまるで深いため息をつくかのように、その体からブシュッと泥水を噴き出した。


​『数日前からここに水が流れ込み、この有り様だ。我らの作品も、全て流されてしまった』

「そうなんですか……」

『……ああ。そして水は今も流れてきている。我らはこの土地を捨てねばなるまい。……気に入っていたのだがな』


​ 自分の住処が、水浸しになってしまったのか。すごく可哀想だな……。


​「ねぇ、どうして急に水が流れてくるようになったの?」コンがゴーレムに尋ねた。


『さぁ……。そんなことは、我らにはわからん』

「調べてないの?」

『……調べる? ……そんなこと、考えもしなかったな』


​ ゴーレムは少しだけ驚いたように、ゆっくりと答えた。

 そっか。彼らは建築のプロだけど、原因究明とかは専門外なのかもしれない。


​「あの、もし良かったらですけど……。何で水が流れてくるようになったのか、一緒に調べてみませんか?」


​ 僕がそう提案すると、ゴーレムはその岩のような顔をマジマジと僕の方に向けた。


​『……我らに、協力してくれるのか?』

「はい。なにか力になれることがあるなら」


​ 僕が頷くと、ゴーレムは数秒間黙り込んだ後、その巨大な体を泥の中から起こした。


 そしてその瞬間。

 僕の頭の中にアナウンスが響いた。


​《特殊クエスト【ゴーレム建設団の住処を取り戻せ!】が発生しました。受注しますか?》

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