第11話「新クエスト発生!」
僕の目の前に浮かび上がる、【受け入れる】と【受け入れない】の選択肢。
僕は迷わず【受け入れる】のボタンを選択した。
その瞬間、僕とコンの体が淡い光に包まれる。
そして、荘厳なシステムアナウンスが僕の意識に直接響き渡った。
《
《今後、プレイヤー“マオ”と神獣“コン”は、各スキルを共有します》
《
アナウンスが終わると、止まっていた時間が再び動き出す。
僕たちを包んでいた光が、スウッと体の中に吸い込まれた。
彼女は黄金色の瞳をキラキラと輝かせて、僕を見上げている。
「マオ、嬉しい……! 受け入れてくれてありがとう!」
そう言ってコンは、僕の胸にグリグリと顔を埋めてくる。
もふもふで気持ちいいし、何より喜んでくれたみたいで良かった。
「二人とも、何してるんだー?」
不思議そうに、ゴブリンの子どもたちが尋ねてきた。
その問いに、コンは僕の腕の中から顔を上げて、満面の笑みで答えた。
「私とマオが、結ばれたんだよっ!」
「「「わっ! コンがしゃべったー!?」」」
僕が通訳するより先に、コンの言葉が直接ゴブリンたちに届いた。
ゴブリンの子どもたちは目を丸くして、一斉に驚きの声を上げる。
すごい。本当にコンも《魔物通訳》を使えるようになったみたいだ。
◇
それから僕とコンは、ゴブリンたちの“父ちゃん”に挨拶をしに行った。
「おう、マオ! よく眠れたか?」
「はい。おかげさまでグッスリでした」
「そうかい、そりゃ良かった。して、この後は何か予定でもあるのか?」
「いえ、特に何もないです」
「そうか。だったらウチの
父ちゃんが洞窟中に響き渡るような大声で叫ぶと、遠くから一人のゴブリンが走ってきた。
あ。この前コンを追いかけていた、ゴブリンたちのリーダーだ。
「どうしたんだ、父ちゃん?」
「ゴブオお前、マオたちを連れて森を色々案内してやれ」
「おっ、マオ起きたのか! わかったよ、父ちゃん!」
ゴブオと呼ばれた彼は、ニカッと人の良い笑みを浮かべる。
「ゴブオ、よろしくね」
「おう! この辺は俺の庭みたいなもんだからな。任せとけ!」
こうして僕たちはゴブオの案内で、森の中を探検することになった。
◇
「あそこに見えるのがドラゴンの巣だ。夜になると大体帰ってくるぜ」
「へぇー、すごい……!」
「で、あっちの谷の向こうがオークどもの縄張りだ。あいつらとは仲良くないから、近寄らない方が良い」
「うん、わかった」
ゴブオの説明はとても分かりやすい。
現実の世界でこんな風に森の奥深くを歩くことなんて、まずないだろうな。
澄んだ空気と草木の匂いに、時折聞こえる鳥の鳴き声。すごく気持ちがいい。
「よし! 次は、すげえ公園に連れてってやるよ!」
「公園?」
「ああ! 色々面白い形の建物がある、最高の遊び場なんだ!」
ゴブオは僕とコンを手招きして、自信満々に森の奥へと進んでいく。
(どんな公園なんだろう。昔の人が作ったアスレチックか何かかな?)
◇
しばらくゴブオの案内に従って森を進んでいくと、急に視界が開けた。
「着いたぞ! ここが俺たちの公園……あれ?」
ゴブオが指し示した森を抜けた先にあったのは、面白い公園!
――ではなく、木々が立ち枯れて地面がドロドロにぬかるんだ、薄暗い湿地だった。
「おかしいな……? ここには格好いい石の像とか、面白い建物がいっぱいあったんだけど……」
「ドロドロだね、マオ」
僕たちがそんな風に困惑していると、ゴゴゴゴゴッ……とすぐ目の前の地面が地震のように盛り上がった。
そして泥の中から、巨大な黒い人影がゆっくりと姿を現した。
『……なんだお前たちは。……敵か?』
それは僕の背丈の二倍はあろうかという、巨大なゴーレムだった。
全身が真っ黒な岩でできていて、表面には不思議な模様が刻まれている。
「敵じゃないですよ! ただの通りすがりです!」
僕が慌てて両手を振って否定すると、ゴーレムは興味を失ったように、ゆっくりとまた泥の中に体を沈めていった。
『……そうか。……では、構わん』
そしてゴーレムは再び、ぬかるんだ地面に寝転がってしまった。
周りをよく見ると、同じような巨大なゴーレムが10体ほど、ゴロゴロと寝転がっていた。
コンが僕の隣で心配そうに呟いた。
「ねぇマオ。なんだか、みんな元気ないみたいだね?」
泥に寝そべっていたゴーレムは、ゆっくりと顔だけをこちらに向けた。
『ここは我ら“ゴーレム建設団”の作業場だった。多くの作品を作り、一般公開していた。だが……』
「だが?」
ゴーレムはまるで深いため息をつくかのように、その体からブシュッと泥水を噴き出した。
『数日前からここに水が流れ込み、この有り様だ。我らの作品も、全て流されてしまった』
「そうなんですか……」
『……ああ。そして水は今も流れてきている。我らはこの土地を捨てねばなるまい。……気に入っていたのだがな』
自分の住処が、水浸しになってしまったのか。すごく可哀想だな……。
「ねぇ、どうして急に水が流れてくるようになったの?」コンがゴーレムに尋ねた。
『さぁ……。そんなことは、我らにはわからん』
「調べてないの?」
『……調べる? ……そんなこと、考えもしなかったな』
ゴーレムは少しだけ驚いたように、ゆっくりと答えた。
そっか。彼らは建築のプロだけど、原因究明とかは専門外なのかもしれない。
「あの、もし良かったらですけど……。何で水が流れてくるようになったのか、一緒に調べてみませんか?」
僕がそう提案すると、ゴーレムはその岩のような顔をマジマジと僕の方に向けた。
『……我らに、協力してくれるのか?』
「はい。なにか力になれることがあるなら」
僕が頷くと、ゴーレムは数秒間黙り込んだ後、その巨大な体を泥の中から起こした。
そしてその瞬間。
僕の頭の中にアナウンスが響いた。
《特殊クエスト【ゴーレム建設団の住処を取り戻せ!】が発生しました。受注しますか?》
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