第7話「ワールドアナウンス」

《特殊クエスト【ゴブリンの宝探し】が発生しました。受注しますか?》


 またクエストだ。でも、もう手伝うと決めている。

 僕は迷わず【受注する】のボタンを押した。


​「よし、頑張って探しましょう!」

「「「おおーっ!」」」


​ 僕がゴブリンたちと気合を入れていると、コンが尋ねてきた。


​「ねぇ、宝物を探すの? 私も手伝うよ!」


​ 見ると、その黄金色の瞳がキラキラと輝いていた。


​「私、なんだか役に立てる気がするの!」




​ 僕たちはリーダーのゴブリンを先頭に、森の中を進み始めた。


 しかし、歩き出してすぐに僕は一つの問題に気づく。


​【ゴブリン Level:■■】【ゴブリン Level:■■】【ゴブリン Level:■■】……


​ 僕の視界にゴブリンたちのステータスがずっと表示されている。


(この表示、邪魔だな……)


​ これ、出ないようにできないのかな? 僕は「設定」と念じてシステムメニューを開く。


 えーと、ステータス表示の……あった。「他キャラクターのレベル表示をオフにする」これだ。


​ 設定を変えるとゴブリンたちを覆っていた表示が消えて、みんなの表情がよく見えるようになった。うん、この方が良いね。


​ しばらく森の中を進むとゴブリンたちが立ち止まった。


​「この辺りが俺たちの縄張りだ。父ちゃんの宝物も、この近くにあると思うんだけど……」

「どの辺にありそうですかね?」

「うーん……それが分かれば苦労しねえんだ……」


​ ゴブリンたちが唸っていると、僕の足元を歩いていたコンがクイッとズボンの裾を引いた。


​「ねぇマオ。その宝物って、どんなのなの?」


 僕は、さっきゴブリンに聞いた特徴をコンに教える。


「なんでも僕の手の平くらいの大きさで、緑色のまん丸い玉なんだって。ちなみにこれが、持ち主の匂いがする手ぬぐいみたい」


​ 僕はゴブリンから「手掛かりになるはずだ!」と渡された布切れをコンに見せた。


 コンはその布の匂いをフンフンと嗅いだ後、ピタリと動きを止め、目を瞑って何かに集中し始めた。


​「むむむ……この匂いと……魔力の感じから辿っていくと……あっ見えた!」

「ほんとっ!?」

「うん! ここから少し歩いたところに、ツボがいっぱい並んでる場所があるでしょ? その中の一つに入ってるみたいだよ!」


​ おお、すごいぞコン!  僕はその情報をゴブリンたちに伝えた。


​「ツボの中……? あっ、あそこか!?」


​ ゴブリンたちの顔が一斉に輝いた。

 彼らは一目散に走り出し、僕とコンもその後を追う。

 しばらく走ると崖を削ってできたような洞穴にたどり着き、その中に沢山のツボが並んでいた。


​「あったーっ! あったぞー!!」


​ ゴブリンの一人が、ツボの中から緑色の水晶玉を掲げて叫ぶ。


 ゴブリンたちは大喜びで、みんなで輪になって踊り始めた。うん、ちょっと可愛くて和むな。


​「マオさん、子狐ちゃん! ホントにありがとう! さあ、父ちゃんにこれを届けに行こう!」


​ 僕たちは歓喜に沸くゴブリンたちに案内されて、彼らの集落へと向かうことになった。


 その道すがら、僕は隣を歩く小さな功労者にお礼を言う。


​「コン、君のおかげで助かったよ。ありがとうね」


​ 僕がそう言うと、コンは嬉しそうに、そして少しだけ誇らしげに胸を張った。


​「ううん。私もみんなの役に立てて嬉しかった。こちらこそありがとね、マオ!」


​ 僕たちは顔を見合わせて、ニッコリと笑いあった。




​ ゴブリンについて森を抜けると、巨大な岩壁に沿って作られた大きな集落の入り口が見えてきた。


 その手前にある開けた場所で、ゴブリンたちが嬉しそうに声を上げた。


「「「あっ、父ちゃーん!」」」


​ その視線の先に立っていたのは、今まで見た中で一番巨大なゴブリンだった。すごく大きい。3メートルくらいあるかもな……?


​「おぅ、おめーらか。どこほっつき歩いてたんだ?」

​「父ちゃん! この人が父ちゃんの宝物を見つけてくれたんだ! マオさんって言うんだ!」

「は、はじめまして。マオです」


​ 僕が頭を下げると、父ちゃんは豪快に笑った。


​「おお、そうか! 失くして困ってたのよ。よくみっけたな!」

「はい。洞穴のツボの中に落ちていました」

「ツボ……?  ああ、そういえば漬物を作った時、匂いが漏れんように“蓋”をしとったんだったわ! あんがとな、マオとやら!」


​(蓋……。なんか、そんなに大事なものじゃなさそうだな……?)


​ 宝物を受け取った父ちゃんは、上機嫌で続ける。


​「いやー助かった。これがないと色々不便でな……って、あれ?」


​ 父ちゃんは受け取った緑色の水晶玉を何気なく覗き込み、ふと動きを止める。


 そして僕たちの背後にある森の一角を、ジロリと睨んだ。


​「あー、なんかが入ってきとるな。おいミチオ! ミチオはおるかー?」


​ その声に応え、集落の入り口から一人のゴブリンがスッと姿を現した。

 他のゴブリンたちとは違う青っぽい肌にスラリとした長身。赤いスカーフを巻いているお洒落なゴブリン。あれがミチオさんか。


​「父君、お呼びでしょうか」

「おうミチオ。あっちの方角にが入ってきとる。……9匹ほどな。何人か連れてと行ってとやってこい」

「はっ。承知いたしました」


​ ミチオさんは即答すると、周りにいたゴブリンたち何やら指示を出し始めた。


​「してミチオ! 帰りに洞穴から酒と一番美味い漬物を持ってきてくれ。今からマオと宴をやるから大至急で!」

「……御意。では行ってまいります」


​ ミチオさんたちはあっという間に森の奥へと消えていった。すごいスピードだな……。


​「よしマオ! 中に入れ、宴だ! ゴブリン秘伝のご馳走を振る舞ってやる! そこの子狐ちゃんも遠慮せず食っていけ!」

「……コン、ご馳走だってさ。食べていく?」

「え、いいの!? 私、お腹ペコペコ!」


​ こうして僕とコンは、ゴブリンの集落の中へと入っていった―――。

​《特殊クエスト【ゴブリンの宝探し】を達成しました!》

《クエスト達成ボーナスとして、【高難度交流経験値】を120,000ポイント獲得しました》

《経験値が規定値に達しました。キャラクターレベルが 17 から 29 に上がりました》

《ジョブ【通訳】のレベルが 8 から 14 に上がりました》

《ジョブスキル【地獄耳】を習得しました》

└ 効果:遠くの物音や小さな声を拾えることがあります。

《ステータスポイントを 60 獲得しました。自動割振を行います》

《称号【キングゴブリンの友】を獲得しました》

《称号効果:ゴブリン族に対するあなたのカリスマ値が大幅に上昇します》



 ゴーン……ゴーン……



​《ワールド・アナウンス:World Canvas Onlineワールド・キャンバス・オンラインをプレイされている全ての冒険者にお知らせ致します》

《世界の理を司る六つの【創世のオーブ】が、その一つ目を世界の前に姿を現しました》

《オーブの名は【真実のオーブ】》

《発見者の偉業を讃え、ここに唯一無二の称号を授けます》

《プレイヤー名「マオ」が、称号【真実の発見者】を獲得しました》


​(ん……?  なんか、いつもと違うアナウンスだったような……?)




――――――――――――――――――――――――――――


あとがき


次回アーサー回です!

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