第7話「ワールドアナウンス」
《特殊クエスト【ゴブリンの宝探し】が発生しました。受注しますか?》
またクエストだ。でも、もう手伝うと決めている。
僕は迷わず【受注する】のボタンを押した。
「よし、頑張って探しましょう!」
「「「おおーっ!」」」
僕がゴブリンたちと気合を入れていると、コンが尋ねてきた。
「ねぇ、宝物を探すの? 私も手伝うよ!」
見ると、その黄金色の瞳がキラキラと輝いていた。
「私、なんだか役に立てる気がするの!」
◇
僕たちはリーダーのゴブリンを先頭に、森の中を進み始めた。
しかし、歩き出してすぐに僕は一つの問題に気づく。
【ゴブリン Level:■■】【ゴブリン Level:■■】【ゴブリン Level:■■】……
僕の視界にゴブリンたちのステータスがずっと表示されている。
(この表示、邪魔だな……)
これ、出ないようにできないのかな? 僕は「設定」と念じてシステムメニューを開く。
えーと、ステータス表示の……あった。「他キャラクターのレベル表示をオフにする」これだ。
設定を変えるとゴブリンたちを覆っていた表示が消えて、みんなの表情がよく見えるようになった。うん、この方が良いね。
しばらく森の中を進むとゴブリンたちが立ち止まった。
「この辺りが俺たちの縄張りだ。父ちゃんの宝物も、この近くにあると思うんだけど……」
「どの辺にありそうですかね?」
「うーん……それが分かれば苦労しねえんだ……」
ゴブリンたちが唸っていると、僕の足元を歩いていたコンがクイッとズボンの裾を引いた。
「ねぇマオ。その宝物って、どんなのなの?」
僕は、さっきゴブリンに聞いた特徴をコンに教える。
「なんでも僕の手の平くらいの大きさで、緑色のまん丸い玉なんだって。ちなみにこれが、持ち主の匂いがする手ぬぐいみたい」
僕はゴブリンから「手掛かりになるはずだ!」と渡された布切れをコンに見せた。
コンはその布の匂いをフンフンと嗅いだ後、ピタリと動きを止め、目を瞑って何かに集中し始めた。
「むむむ……この匂いと……魔力の感じから辿っていくと……あっ見えた!」
「ほんとっ!?」
「うん! ここから少し歩いたところに、ツボがいっぱい並んでる場所があるでしょ? その中の一つに入ってるみたいだよ!」
おお、すごいぞコン! 僕はその情報をゴブリンたちに伝えた。
「ツボの中……? あっ、あそこか!?」
ゴブリンたちの顔が一斉に輝いた。
彼らは一目散に走り出し、僕とコンもその後を追う。
しばらく走ると崖を削ってできたような洞穴にたどり着き、その中に沢山のツボが並んでいた。
「あったーっ! あったぞー!!」
ゴブリンの一人が、ツボの中から緑色の水晶玉を掲げて叫ぶ。
ゴブリンたちは大喜びで、みんなで輪になって踊り始めた。うん、ちょっと可愛くて和むな。
「マオさん、子狐ちゃん! ホントにありがとう! さあ、父ちゃんにこれを届けに行こう!」
僕たちは歓喜に沸くゴブリンたちに案内されて、彼らの集落へと向かうことになった。
その道すがら、僕は隣を歩く小さな功労者にお礼を言う。
「コン、君のおかげで助かったよ。ありがとうね」
僕がそう言うと、コンは嬉しそうに、そして少しだけ誇らしげに胸を張った。
「ううん。私もみんなの役に立てて嬉しかった。こちらこそありがとね、マオ!」
僕たちは顔を見合わせて、ニッコリと笑いあった。
◇
ゴブリンについて森を抜けると、巨大な岩壁に沿って作られた大きな集落の入り口が見えてきた。
その手前にある開けた場所で、ゴブリンたちが嬉しそうに声を上げた。
「「「あっ、父ちゃーん!」」」
その視線の先に立っていたのは、今まで見た中で一番巨大なゴブリンだった。すごく大きい。3メートルくらいあるかもな……?
「おぅ、おめーらか。どこほっつき歩いてたんだ?」
「父ちゃん! この人が父ちゃんの宝物を見つけてくれたんだ! マオさんって言うんだ!」
「は、はじめまして。マオです」
僕が頭を下げると、父ちゃんは豪快に笑った。
「おお、そうか! 失くして困ってたのよ。よくみっけたな!」
「はい。洞穴のツボの中に落ちていました」
「ツボ……? ああ、そういえば漬物を作った時、匂いが漏れんように“蓋”をしとったんだったわ! あんがとな、マオとやら!」
(蓋……。なんか、そんなに大事なものじゃなさそうだな……?)
宝物を受け取った父ちゃんは、上機嫌で続ける。
「いやー助かった。これがないと色々不便でな……って、あれ?」
父ちゃんは受け取った緑色の水晶玉を何気なく覗き込み、ふと動きを止める。
そして僕たちの背後にある森の一角を、ジロリと睨んだ。
「あー、なんかコバエが入ってきとるな。おいミチオ! ミチオはおるかー?」
その声に応え、集落の入り口から一人のゴブリンがスッと姿を現した。
他のゴブリンたちとは違う青っぽい肌にスラリとした長身。赤いスカーフを巻いているお洒落なゴブリン。あれがミチオさんか。
「父君、お呼びでしょうか」
「おうミチオ。あっちの方角にコバエが入ってきとる。……9匹ほどな。何人か連れてワーッと行ってベッとやってこい」
「はっ。承知いたしました」
ミチオさんは即答すると、周りにいたゴブリンたち何やら指示を出し始めた。
「してミチオ! 帰りに洞穴から酒と一番美味い漬物を持ってきてくれ。今からマオと宴をやるから大至急で!」
「……御意。では行ってまいります」
ミチオさんたちはあっという間に森の奥へと消えていった。すごいスピードだな……。
「よしマオ! 中に入れ、宴だ! ゴブリン秘伝のご馳走を振る舞ってやる! そこの子狐ちゃんも遠慮せず食っていけ!」
「……コン、ご馳走だってさ。食べていく?」
「え、いいの!? 私、お腹ペコペコ!」
こうして僕とコンは、ゴブリンの集落の中へと入っていった―――。
《特殊クエスト【ゴブリンの宝探し】を達成しました!》
《クエスト達成ボーナスとして、【高難度交流経験値】を120,000ポイント獲得しました》
《経験値が規定値に達しました。キャラクターレベルが 17 から 29 に上がりました》
《ジョブ【通訳】のレベルが 8 から 14 に上がりました》
《ジョブスキル【地獄耳】を習得しました》
└ 効果:遠くの物音や小さな声を拾えることがあります。
《ステータスポイントを 60 獲得しました。自動割振を行います》
《称号【キングゴブリンの友】を獲得しました》
《称号効果:ゴブリン族に対するあなたのカリスマ値が大幅に上昇します》
ゴーン……ゴーン……
《ワールド・アナウンス:
《世界の理を司る六つの【創世のオーブ】が、その一つ目を世界の前に姿を現しました》
《オーブの名は【真実のオーブ】》
《発見者の偉業を讃え、ここに唯一無二の称号を授けます》
《プレイヤー名「マオ」が、称号【真実の発見者】を獲得しました》
(ん……? なんか、いつもと違うアナウンスだったような……?)
――――――――――――――――――――――――――――
あとがき
次回アーサー回です!
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