第13話 岩をかく女

「岩をかく女」


本格的に絵を描いている姿とは、こういうものなのか。折りたたみの小椅子に座り、イーゼルを立て、傍らに画材を置き、現場で色を付ける。画面の大きさは、F4(333×242)か、F5(350×242)か、案外、描いている絵の感じで大きさの印象が変わることもある。


大胆にも描いている姿を見て、何故か、感動してしまう。

その人は、木と岩と水を描いていた。


幾色も揃ったハーフサイズのパステルで描いている。

両手指は混ざった色で汚れている。


にわか批評家が言う。(もちろん後日のことではある)

─画面全体が、同じ色調になってしまっているね。

そして何よりも、岩がでかいね。岩を気に入っているのかね。


何を一番気に入るかは人それぞれ、何を思い感じるかも人それぞれ。


昔、見ていた光景の中に、油絵を描く人がいた。

いつも岩のような絵を描いていた。

ぶ厚く塗り重ねて、画面が盛りあがっていた。


いつも黙って、岩のような絵を描いていたのだ。

今ここで再び、同じような光景を見て、色が混ざってにごってきている絵が、同じ人物となり、思い出されている。


目の前では、その人は相変わらず、岩を描いている。

木も水も区別つかぬほど混じりこんで、岩ばかり巨大化している。

瞳の小さい、その人は、口をへのじにつぐんだまま黙々と。


辺りは、暗くなりはじめている。

今日は、風が冷たく感じる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る