食物人間 -しょくにん-

シグ

第一章 第一話


「是非に及ばず」 … 織田信長


202X年 核戦争となった第三次世界大戦。

地は荒れ、水は枯れ、海は汚染された。

だが、戦火に釣り合わず、あまりにも多くの人類が生き残った。

人類は史上最大の食糧難に直面した。


そんな食糧難を解決すべく、人間の身体のDNAや細胞を変え、

人間を食料として食べられるように養育することが可能となった。

そんな食べられる人間を 食物人間(しょくもつにんげん) と呼んだ

略して通称 しょくにん という言葉が世間に定着した。


第一章 自由と出会い

第一話

トーキョーエリア シンジュク 11:00

「ブロックAの収穫を開始せよ」

館内に響く放送を聞いて、俺は収穫の準備のために洗浄エリアに向かった。

「A-R-701から900 まで 先に洗浄を済ませてください。」

そう案内されたので、俺は洗浄エリアのコンベアに乗った。当たり前の日常だ。

ちなみに俺の番号はA-R-787 である。

洗浄を済ませると乾燥エリアに向かいコンベアに乗った。

「それでは A-R-701から800まで 順次空いている収穫台の使用をお願いします。」

一番手前の収穫台が開いていたのでそこに乗った。

この身体は収穫されてから元の身体に戻るまでおおよそ2週間もあれば元に戻る。

収穫時に痛みは無い物の、物心がついたばかりの時は恐怖と憂鬱で仕方がなかった。

収穫は、両腕、両脚、身体の身になっている部分の肉をナイフでそぎ落とす。

人間の皮膚を切ったらそれは当然血が出るはずだが、この部分の血は出ない。

なんでも細胞が膨らんでいるだけで、神経も血も存在しないようだ。


「A-R-787 ご苦労様でした。 今回の収穫はおしまいです。」

そういわれたので自分の部屋に戻る前に食堂でご飯を食べることにした。



同じ部屋で過ごしている790番が話しかけてきた。ちなみに部屋は4人部屋だ。

「おーつかれい787 なんか最近、食堂のメニューしょぼく感じないか?」

収穫された身は身の詰まった噛み応えのある味のない豆腐のようなもので、

加工されて味付けされて料理されるらしい。

我々の食事にはしょくにんの料理は提供されてこないのでこれ以上の事はわからない。

なぜ知っているかというと、よく話す警備の石川さんがそう言っていたからである。


「おーい聞いてるか?787」

俺たち食物人間は人口胎盤で育っている段階で細胞やDNAを改造され、

食物人間として産まれ施設で育ってきた。

俺たちは人間にとってみれば家畜も同然だが、意思があるせいか、とても丁寧に扱われる。

他の施設ではどう扱われているか知らないが、ここのスタッフは非常に丁寧だ。

ただ一つ気に食わないのは俺たちを番号で呼ぶことだ。

ただ俺は、A-R-787 Aブロックの R番目の管理グループ 787人目が俺だ。787という数字は気に入っている。

なので787と呼ばれることは実はそれほど嫌じゃない。

図書室においてある資料で見たのだが、むかーし何かの大会で優勝したスポーツカーがあって

その車が787Bという名前だったからだ。


「おい 大丈夫か??」

「あ、ああ済まない 考え事してた。

考えたこともなかったがおかずが一品少ない日がだんだん増えてきたような気がする。

よくそんなことに気が付いたな のぶなが 」

790番は番号で呼ばれることが嫌なようで、自らを のぶなが と名乗っている。

はるか昔、戦国時代に活躍した将軍らしい。その将軍の生き様に惚れて信長の名を彼は名乗っている。

番号で呼ばれるのを嫌がるやつもいれば、俺みたいに番号を気に入るやつ、

そして彼のように自ら名前を名乗るやつもいた。

うちの710は悲惨だ なっとう と呼ばれている。 俺も710番だったら別の名を名乗るだろう。


食事を食べ終え俺たちは部屋に戻った。


「787 俺たちいつまでここにいるんだろう こんな生活を続けるんだろう」

信長が遠くを見るような目でボソッとつぶやいた。

「のぶながよ この生活が不服なのか?」

「不服だね 退屈 実に退屈なのだ

俺は信長のように馬に跨ってこの世界を隅から隅まで巡ってみたい。

そして山 雪 川 海という物に触れてみたいんだ。」

「のぶなが そんなことしたらお前は汚染されて人体に何が起こるかわからないぞ!」

「それでもいい こんなところで飼い殺しされてただ奪われるだけの人生なんて…俺は嫌だ」

そう答えたあと彼は急に喋らなくなり、気が付くと寝息が聞こえてきた。


「飼い殺し…か…ここの生活には不便不服は…特にない…はず

あ、食堂に借りた小説忘れた…明日朝起きたら取りにいかなきゃ」

なにか胸のあたりがざらつくような感覚にとらわれた787 その日は眠りが浅かった。

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