ぼくたちは、同じぼくだから
蒸気
第1話
なにか色々おかしい。
ぼくは電柱に手をついて、よろよろと立ち上がる。
頭が痛い。
手に持っていたワンカップは、アスファルトの道路に転がっていた。
家路を急ぐ人や買い物客が、まるで関わってはいけない人間を見るような目つきでちらちらとこちらを見ては、足早に去っていく。
夕暮れの商店街。
揚げ物屋は夕食用の揚げ物を並べ、おばさんの服を並べた用品店に、歯科クリニック。
見慣れた景色ではあるはずなのに、違和感が眼球の裏にこびりついて離れない。
理由はすぐにわかった。
右手の店、あそこにはパン屋があった。今朝、通勤のときには『ベーカリー西田』という店だった。たまに弁当代わりの昼食を買うから、絶対に間違いない。でもいまは『コインランドリー西田』になっている。パン屋のカウンターは、初めから無かったみたいに取っ払われ、数台のコイン洗濯機が地鳴りみたいな音を、当たり前のように響かせている。
向かいの店もだ。店構えは同じだが、朝は喫茶店だったのに、いまは床屋に。店先に置いてあったメニュー看板が、赤と青と白の回転灯になってくるくる回っていた。
どこだ、ここは。
頭のてっぺん辺りの鈍痛に手をやると、見事なたんこぶができていた。
悠馬にフラれて、飲んだくれて、電柱に衝突して、それから……ぼくはおかしくなってしまったのだろうか。
悠馬は会社の同僚だ。
プロレスラーみたいな体形で、いつもワイシャツとスラックスがパンパンで、よく笑う。ゲイであることを公言してたけど、悠馬はいつだって、誰のまえでも同じ悠馬だった。気さくで、曲がったことが嫌いな悠馬を嫌うやつなんていなかった。
ぼくも悠馬が好きだった。
人としても、性的な意味でも。
ゲイであることは、悠馬を含めて誰にも言っていない。
社内では、ぼくも悠馬に負けず劣らずの陽キャで通っていたから、いつもよく二人でじゃれ合っていた。
悠馬はゲイで、そしてぼくと気が合っていた。
だからぼくは悠馬をちょっとこぎれいなレストランに誘い、一緒にランチして、そして告白した。
付き合ってほしい、ってかるーく伝えた。
絶対受け入れられると思っていた。
でも、ぼくは、フラれた。
「きみがゲイだってことはなんとなくわかっていた。悪いやつじゃないことも知っている。でもきみは本音を言わない。悪いけど、ぼくから見たらただの八方美人だ。本音が見えない。付き合う相手としては信用が置けない。その丸々とした体形も、顔も好きなんだけどね」
ゲイのくせに体形で選ばずに性格で選ぶというのか。
そんな志の高いやつ、見たことない。
って、言ってやれば、ぼくを見る目も変わったのだろうか。
もちろん言えなかったけど。
毎日顔を合わせる相手とのあいだに、これ以上大きな波風を立てたくない。
ぼくは上辺を笑顔で取り繕って、悠馬の前から退散した。
午後からの仕事はもうめちゃくちゃだった。
仕方がないよね。仕事をするような気分じゃなかった。
いつも騒いでいるぼくがあまりにもどんよりとしているものだから、営業所のみんながすごく心配してくれた。
それをいいことに、ぼくは体調不良という理由をつけて早退した。
医者へ行けよ。
課長までが心配してくれた。でもぼくが営業所を出るまで、悠馬は一度もこちらを見なかった。
仕方ないよね。中途半端なやさしさは害にしかならないことは、悠馬だってわかっている。……興味がないだけかもしれないけど。
悠馬のバカヤローとか怒鳴りたかったけど、良識ある八方美人であるぼくには、そんな常識外れな行為に及ぶことなんてできなかった。
こんなときまで人目を気にするなんて、くだらない。
おまえはくだらない人間だ。だから振られたのだ。
なんて気持ちが渦を巻いて、理性のタガを吹きとばそうとする。ぼくは自分が思っている以上にショックを受けていたらしい。
「こういうときはヤケ酒だ」
ドラマでも漫画でも小説でもみんなそうしている。
でも当然飲み屋が始まるには、まだ太陽の位置が高すぎた。というわけで酒を売っているコンビニに入り、チューハイとかスミノフとかを手にとってはみたけど、やっぱり失恋には日本酒、それもワンカップだよな、と銀のフタを貼ったコップ酒を三本? 三個? それとも三杯? 購入して、店を出た。で、早速ビニール袋から一本(やっぱり本の気がする)取りだして呑み始めたら、どうにもいい気分になってしまって、気づいたら商店街を歩きながら三本目を空けていた。
たぶんグデグデだったと思う。
いい気分だけど、泣きそうだった。
でも泣けなかった。
大の大人が
ぼくはひたすらにうつむいて歩いた。
あんなに勇気を振り絞ったのに、明日からどの面を下げて会社へ行けばいいんだ。
涙があふれてくる。
それを誰かに気づかれたくなくて、歩いて、歩いて、歩きまくった。
そして何かとてつもなく堅いものに激突した。ひっくり返るぼくの視界に見えたのは、なんの変哲もない電柱だった。
ぼくはアホだ。
昼間から酒をかっ食らって、小走りにうつむいて、涙を拭きながら電柱にヘッドバッドをかましたのだ。
『目から火花が出る』とは、比喩ではなかった。
あまりの衝撃に肉体と精神が分離してしまうかと思ったほどだ。
このまま死んでしまえたらいいのに。
死に方としては恥ずかしすぎるけれど、この世からいなくなってしまえれば関係ない。
ぼくは死んだ。
死にたかった。
たかが失恋で、こんなにも心が揺れてしまうなんて。
でも手に入れる前から大切な人を失ったのだから、死ぬくらい許されるはずだ。
けれど目を覚ました。
そうしたら商店街が変だった。
総体としては気絶する前と一緒だけど、細部が違う。
明らかに違う。
ベーカリー西田はコインランドリーになり、喫茶店が美容室へと変貌してしまった世界。
世界。
変わるか、普通。
夢だろうか。
電柱に頭をぶつけて、まだ本当はひっくり返ったままだとか。
わからん。
立ち上がってみると、まだ世界が揺れている。
泥酔ってやつだ。
はみ出したワイシャツの裾を、スラックスのなかに押し込む。
とりあえず帰ろう。
あるかないかわからないけど、帰ってみるしかないよな。
家がコインランドリーになっていないといいんだけど。
慣れた道筋をたどると、自宅が見えてきた。門扉には『山田』の文字。ちゃんと『壮介』の名前もあったので、とりあえずはほっとした。
いつも通りに門扉を開けようとして、少なからず躊躇った。
もしこの世界……に、山田壮介がいたら、鉢合わせすることになる。
昔、悠馬が言っていた。
『異世界の自分と触れあうと、対消滅が起こるんだ』
悠馬は運動大好きのくせにオタクでSFに造詣が深い。
彼が言うには、属する世界が違う山田壮介と山田壮介が触れあった瞬間、二人の山田壮介は対消滅してしまうらしい。
悠馬の説明を聞いても対消滅なる現象を理解することはできなかったが、対なるものが消滅するってことだろうから、それは二人の山田壮介の消滅を意味しているのだろう。
怖すぎる。
本当のことかどうかはわからないけれど。
迷っていたら、ふと手元が陰った。
すぐ左に人が立っていた。
向こうから歩いてきていたのは知っていたが、通り過ぎるものだと思っていたから、すぐ横に立ちどまるなんて思いもよらなかった。
黒い半袖のポロシャツに釣り人が着るようなベスト、それに太いニッカポッカみたいなズボン。ニッカポッカとは、大工なんかが穿いているゆったりした作業用ズボンのことだ。
むわっと臭いそうなくらい汗とほこりにまみれている。身長はぼくと同じくらいだけれど、身体に関しては、この男のほうが一回り以上でかい。近くにいると、体温の高さを感じるくらいの筋肉量がある。悠馬の筋肉を粗野にした感じ、というべきか。
土木作業員かな。
両脇に松葉杖を抱えこんでいる。右足が包帯でぐるぐる巻きにされていた。
無言で立つ松葉杖の男を見上げる。
身長は同じくらいだけど、イメージ的には見上げるという表現がふさわしく感じる威容だ。
男は丸顔に無精ひげで……無精ひげにしては長いような気もするし、髭を生やすことが許されている職場なのかもしれないけれど、とにかく髭のなかの口を思い切りへの字に曲げていた。目つきにも
「あの」
「なぁ」
あの、はぼく。なぁ、は向こう。
同じことを考えたのだろう。
直感的にわかる。
何の根拠もないけど間違いないって確信することがたまにあると思うけど、今回のはまさにそれだ。山は山、雪をかぶっていようが、緑の木々におおわれていようが、山は山だ。
ぼくたちは互いにそれを感じたんだと思う。
「おまえさ」
口火を切ったのは土木作業員のほうだったが、そのあとは口をもごもごさせるばかりだった。
「大丈夫。わかっています」
似ているなぁ。
真っ黒に日焼けした肌に坊主頭、パーツは違うけど、やっぱりそっくりだ。
鏡に映った自分としか思えないほど。
「この家の山田壮介はおまえか、って訊きたいんでしょう」
「うん」
自分のことは自分が一番わかる。
つまりはそういうことだ。
「ぼくも山田壮介です。でもこの家の山田壮介じゃありません」
土木作業員は目を丸くする。
いちいち感情が表に出るところは、ちょっと可愛い。
ぼくはナルシストじゃないけれど、目の前の山度壮介は可愛い。
ぼくとは違う。
「じゃあおまえも……」
「そうです」
「全然違うけど」
「そうですね」
向こうはガチデブ、ぼくは駄デブ。
向こうは肉体派、ぼくは頭脳派(ここは疑問の余地があるかな)
「なんで」
「わかりません」
「でも同じに見える。違うけど。同じ……どっちも山田壮介だ」
「ここに来る途中の景色が少しずつ違ったでしょう」
「うん」
「そういうのと一緒でしょう。元の世界とは少しずつ違うけど、でも同じ」
「おまえ、空恐ろしいことをさらさらと……」
言っている本人もそう思っている。
でもそれ以外考えられない。
ぼくたちにこんなドッキリを仕掛けたところで、得をするやつはいないだろう。だとしたら目の前にある真実を受け入れるしかないじゃないか。
「でも、そうだとしたら、なんでおれたちはここに来たんだ」
振られた勢いで、元の世界を飛び出した?
とは言わなかった。
仮にそうだとしても、そんなことは秘密だ。
土木作業員は少しばかり松葉杖の位置を直し、もう一度覗き込むようにぼくの目を覗き込む。
「おまえ、それを証明できるのか」
ああ。
この人、不安なのだ。
不安のせいでこんな怒ったみたいな顔になっているのだ。
同じ山田壮介なのに、ぼくはこんなに感情を表に出すことができない。どんなときだって理性が常識の尺度内で行動するよう求めてくる。
羨ましいな。
そう思う。
そして悠馬が求めていたのも、こういう裏表のない不器用さだったのかもしれない。
「あなたにはできるんですか、証明」
土木作業員は尻ポケットからくしゃくしゃになった千円札を引っ張り出した。
「見ろ」
そこに北里柴三郎のタヌキ顔はなかった。
代わりにちょんまげが描かれている。知っているような気がするけど、思い出せない。
「誰ですか、これ」
「織田信長」
「……ずいぶんととんがった世界から来たんですね」
「牛丼屋の券売機に入れられなくて、店員に声をかけた」
「おもちゃは使えない、とか言われたわけですか」
「偽札だって。違うって言ったら警察を呼ばれそうになった」
「それはまた……」
店員もこの顔ににらまれて焦ったんだろうな、と思うと、若干同情を禁じ得ない。
証明のお礼に、ぼくは北里柴三郎を見せてやる。誰だこれは、というので丁寧に説明してやったが、全然ぴんと来ていないみたいだった。
「北里柴三郎がいない世界なのかな」
「おれが知らないだけなのかもしれない。頭、悪いから」
いかつい身体で、頬を染めてうつむく。
いいなぁ、こういうの。ぼくには出せない可愛さだ。
あまり突き詰めるのもどうかと思ったので、話題を変える。
「家へ帰るんですよね」
ぼくは小さな庭付きの一戸建てを見上げる。
まだ父は帰ってきていないだろう。母もパートのはずだ。妹の萌絵は……生活時間帯のすれ違いで最近あまり話していないから、どうしているのかはわからない。
「駅前のアパートは知らない人が住んでいた」
「駅前?」
「おまえは違うのか」
「ぼくはずっと自宅です」
「ここは両親が死んだときに競売へ出されたから、もう他人の家だ」
息が詰まった。
「萌絵は」
「この時間なら大学もアルバイトも終えてアパートへ帰ってきているはずなんだけど、アパートの……表札が違ったから」
この壮介は、ぼくと全然違う人生を送ってきたに違いない。
土木作業員として鍛え上げられたごつい身体、険しい顔。彼が歩んできた険しい道のりが、その容姿から垣間見えた気がした。
「おまえのこと、背広って呼んでいいか」
「背広?」
「同じ名前じゃややこしい」
「おっさんみたいなあだ名ですね」
「じゃ社畜」
思わず吹き出してしまった。
こいつ絶対友達少ない。
「わかりました。そういうことなら、ぼくはあなたのことダブダブって呼びます」
「おまえのがデブだ」
「体形じゃなくて、そのズボンのことです」
「カーゴパンツのこと?」
「ニッカポッカじゃないんですか、そのダブダブのズボン」
「太いけど、これはただのカーゴパンツだ。ほら、ポケットもついているし」
なるほど。
でもダブダブはダブダブだ。
「ダブダブ、ぼくは、この自分の家に入ります。暗くなってきたし」
辺りは夕暮れを通り越して、藍色に染まり始めていた。
道を行きかう人の姿も途絶えがちで、時間は帰宅のピークから、くつろぎの時間へと移行しつつある。
「あなたはどうしますか」
ぼくはインターホンのボタンに軽く触れ、ダブダブを見上げる。
「表札は『山田』のままだし、おれも行く」
ぼくはうなずいて、指に力を入れた。
家は小さな庭をはさんで向こう側にあるので、家のなかでインターホンが鳴ったかはわからない。
誰かがいたとしても、開けてくれる保証もなかった。
いつまで待っても返事はない。
当たり前か。
こんなおかしなコンビがモニターに映ったら、ぼくだって出ないと思う。ダブダブズボンの松葉杖と、スーツなんて組み合わせ、意味がわからない。
この世界のぼくが出てきてくれたら理解してもらえたかもしれないけれど、結末は無情だった。
「返事、ないな」
ダブダブがため息をつく。
ぼくも同じ気分だった。
「諦めるしかありませんね」
「そうだな。どっか行くか」
「賛成です」
ここに突っ立っていても、不審者にしか見えない。下手したら通報されてしまう。
松葉杖を動かしたダブダブが顔をしかめる。
「どうしました」
「ずっと立っていたから、脇の下が痛い」
いくらクッションがあっても、確かに長時間は耐えられないだろう。
「公園へ行きましょう。あそこなら座れるから。あと松葉杖はこっちに。肩を貸します」
ダブダブの右へ回って松葉杖を受け取り、右の腋下へもぐりこんで、そっと支える。
「悪いな」
「知らない仲じゃありませんから」
なんて格好いいことを口にしながら、薄いポロシャツ越しに伝わるダブダブの筋肉としっとりとした体臭に脳天を直撃された。
我が愚息が猛り狂った。
こいつは自分だ。
呪文のように心の中で繰り返したが、納まりそうにない。右手をスラックスのポケットに入れて、さりげなくポジションを直す。でもパンツにこすれた刺激で、息子はさらに怒張した。
ぼくは匂いフェチだったのか。
初めて知った驚愕の新事実ってやつだ。
嫌悪を感じながらも、どうしようもなく惹かれる汗と脂の匂い。かかすかに匂う程度なのだが、それがかえってぼくの劣情をあおる。この匂いは危険な路地裏の暗がりへと誘い込む淫猥なフェロモンだ。やばいとわかっていても、さらに大きく吸い込んでしまう。
「どうした。目がうつろだぞ」
答えあぐねていると、インターホンから機械を通してくぐもった声が聞こえてきた。
『あの』
ぼくらは同時にインターホンのレンズを覗き込む。
『やっぱり似てる……』
ぼくらは顔を見合わせた。
「萌絵か?」
口を開いたのはダブダブだった。
『なんでわたしの名前がわかるの』
「妹の声がわからないはずないだろう」
その言葉には本気が詰まっていた。
普通に考えたら、こんなの詐欺師の手口に決まっている。
ダブダブの本気が、萌絵の心を動かしたのだ。
『兄さん……』
息を呑むようなつぶやきが、妙に気になった。
詐欺だと思えば警戒するか、怒るかだ。兄だと信じたなら、もっと気安いはずだ。二人いるせいかな。切羽詰まった感じがするんだけど。
『ちょっと待って』
インターホンが切れた。
「萌絵、大丈夫かな」
「気になりますか?」
「変だった」
夜風が一陣、ぼくたちの頬を撫でる。
それからすぐに玄関の扉が開いて、七色に染め分けられたショートヘアを逆立てたの女の子が、現れた。
「うお……」
予想外のファッションに気圧されたのかダブダブが一歩下がったせいで、肩を貸していたぼくのほうが転びそうになった。
静かに玄関の扉を閉め、サイバーパンク萌絵が歩いてくる。すんごい頭だったが、近づいてきた顔は確かに萌絵だ。
萌絵はぼくらのところまで来たが、門扉を開けようとはしなかった。
その選択は正しい。
気になったのは、彼女のまぶたが重く腫れていて、目が真っ赤だったことだ。まぶたが重く赤く腫れている。
「大丈夫か」ダブダブが門扉を挟んで声をかける。「何が起こったんだ。どうして泣いている。兄ちゃんに話してみろ」
「兄さんじゃない。でもなんで」
萌絵はぼくたちを何度も交互に見る。明らかに混乱していた。でもなんで、そのあとにつづく言葉が気になったが、音にはならなかった。
「信じられない」
この信じられないは、おそらくあり得ないことに対する裏返しだ。あり得ないことが起こっている、それを認めている自分を認められないでいる、ということだろう。感情が兄だと断定しても、理性がそれを否定している。萌絵は二つの思いの間で葛藤している。
でもそれだけか?
「誰かに何かされたのか」
ダブダブは門扉から身を乗り出し、松葉杖から離した左手を、そのまま萌絵に向かって伸ばす。本気で心配しているのだろう。妹思いなやつだ。
しかし萌絵は七色の頭を小さく振り、ダブダブの手を避けるように身を引く。
「いや」
反応が極端だ。
何かおかしい。
「兄さんは死んだのよ。それなのに、なんで」
そういうことか。
と、あっさり思ったわけじゃない。
兄さんは死んだのよ、という言葉にはかなりのショックを受けたし、予想外の展開でもあった。
萌絵の反応はそれ以上だった。
この世界のぼくが死んだのは、多分つい最近。そして萌絵はその心の傷はまだ癒えていない。
そんな状況で、兄らしき人間がいきなり二人も現れたのだ。そりゃあパニックにもなるだろう。
ぼくは猪みたいなダブダブを手で押し退け、慎重なアプローチを試みる。
「夜分に突然訪問して申し訳ありません」儀礼的な会話手法はこういうときのためにあるのだ。適切な距離と礼節を保ちつつ、衝撃を和らげるためのクッションを敷きながら、核心となる質問をする。「お兄さんがお亡くなりになったのですか」
ぼくの質問にハッとする。
「あなたたち、誰?」
自分の感情にとらわれていた萌絵が、やっとぼくらに関心を持ってくれた。ここからが本番だ。慎重に事を進めないと、萌絵はふたたび自身の感情の檻へ囚われてしまうだろう。
「誰だと思いますか」
オウム返しに尋ねる。問いは、人を冷静にさせる。
「兄さんに似ている。っていうかそのもの。でも兄さんはあなたたちみたいに太っていなかった」
「太ってるとか、関係ないだろ」
言い返したのはダブダブだ。
「あるよ。兄さんはアーティストだよ。スタイルにも気を遣ってたもん」
「そのヘンテコな頭は、おまえんとこの壮介の影響か」
「ヘンテコって何よ」
ちょ。
ぼくは左手で、ダブダブの黒いポロシャツの襟をつかんで後ろに引っ張る。邪魔しないでくれ、そう伝えているつもりだったが、いつのまにかダブダブは
「スプレー吹きかけたクジャクみたいな頭しやがって、うちの萌絵はそんなイカれた頭してねぇぞ」
「なによこのデブ。うちの萌絵って、あんたの持ち物みたいな言い方しないで。このヘアスタイルは兄さんの真似をしたんだから。……あああ、なんで死んじゃったの。これからだったのに。メジャーデビューも決まったのに。交通事故なんてありえない」
最悪。
この制御できない流れに、ぼくは天を仰ぎたくなった。
「ダブダブ、お願いだから少し口を閉じてくれませんか。ここ、大切な場面だってことは理解できますよね」
「だってこいつ、うちの萌絵を馬鹿にしたんだぞ」
「また言った。昭和を引きずったデブのくせに。この昭和デブ」
「なんだと」
「ダブダブ」
もう一度襟を強く引く。
「おまえ、おれのくせに、こんな奴の肩持つのか」
ダブダブは松葉杖を脇に挟んだままの不安定な姿勢で、ぼくのことを突き飛ばした。
でもぼくが踏ん張ったせいでバランスを崩し、松葉杖を取り落としてしまった。
ダブダブはあわてて門扉を掴んだ。
その目はぼくを睨んでいた。
道端に倒れた松葉杖を拾い上げ、持ち手のほうをダブダブに向ける。礼もなしにひったくられた。
ダブダブが何か言いかけたときに、萌絵が口をはさんだ。
「こんなヨレヨレのうさん臭いスーツの男に肩なんか持たれたくない。どっちも信用できるわけないでしょ」
こんな鼻っ柱が強い萌絵なんて……。
尊敬されていたみたいだけど、この世界の壮介は苦労しただろうなぁ。
「もういい」
ダブダブは松葉杖で門扉を一発殴り、宵闇へ向かって歩きはじめる。
「暴力デブ」
めちゃくちゃだ。
もう溜め息も出ない。
「萌絵さん」
「なによ」
ぼくはただ萌絵の目を見つめる。
言葉は発さない。
「なによ」
めげそうになる。
「最初の質問に戻っていいですか」
「だめよ」
「戻ります」
「あんたたちなんなのよ」
「あなたはぼくとダブダブ……さっきのデブを誰だと思いますか」
「兄さん……違うわ。兄さんの知り合い。それか詐欺師」
「最初のが正解です。あなたも感情では理解しているでしょう。ぼくらはあなたの兄なんです」
「兄さんは交通事故で死んだのよ」
「ナーバスな状況に、土足で踏み込んだことは謝ります」
「土足野郎はあんたじゃなくてさっきの汚いほうでしょ」
「でもあれもあなたの兄なんですよ」
「……証明できる?」
「あなたの感情が信じているのに、証明する必要はないと思いますけど」
「客観性が担保されない事実なんて、嘘と等価よ」
「その言い方、うちの萌絵に少し似ています」
うちの萌絵は化学が専門だ。
「……あんたにもうちの萌絵がいるの?」
こっちの萌絵があきれ返る。
「はい。さっきのデブより、多分ぼくの所属していた世界のほうが、この世界に近いと思います」
萌絵が目を丸くする。
「千円札に印刷されている人って誰ですか」
ここぞとばかりに切り込む。
「なに?」
「千円札に書かれた顔です」
「平賀源内だけど」
ダブダブがやったように、ぼくは財布から千円札を引っ張り出して広げてみせた。
「え、北里柴三郎……。偽札?」
「ぼくの世界では本物です」
「どこの世界よ」
「この世界のとなりとか、……実際のところは、わかりません。でも、ほら、透かしも入っているでしょう」
街灯に北里柴三郎を掲げてみせる。
「本当だ」
スーツの内ポケットからボールペンを取りだし、その千円札に自分のメールアドレスを書きつける。
「ダブダブがあんな口の利き方をしたことについては、ぼくが謝罪します。ごめんなさい。でも彼の不安も理解してやって下さい。いきなり見知らぬ世界に飛ばされちゃったんですから」
「ダブダブってさっきの松葉杖の? もしかしてあのズボン?」
「そう。ちなみにぼくは社畜。どっちも壮介なので、あだ名をつけ合いました」
萌絵は吹きだす。
いい笑顔じゃないか。
「ダブダブも悪いやつじゃないことはわかるでしょう。あなたのお兄さんと同じように、妹を心配しているだけなんです」
「……うん。兄さんは、あんなに口悪くないけど」
嫌味にならない程度に微笑み返す。
それで萌絵も少し安心したようだ。
ぼくは自分のメールアドレスを書き込んだ千円札を萌絵に渡す。
「本当はぼくも不安でいっぱいなんです。でも行きます」
「どこへ」
「ダブダブのところへ」
「行先はわかるんですか」
お、丁寧語になった。
「見当はついています。多分、公園です。彼のお金には織田信長が印刷されていましたから、この世界では使えません。野宿するしかないでしょう。松葉杖をついたぼくが野宿するのを、ぼくは放ってはおけません」
せいぜい良い人ぶって、ぼくはダブダブを追う。
もちろん振りむいたりはしない。
計算通りなら、多少なりと罪悪感を与えられたはずだ。あとは予想通りに行動してくれるといいけど。
……こういうところを、悠馬には見抜かれていたんだろうな。
暗い気分になったが、でもいまは落ち込んでいる場合ではない。
ダブダブを放っておけないのは事実だ。
松葉杖のくせに考えなしに飛び出しやがって、見知らぬ世界の夜にどうしようというのだろう。
ちょっと走ったらすぐに息が切れた。
腹の肉が跳ねる。
くそ。
運動不足できつい。
全部ダブダブのせいだ。
公園へたどり着く前に、どうにかその後ろ姿を発見した。松葉杖をついて、繁華街をひとり孤独にひょこひょこと歩いている。
哀愁が漂っていた。
まるで寄る辺をなくした大型犬だ。
追いついて、少しのあいだ後ろをついて歩く。
わかっているはずなのに、振り向きもしない。
面倒くさいやつ。
「ダブダブ」
声をかけたが、足を止める気配はない。カッカッと松葉杖がアスファルトを噛む。
筋肉がうねる広い背中に話しかける。
「わかってますよ。彼女の力になろうとしたのでしょう」
「自分の妹じゃなくたって、妹は妹だ。なのにあんなカーニバルみたいな頭で、おれのこと昭和だとかデブだとか、話を聞きもしねぇ」
ダブダブは憮然と答える。
確かに口は悪かった。でもそこはきみも一緒だ。
「この世界の壮介が死んで、あの子もつらかったのですね。そんなところへぼくたちが押しかけて、彼女の気持ちをかき乱してしまって。かわいそうなことをしました」
「そんなことはわかってる」
ダブダブはやっと足を止めて振り返った。その眉毛は極限まで引き寄せられ、吊り上がり、上まぶたに食い込まんばかりになっていた。
「どうせおまえ、あのニワトリ頭にも同じことを言ったんだろう。あのデブは妹の心配をしただけなんです、とかなんとか。当たり障りのないことばっかり言いやがって、この八方美人が」
言われた瞬間、猛毒を塗った杭がぼくの胸を貫いた。
毒はぼくの感情の深いところで激痛を生み出す。
痛みは悲しみとなり、悲しみは怒りに転化して口を出る。
「誰のためにこんな苦労をしてると思ってるんだ」
自分でも語尾が震えているのがわかった。
「うるせえデブ」
喧嘩なんかしたことがないのに、気がついたら殴りかかっていた。
ダブダブは慣れた手つきで松葉杖を横に薙ぐ。
急には止まれず、松葉杖に軽く肩を叩かれ、ひるんだ。
痛みはわずかだった。
それでも効果は十分だった。
次に食らうであろう攻撃と痛みを脳が勝手に組み立てて、恐怖に足が止まった。
ダブダブはその効果を得るために、手心を加えてぼくが怪我をしないように注意しながら、松葉杖を振ったのだ。
ダブダブは暴力をコントロールする。
同じ自分でも、住む世界が違う。
ダブダブが口でぼくに敵わないように、腕力ではダブダブには勝てない。
わかっているつもりだったのに、触れられたくない部分をいきなり鷲掴みにされて我を忘れた。
許せなかった。
勝負にならないのはわかっていたのに、ぼくはもう一度飛びかかった。
今度は松葉杖で突かれた。
衝撃はほとんど感じなかったけど、さきほどの恐怖の効果が尾を引いて、ぼくは大げさに身を引いた。
そして後ろから歩いてきた誰かを巻き込んで倒れた。
「いってぇ……」
「す、すいません」
急いで立ちあがり、潰してしまった人を助け起こそうとして、めまいがした。
薄汚れた開襟シャツを着たカマキリみたいな男が、顎を横にずらしながら、小さな三白眼でぼくを睨んでいた。
「このクソデブ。てめぇ舐めてんのかコラ」
一番関わっちゃいけない人種だ。
「ごめんなさい」
もう一度謝った瞬間、ぼくの頬に何かが跳ねた。口元を押さえた指の隙間から、鉄臭い血がアスファルトに滴った。
殴られた。
そう気づいたら、全身が痙攣した。
いや恐怖に震えた。
「金だ」
「え」
「金だせよ。慰謝料だ」
急いでポケットから財布を取り出す。
こんなことさっさと終わらせて、早くこの場を離れたかった。往来をゆく人は、この状況を見ても足を止めない。それどころか遠巻きにスマホを構えている人もいた。
胸ぐらを掴まれ、ゆすぶられ、ぼくは蟻地獄の巣へ落ちてしまったことに気づいた。この蟻地獄は『言葉』では逃げ出すことはできない。暴力のまえに言葉は無力だ。生き延びる方法はひとつだけ。相手よりもさらに強い暴力で優位に立たなければならない。
しかし残念ながらぼくにその才能はなかった。
絶望的。
「早くしろ」
「はい」
財布を手にして思い出した。
この中に平賀源内はいない。それどころかカマキリが望む偉人は、おそらく誰一人としていない。財布を出しあぐねていると、苛立ったカマキリにまたも激しく揺さぶられた。
「金出さないってんなら、ちょっと顔かせ」
「あ、あの……」
戸惑うぼくの肩を抱えるようにして、カマキリは邪悪に笑う。
口がタバコくさい。激しい嫌悪感に顔を背ける。
「なにその態度、どういう意味なわけ? ぼくに怪我をさせたのは、きみだよねぇ」
カマキリに髪を鷲掴みにされ、思わず目を閉じる。
鈍い音がしてカマキリの手が離れた。目を開けたときにはカマキリは尻餅をつき、脳天をおさえて目を白黒させていた。カマキリの手の上に、ダブダブの松葉杖の先端があった。
「何しやがる」
「仕返しだ」
「関係ねぇだろうが」
カマキリが怒鳴っても、ダブダブの表情にはいささかの変化もなかった。
半眼、への字に曲がった口。感情は無に等しいのに、威圧感が半端ない。
ダブダブが生きてきた世界が透かし見えた気がした。
ぼくには生き延びることすらできない世界だ。
100の言葉よりひとつのゲンコツ。
そういう世界で生きてきたダブダブが、いまのいままでぼくの世界に黙って付き合ってくれていたことがわかった。
ダブダブはカマキリの心臓あたりに松葉杖の先を移動させた。
「もう一回言ってみろ」
「おまえにゃ関係ねぇだろうが、このデブ」
「おまえが絡んだのは、おれなんだよ」
「おまえじゃねぇだろう」
ダブダブはそっとカマキリの胸に松葉杖を押しつける。
いきなりど突かないところがかえって怖い。
「わけわかんねえ」
「だったら消えろ」
ダブダブがカマキリの胸をそっと押す。
カマキリは地を這うようにして後退するが早いか、電光のように身を翻して走り去った。
ダブダブは松葉杖をおろし、小さくため息をついた。
ただただ見惚れるばかりだったぼくは、それで我に返った。
「ありがとう。助かった」
「もとはと言えば、おれが突き飛ばしたせいだから」
ダブダブはこちらを見なかった。
「ごめん」
横を向いたまま、怒ったように眉間にしわを寄せて謝る。
やばい。
格好いい……。
暴力に屈しない胆力、悪いと思ったらすぐに謝罪できる潔さ。それは、ぼくが持っていないものだ。
ダブダブはポケットからくしゃくしゃのハンカチを引っ張り出した。
「使え」
「何これ」
「鼻血」
忘れていた。
「顔、血だらけだ」
ハンカチなら持っていると言おうとして、その厚意に甘えることにした。
鼻の周りを拭いていると、ほのかにダブダブの匂いがして興奮した。
ぼくはアホだ。
「落ちない。乾いちまってるな」ダブダブはぼくの顔をのぞき込む。「公園の水飲み場で、ハンカチを濡らそう」
ダブダブは身体の向きを変える。その途端、トゲを踏んだみたいに、右足を上げた。
「いて……」
もともと限界を超えていたのに、ぼくのせいでずっと松葉杖を振り回していたから。
ぼくはダブダブの右にまわり肩を担いだ。
「すまん」
「お互い様だよ」
「いつのまにか普通の言葉になったな」
「そうだね」
気づかなかった。
「そのほうがいい」
ぼくらは肩を寄せ合ったまま歩きはじめる。右手側の杖はぼくが預かった。
「骨折?」
包帯でぐるぐる巻きの右足を見つめる。
「うん。足場から落ちた」
「なんで」
「普通に、不器用だから。で、クビになった」
「きみの会社ってそんな簡単にクビになるの? コンプラ、ヤバくない?」
「コンプラ?」
そうだよな。コンプライアンスが何かわかっていたら、そんな会社に入ったりしない。
多分、ダブダブとぼくでは選べる選択肢の幅が違ったのだ。
彼は生きるために仕事に就いた。ぼくはよりよい生活のために仕事を選んだ。
どちらが正しいってわけじゃないけど、なんだかぼくは恥ずかしくなった。
「ふつうそんな簡単に従業員をクビに出来ないんだよ。法律でそうなっている」
「おれ、嫌われてたから。すぐ口ごたえするって」
目に浮かぶようだ。
「骨折は、辞めさせるいい機会だったんだ。新しい仕事、探さなきゃいけないんだけど、どうせまたクビにされる。上手くいかないんだ、どこへ行っても。長続きしない。言っちゃいけないことを言っちゃうから」
「そうなんだ」
八方美人でも駄目だし、思ったことを口にしても駄目だし、ぼくらはどの世界へ行っても、どんな性格になっても鼻つまみ者になってしまう。
なんだか、つらくなってきた。
「ごめん、社畜が気にすることじゃない。余計なこと、喋りすぎた」
ぼくもそうなんだ。
なんて言ったら、さらに落ち込ませてしまう気がして、ぼくはうつむいたままでダブダブを慰めることもできなかった。
と、スーツの内ポケットでメールの着信音が響いた。
ぼくたちは足を止めた。
スマホを取りだしてみる。
予想通り、萌絵からだった。
2通ある。
ぼくは最初のメールを開封した。
『兄のアパートがそのままになっています。そこに泊まって下さい。今夜は兄のお通夜なので、誰もそっちにはいかないと思います。それでは』
ぼくはダブダブにスマホの画面を見せた。
「あいつの兄貴が死んだのって、もしかしておれたちがこの世界に来たころか」
「かもね」
「おれたちのせいで、死んだのかな」
「それは違うと思うよ」
対消滅、という言葉が頭に浮かんだが、ダブダブとはばっちり接触しているのに爆発しないから、あの説は嘘だろう。
「でもこの世界のおれは、もういないんだよな」
ダブダブは夜空を見上げる。
「あいつの兄貴の代わりに、おれが死ねばよかった」
「同じことを考えていた」
「おまえは死ななくてもいいだろ」
「そうでもないんだ」
「だっておまえは……」
ダブダブは言いよどむ。
きっとぼくの人生を知らないことに、いまさらのように気づいたのだろう。
ぼくもダブダブがどんな人生を送ってきたのか、無言で考えてみる。
「そういや、この世界のおれのアパートってどこだ」
ダブダブが話題を変えた。
ぼくは2通目のメールを開封する。住所はそこに書いてあった。玄関はオートロック。パスキーを入力するタイプで、そのパスキーも書いてある。
ダブダブに見せると、目を丸くした。
「ここ、おれんちだ。でもおかしいな、全然違う表札がかかっていたが」
「そうなの?」
「最初に話しただろう」
そういえば、そんなことを言っていたような気がする。
「でも頼れるものはほかにないし」
ダブダブもうなずく。
もしアパートに入れなかったとしても、公園はその先にある。
「足、大丈夫?」
「おう」
「寄りかかっていいよ」
そう言ってやると、ダブダブがごつい手でぼくの肩をぎゅっと握ってきた。ふんわりと漂ってくる脇の匂いに、また脳天が直撃される。
昇天しかけていると、ダブダブはほうほう、と感心するようにうなずきながら、ぼくの肩をパタパタと叩いてきた。
「おまえ、柔らかくて触り心地がいいな」
冗談のつもりか?
いきなりそういうことは言わないだろう、普通。
それってゲイの発想だぞ。
いやゲイだったら、逆に言いたくても言えないか。
どっちなんだろう。
混乱する。
でも悪い気分はしない。
が、相手はぼくだ。
そこのところどうなんだろう。
というかぼく、今日の昼間にフラれたばかりじゃないか。
我ながら尻軽すぎる。
ダブダブが肩に回した手で、ぼくの胸を揉んでくる。
「ふざけすぎ」
「ははは」
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