#2 しあわせ家族探索
「……ってわけでさ、PvPも最近のダンジョン配信では流行ってんだよ。さっきのカズヒロおじさんのヘッドショットがウケたのもそれだね」
「それ、もうダンジョン配信とかじゃなく、普通に殺し合いで放送事故じゃん……」
「ミツキおじさん、視聴者はいつだって刺激を求めてるんだよ。それこそ、公開処刑の時代からね」
「文明後退してない?もっと平和的に行こうよ……」
ミツキは、俺とフタバと比べると年が離れていて、ハル坊もよく懐いている。俺やフタバと比べて控えめなこともあり、気安くしゃべりやすい所もあるのだろう。子供に懐かれやすいのは良いことだが、出来ればこいつにも結婚してもらって、おふくろを安心させてやって欲しいものだ。
「あれ?言ってなかったっけ?年内目途で、俺、結婚するよ?」
「えっ……」
「あー、そういやグループチャットじゃなくて、直接私にDMしてたんだったっけか。結納の前らへんで相談受けて、流れでだったねぇ」
「………………」
「別にカズ兄を仲間外れにしたわけじゃないんだよ?でもさ、こういうのって経験者に聞くのがさ……って、カズ兄は母さんと一緒に住んでるだろ?てっきり連絡行ってるもんだとばかり……」
「……あんたに気を使って、黙って顔合わせに行ったのかもしれないわね。人の心配より自分の心配しなさいよ」
俺は、苦虫をかみつぶした気持ちで、ダンジョンを先導する。配信者だろうと、ドラゴンだろうと、ヘッドショット決めてやる。
「
* * *
俺たちが耳を塞ぐ中、フタバはマンドレイクを引っこ抜いて籠に放り込んでいく。地面から引っこ抜くと絶叫して失神させて来るモンスターだ。こいつらも、表に声が漏れて、謎のうめき声として通報されたことがある。焼き払うつもりだったが、酸欠も怖いので、全て手抜きすることにした。
「うへぇ……耳塞いでも声が貫通してくるな……顔も動いてて不気味ったらねぇ……」
「でも、干して粉末にすると美容方面の需要があるのよ。最近じゃフリマサイトでも結構高値つくのよ」
「薬機法とか問題ないのそれ?」
「民間療法みたいなもんだしねぇ……アロエみたいなもんよ」
耳栓をしたフタバは、不細工なアロエを次々引っこ抜いていく。あまりに叫び声のデカいやつは、腕をぶった切って口に詰めた。……マンドレイクは「は?」って表情をしてるように見えた。感情ないはずなんだけどな。
「あー、ガキの頃さ。鳴き声が出る黄色いニワトリのおもちゃあったじゃん。あれ見てるみたいだな」
「あったあった。中学の頃だっけ?、動画サイトでこれ改造するのはやってたよね。車で轢いたり、冷凍したり、ポンプに繋げたり」
「へえ、じゃあマンドレイクで同じ動画作ったらバズるんじゃない?」
「叫び声で音割れするよ。撮れ高最悪じゃないか……?」
「音声はカットして、アヴェ・マリアでも流しときゃいいんじゃない?」
俺はマンドレイクを見る。
……うーん、散々ダンジョン配信に迷惑かけられた後だし、自分で配信者になる気はせんな。
「ってか、カズ兄ってあがり症だし、配信は難しいんじゃない?」
「……いや、それがこいつも高校の頃は、『モテそうだし配信者目指すか』ってイキってたことあってねぇ。結果は……」
「やめろ」
やはりダメだ。ダンジョンと配信者は根絶せねばならない。
* * *
「……!!」
「ゴブリンの群れだ!」
開けた広間。剣と槍で闘う男女と、杖を振り魔法を使う女が二人、ゴブリンと対峙していた。男に斬られたゴブリンは、黒い塵となり地面にしみこんでいき消えていく。
年の頃は大学生だろうか。ただ、どうにも男に戦闘の負担が集中している。女性陣は、男の剣技に黄色い声をあげつつ、
「あっ!!そこの方、
「全部、俺んちのモンだってんだよ」
俺は、冒険者にヘッドショットをかました。呆然とする女達を尻目にリロードを行い、女冒険者も合わせて次々と地上に「送還」していく。剣と魔法でショットガンに勝てるかよ。社会人十七年目の財力を舐めるな。
「……うっわぁ」
「女の子をヘッドショットはヤバいでしょ……炎上するよ?」
「不法侵入者に男も女もあるかよ。燃やすならまず、こいつらの違法行為を燃やせっての」
「そうは言っても、世間体ってもんがさぁ……」
「……モテない男のひがみも入ってるのよ。そっとしておいてやりなさい」
俺は、ショットガンをリロードする。次はゴブリンども……のつもりだったのだが 、奴らは攻撃してくる気配がない。それどころか、両手をあげてゴブゴブと嬉しそうに声をあげながら小躍りしている。なぜだ?
「あっ、ちょっと『ゴブリンガル』使ってみる?」
「なにそれ」
「最近出たゴブリン語の翻訳アプリ。AI使ってて結構精度も高いんだよ?」
「微妙に使いどころわからないなぁ……」
ハル坊が画面をタップすると、ゴブリンのゴブゴブとした言葉が、日本語のテキストとして画面に表示された。
『いや、マジで助かりましたよ!アイツら頻繁にウチに入って来て、生活用品パクってくんです!モンスター退治する分にはいいけど、強盗とか犯罪でしょ?あまつさえ、ネットで映像撒かれるとか、昨今のダンジョン配信ブーム、マジ害悪ですわ!』
「……うわ、すごい所帯じみてる」
「カズ兄と似たようなこと言ってるね」
うむ、案外気が合いそうだ。……このダンジョンが俺の敷地じゃなかったらな。俺は奴らに向けてショットガンを構えた。
『いやいや、私らだって住処を地上に出す気なんてなかったし、勝手に入ってこられて滅茶苦茶迷惑なんですよ!でも、最深部のコアを操作して、ダンジョンを沈められるの人間だけなんですよ!けど、背に腹は代えられないとはいえね、出会ったら速攻斬りかかってくる強盗を誉めそやして家に入れたくなんてないでしょ?……つーか、言葉通じねぇし!ゴブリンガルだって、せっかくエンジニアが開発したのに、DLしてる冒険者なんて三桁もいってねぇ!話聞けよ!マジで!』
「うーん、ゴブリンも大変ねぇ」
「ゴブリンがネットやってる方が意外だったけど、魔法のタブレットもあるしそういうもんなのかもね」
『……兄さん方なら話も分かりそうだ。このダンジョンを沈めるために協力してくれないかい?なに、「
……なるほど。採集資源は俺たちのものか。元より土地の権利は山神家のもんだし、後ろめたい所は何もない。車の修理代も稼げるし、ハル坊の進学費用やミツキの結婚資金も入用だろう。
なにより、配信者どもをボコり放題ってのが最高だ。「ざまぁ」と同じく、「復讐」もトレンドのコンテンツだ。散々煮え湯を飲まされた馬鹿な若造にスカッと展開到来というわけだ。魔石を使って武器も強化して、どんどん地上に送還してやる。
利害は一致した。俺は目の前のゴブリンと、爽やかな笑顔で握手を交わした。
「うわ、カズ兄、すっげぇ邪悪な笑顔してる……」
「まるでゴブリンみたいよね」
「……母さん、今のはコンプラ的にアウトだよ。翻訳見られたら怒られるから、次からNGね」
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