XVIII.マルティオ、奮闘
キードゥル93年6月
「ごきげんよう。ようこそいらっしゃいましたわね、クリスティーネ様、リーゼロッテ嬢、ラナ嬢、レニローネ嬢、リタ嬢」
「ごきげんよう、メルカルア様。ご招待ありがとう存じます」
クリスティーネたちがやってきたのは、サンディトルズの寮の会議室だ。結構大きめの会場で、とても美しく装飾されている。会議室では、メルカルアや側近、その他の上級貴族に出迎えられた。
ちなみに、リタというのはリタ・ウェイン。ミカエルの側近で、上級武官だ。
今回は、座って話をするというより、歩いて話をする形式らしい。
「改めまして、クリスティーネ様。サンディトルズの第三領女、メルカルア・サンディトルズですわ。どうぞよろしくお願いいたします」
「ヒサミトラールの第二領女、クリスティーネ・ヒサミトラールです。これから、よろしくお願いいたします」
◇◆◇
「ふぅ、疲れた……」
ティルツィアたちとの最初の研究は、疲れたけれど、今回はまた違った疲れな気がする。
『まぁ、まぁ。愚弟と違って、クリスティーネ様はなんと優秀なのかしら。あの子は順位で最下位をとってしまいましたもの。……領地の方ではどのような教育を?』
『……特に特別なことはしていませんよ』
(転生者だなんて言えないし、アイシェの頃から変えたことといえば、魔術の訓練とランニングくらいだもの。勉学とは関係ないはずだし……)
『あらまぁ、お隠しになるのね。教えてくださってもよいではありませんか』
メルカルアや他の上級貴族に何度か「隠しているのだ」と言われ精神的にしんどかった。
「お疲れのご様子ですね、クリスティーネ様」
美しい装飾のままやってきたラナ。ラナも少し疲れているように見えた。
(……絵にしたら売れる)
いつものあまり飾り気のないところも格好いいけれど、こうやって気合いを出すと一層美しく見える。
「メルカルア様からの質問攻めでしたものね。本日はゆっくりおやすみくださいませ」
「えぇ……ありがとう」
クリスティーネが少し椅子にもたれているとフィリアーネがやってきた。
「クリスティーネ様、お茶を入れました。どうぞ」
フィリアーネがテーブルの上に紅茶を置いてくれる。
「ありがとう、フィリアーネ」
温かい紅茶を飲んで、少し気分が落ち着いた。
しばらくして、マルティオと、付き添っていたユティーナがお部屋にやってきた。
マルティオは緊張しているのか、木札を持っている手が少し震えている。
「マルティオ、木札を」
ラナがマルティオにそう言い、マルティオが木札を渡す。ラナは受け取った木札に目を通していく。
「……領主一族の側近としては、及第点でしょう。ですが、下級貴族としては期待以上です。成人の下級文官にも匹敵するでしょう」
「……ありがとう存じます、ラナ」
マルティオとユティーナが安堵したように息を吐く。
「とても……凄いんですね、マルティオは」
「そうでしょうか……?ありがとう存じます」
ユティーナがマルティオのことを褒めた。マルティオは驚きつつも、礼を言う。クリスティーネはラナに問うた。
「ラナ、マルティオは合格ですか?」
「はい、合格です。これからも、いろいろ期待できますわ」
ラナがそう言って、ニコリと笑う。マルティオはため息をついた。
「ほどほどでお願いしたいです」
「どうでしょうね」
◇◆◇
「マルティオ、準備はできましたか?」
「は、い。大丈夫です」
「マルティオ、大丈夫さ。マルティオは私より賢いから」
緊張するマルティオにシリウスが声をかけた。その言葉に、マルティオが眉を寄せる。
「そんなわけがありません。
「……そういうのも微笑ましいのですけれど、もう出発の時間ですよ」
リーゼロッテがおっとりとした口調で声をかける。
「分かりました」
マルティオが頷く。
「では、参りましょう」
クリスティーネは、コリスリウト、レニローネ、ラナ、マルティオ、リーゼロッテ、フィリアーネを伴って寮を出た。
レニローネとリーゼロッテが一緒なのは、講義の時間と指定された時間がちょうど同じくらいだったからだ。
「そういえばラナは、武官のような装いなのですね。とても似合っています」
「確かにそうですね!ラナはかっこいいですっ」
「そうですか?ありがとう存じます、クリスティーネ様、フィリアーネ」
ラナは武官に似た服装をしている。かっこいいと思う。男装でもすれば、モテること間違いなしだろう。
「動きやすいように、と一週間で作っていただきました。わたくしの針子は優秀なので」
ラナがニコリと微笑んでそう言った。それを着こなせるラナも凄いが、複雑な武官の装いを一週間で作った針子も凄い。
「クリスティーネ様」
「わたくしたちはこちらなので」
「分かりました。講義、頑張ってくださいませ」
リーゼロッテとレニローネは『ありがとう存じます』と言って、クリスティーネたちとは別れて、講義の部屋に向かっていった。
しばらく歩いて、クリスティーネたちは訓練場についた。今回は的が多い訓練場だ。いろいろ試すんだと思う。
「失礼いたします、ティルツィア先生」
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