XV.他国との外交について
キードゥル93年5月
「―――といったところでしょうか」
「……マルティオはその、リアムを助け出すために勉強を?お金を集めるために……」
そんなシリウスの呟きに、マルティオは首を振る。
「私は、リアムを助けるんではないんです。ただの、“僕”の自己満足というか。私が“僕”であるため、ですかね」
マルティオは苦笑交じりにそう言った。そんなマルティオにクリスティーネは提案する。
「お金なら、多少は出しますよ」
「……お気持ちはありがたいのですが、それじゃあ、駄目なんです。僕が自分で働いて貯めたお金じゃないと」
マルティオがそう決めているのなら、止める気はない。
「クリスティーネ様、そろそろ本題に。コリスリウトやレニローネが怒り出しますよ」
シリウスがそう言う。確かに、そろそろ切り上げなければ、叱られそうだ。
「コホン……それでは、マルティオ・ルイーゼ。貴方はわたくし――クリスティーネ・ヒサミトラールの側近となってくださいますか?」
マルティオはニコリと微笑んで言う。
「はい、喜んで」
そうして、マルティオが、クリスティーネの側近となることが決まった。
「クリスティーネ様!」
「遅いです」
レニローネとコリスリウトがクリスティーネに詰め寄る。
(案の定……)
その後ろから、リーゼロッテがゆったりと歩いてきた。
「クリスティーネ様、どうなったのですか?」
「マルティオ・ルイーゼを側近にすることを決めました。マルティオはシリウスとの相部屋でいいですか?」
クリスティーネの問いに二人は頷く。
「丁度、一人部屋の管理が大変だったところなので、ありがたいです」
「従兄上(あにうえ)と相部屋なら、安心できます」
一般的な生徒の場合、上級貴族や裕福な中級貴族は一人部屋で、節約しなければならない中級貴族や下級貴族は二、三人で相部屋にされている。だが、側近はそれなりに広い部屋ではあるものの、一人部屋を使うことになっていた。下級貴族であるシリウスには少し大変だったかもしれない。
「それでは、ユティーナは大丈夫なのですか?大変なのではありませんか?」
「えっと……そ、そう、ですね。少し、大変な部分はあります」
「じゃ、じゃあ――」
「では、わたくしと相部屋にしませんか?」
フィリアーネがそう言った。ユティーナが「えっ、でも……」とオロオロする。リーシャはいつもの自信満々な感じが消え、俯いていた。
「いいんですよ!お金は節約できれば、その方がいいんですっ。あっ、ユティーナが嫌でなければですよっ」
「……じゃ、じゃあ、お願いします」
「はい、よろしくお願いします、ユティーナ!」
その言葉に、ユティーナはモジモジと「は、はいっ。よろしくお願いいたします……っ!」と笑って頭を下げた。
「クリスティーネ様、私たちは介添えに部屋の準備をさせるので、先に行っていてください」
「えぇ、分かりました。今から食堂に行くので、そのまま来てくださいね」
クリスティーネの言葉に皆が頷き、クリスティーネたちは食堂に向かった。
食堂では、いつになく、ザワザワとしていた。
(……どうしたんだろう?)
「どうしたのですか?」
クリスティーネはミカエルに近付き、そう問う。
「あぁ、クリスティーネ、遅かったね」
「マルティオとお話をしていました。……側近にすることも決めましたよ」
「そう。分かった」
ミカエルは「クリスティーネなら、そうするだろうなぁって思ってたよ」と頷く。
「それで、どうかなさったのですか?」
「あぁ、うん。これ、見てくれる?」
渡されたのは木札ではなく、高級紙だ。質がいい。
中を開けると、最初にでてきたのは
【第一領子、ミカエル・ヒサミトラール殿。第二領女、クリスティーネ・ヒサミトラール殿へ】
(……誰から……?)
「……!!」
クリスティーネは、差出人の名前を見て絶句した。
【キディルニード・ロード・レッフィルシュット。マクネシーヌ・リエ・レッフィルシュット】
この国の、皇帝と皇后だった。
読み進めていくと、他国――レーニアティータ皇国との外交のお話だった。
レーニアティータ皇国。レッフィルシュット皇国からルードリエフ皇国を挟んで隣の隣にある国。それなりに広い国だが、自然が多く人口は少なめだ。技術の発展も遅れ気味である。
それから、一年前のことだった。ランツァルト皇国がレーニアティータ皇国に対して、宣戦布告。戦争が始まった。
レーニアティータ皇国より、ランツァルト皇国の方が技術も進んでおり、人口も多い。兵の数もランツァルト皇国の方が数倍多かったと聞いている。
今年の〈花の女神〉フラローリンスの季節になったころだっただろうか。
――レーニアティータ皇国の皇帝、皇后、皇太子が暗殺された。
残った皇族は皇女一人だけ。今はその皇女が女帝となっており、その祖母が摂政となって補佐を行っているとか。
(確か……わたくしより、二歳ほど年下なのよね……)
話を戻すが、今回やってくるのはレーニアティータ皇国の領地、インディバナの第一領子、アダルベルト様。そして、第二領子のスウェート様という方らしい。
その方を一番東側にあるヒサミトラールで、接待をしてほしいのだそうだ。
皇族がいらっしゃるわけではないので、領主一族であるわたくしたちがもてなすので問題ないらしい。
(……見下しているように見えるけれど、当然のことよね)
レーニアティータ皇国は仕方がないとはいっても、領主一族を送る対応をしているのだ。こちらも対等であることを示すためには、第三者から見ても同じような対応の方がいい。
こういう場合、見下す態度を表す場合は上級貴族などで対応させることもあるそうだ。キディルニードはいい対応をしている方だろう。
「……それで、これを報告し、領地に送ればよろしいですか?」
「うん。他国の方がいらっしゃるのなら、早めに送った方がいいね。私も一緒に書くよ」
「ありがとう存じます、お兄様」
夕食をいただいてから、クリスティーネはミカエルと共に報告書を書き領地に送った。
(今日は、いろんなことがあったなぁ……)
少し疲労感を感じつつ、クリスティーネはベッドに潜った。
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