IX.試験の結果
キードゥル93年5月
「おはよう存じます、クリスティーネ様」
「コリスリウト、シリウス。おはよう存じます」
着替えが終わり、コリスリウトとシリウスの部屋の中に招いた。
今日は試験の結果発表の日だ。試験会場の中に順位が張り出される。
一年生は総合順位と身分別の順位、領地対抗順位。そして、教科別順位が張り出される。学年が上がると、ここにコースごとの順位も張り出される。一年生は陽十の刻、二年生は零の刻、三年生は陰二の刻……と二時間ごとに試験の結果が張り出されることになっている。
そして、午後からはメリアティードの第二領女、ファミリア・メリアティード様とのお茶会だ。メリアティードはレッフィルシュット皇国でも、南の方の領地。農作物の生産が盛んだ。特に、果物がおいしい。
「クリスティーネ様、お供はどうなさいますか?曜日で担当を決めていますが、今日ばかりは……」
「そうね。高学年は時間が被ってしまうもの……」
「ファミリア様とのお茶会は陰二の刻から。低学年でも、可能なのは二年生までですものね」
ハァ、とリーゼロッテとラナがため息をつく。
……ため息でも、美しい人がやると、絵になるなぁ。
我儘にも、ボーッと適当なことを考えていた。
いけない、いけない。
「介添えはフィリアーネとユティーナがいるし、文官もシリウスがいるから大丈夫だけれど、武官は……」
領主一族、皇族の側近にとって、一番重要視されるのが、武官だ。介添えも文官も、重要で、不可欠ではあるのだが、武官は主から危険を守るのが仕事だから。
「……では、コリスリウト、わたくしの成績は貴方が見てきてくださいませんか?」
「いいにはいいが……。見に行きたいのではないかい?私がそれなら、仕事をするよ」
「いいえ。コリスリウトから報告を聞けるのを楽しみに待っております」
レニローネがニコリと微笑む。
……何なんだろう。この空間。
やけに気まずい空間だ。そんな気まずい沈黙をラナが破る。
「では、レニローネ、シリウス、フィリアーネ、ユティーナでいいですね?」
『はい』
それから、クリスティーネは結果発表まで、本を読んだり、刺繍をしたりしていた。
「この試験の結果で、レスツィメーアを教えていただけるのかが左右されてしまうのですから、少し緊張してまいりましたね」
レニローネが呟くように、憂うような表情を見せる。
……そういえば、お兄様はそんなことをおっしゃってたなぁ。
ミカエルのあの宣言の後、正式に領地から通達がされている。他領に関しては、まだレトルートが皇帝と相談中だそうだ。
「上級貴族は30位以内でしたっけ」
「はい。わたくしは30位前後であることが多いので、微妙ですね。コリスリウトは……心配ないかと」
……イディエッテはどうなんだろう?
「イディエッテは……?」
「……どうでしょうね」
……そこで目線をそらさないでくださいませ、レニローネ!
「クリスティーネ様、そろそろ見に行きますか?」
フィリアーネにそう声をかけられ、クリスティーネたちは成績を見にいった。
現在時刻は11時半。10時頃は人が多いけれど、このくらいの時間ならば、人は少ないだろう。会場に入る。
「あっ、あれではないですか、順位結果」
フィリアーネがわくわくといった表情で、板を指差す。総合順位の板だ。
……可愛いなぁ。天真爛漫だ。
「……わぁ、どこだろう」
板を見上げる。一年生全員、200名ほどの名前が記載されているので、そりゃあ板が大きい。
「……あっ、クリスティーネ様ありましたよっ。1位です!」
フィリアーネにそう言われて、クリスティーネは一番下から見ていた視線を一番上に上げる。
【クリスティーネ・ヒサミトラール 1位 598点 ヒサミトラール 領主一族】
……1位、か。良かった。
クリスティーネは転生者だ。流石に他の人たちには負けていられないだろう。
「凄いです、クリスティーネ様っ!」
「ありがとう、フィリアーネ。さ、貴女のも探しましょう」
「はっ、はいっ!」
フィリアーネの順位を探し、その後にヒサミトラールの皆の順位も探した。
「ありました!クリスティーネ様、わたくし52位ですっ」
【フィリアーネ・シェジョルナ 52位 428点 ヒサミトラール 中級貴族】
「まぁ!凄いわ、フィリアーネ」
「ありがとう存じます。でも、お母様から出た課題は50位以内だったので、少し悔しいです」
……フィルオーナ、それは厳しすぎませんか!?
一般的に中級貴族の順位は80~150くらいで、上級貴族は15~70くらいだ。フィリアーネは凄く頑張っていると思う。
「いいえ、フィルオーナは厳しいのよ。フィリアーネは凄く頑張っていると思います。来年も頑張りましょう。ね?」
「はいっ!」
首を傾けて、同意を求めるとフィリアーネは大きく頷いた。
「あれ、これは……マルティオではありませんか?」
そういわれて、もう一度板を見る。フィリアーネが指をさした方向に視線を移した。
【マルティオ・ルイーゼ 14位 486点 ヒサミトラール 下級貴族】
……凄い。
それ以外の言葉が見つからない。下級貴族ながらここまで優秀だとは思わなかった。
……これは、お兄様にも報告しないと。
「次は領地対抗の順位を見ましょうか」
そう言って、会場から見て左側にある板の方へ行く。
「ヒサミトラールは……」
【ヒサミトラール 3位 415点】
「あったわ。3位。皆頑張ったわね」
「クリスティーネ様は1位なのに、少し残念ですね」
「そう?そんなものだと思うわよ」
ちなみに、1位はアードリスディッテ。2位はウェートスだ。
最後に、身分別の順位を見に行く。フィリアーネとは少し離れたところで、自分の名前を探す。領主一族の人数なんて十人もいないので分かりやすい。
【クリスティーネ・ヒサミトラール 1位 598点 ヒサミトラール
ツォルアン・アードリスディッテ 2位 516点 アードリスディッテ
リア・ウェートス 3位 502点 ウェートス
レイ・ミーティリジア 4位 496点 ミーティリジア
ファミリア・メリアティード 5位 494点 メリアティード
ヴァレンス・ノルシュットル 6位 490点 ノルシュットル
サカリアス・サンディトルズ 7位 484点 サンディトルズ】
領主一族はそんな感じだ。僅差ばかり。総合順位と変わっていない。そんなものだ。
……やっぱり、アードリスディッテの方々は優秀だなぁ。
アードリスディッテは皇族との縁がないのにも関わらず、影響力の大きい領地だ。優秀な人間が多いからだろう。総合順位にもアードリスディッテの貴族は上位ばかりだった。
それから、クリスティーネフィリアーネの方へ向かった。
「フィリアーネ、名前は見つかった?」
「はい。29位です。こちらはお母様の課題をぎりぎりこなせました。良かったです」
最後に、フィリアーネと教科別順位を見に行った。
三教科ほど、満点でツォルアン様の次に名前があった。残りの二教科はウェートスのリア様が満点をとっているものと、わたくしのみが満点をとっているものだ。
「間違えたのは……地理」
わたくしの苦手教科なので、仕方がない、と思いたい。ちなみに、地理の一位はジェラルド様の弟君、ヴァレンス様だ。
……それなりに自信はあったんだけど……。何で間違えたんだろう?すごく気になる。
フィリアーネはホッと安心したように笑った。フィリアーネはいい結果だったようだ。
「ではそろそろ寮に戻りましょうか」
「はい、クリスティーネ様」
そうして、寮に戻った。零の刻を軽く過ぎている。
順位と結果を記入する。領地に送るのだ。
それから、少し本を読んでいると、ユティーナとシリウスが戻ってきた。
「おかえりなさいませ、ユティーナ、シリウス。早かったのですね」
「ファミリア様とのお茶会もあるから、早めに行ってきたんだ」
フィリアーネの言葉にシリウスがそう答える。二人共、嬉しそうな顔をしている。いい結果だったのだろうか。
「結果はどうだったのですか?」
「……クリスティーネ様の側近になったからには、と頑張ったかいがあって78位をいただきました」
「私は69位です」
本当に嬉しそうにはにかむ。二人共、本当に素晴らしい結果だ。
「とても凄いです、ユティーナ、シリウス。本当に、おめでとう」
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