VI.二度目の試合 後編

キードゥル93年4月


……せっかくだし、レスツィメーアを使おうかな。


「カルス・レスツィメーア」


八本の矢をつくる。

火の魔力保持者に効きやすい、水の矢と雷の矢に追跡魔法を組み込んだ。追跡魔法はその名の通り、数秒間対象を追跡させる魔法だ。本来の魔法に必要な魔力に加え、その二倍ほどの魔力を加えなければならない。


「ヴォラーレル。フォーマカードゥ」

「マジェディ」

「……なっ!?」


コリスリウトは飛行魔法で避ける。その後に、反撃してきた。わたくしは火の攻撃を防御魔法で防ぐ。

後からたどり着いた水の矢と雷の矢に、コリスリウトは対応できず、矢は足と腕の結界を擦る。雷の矢で痺れたので、少し動きが鈍くなった。

そんなことで慢心していては、負けるのはクリスティーネの方だろう。


……結界を何度か攻撃すれば勝ち。それと、魔力含有量が多い方が多く削れる。


当たれば、勝てる。それは相手も同じことだ。


「アスクアリュード。……レスツィメーア」


レスツィメーアを小声で唱えた。追跡魔法を加えた、雷の矢だ。

マーギッシュカフは、一番基礎的な魔法だ。それ故、発動時間は最短で、到達時間も短い。それ以外の魔法、特に、矢を作るレスツィメーアや、波を作るフェンネムなど、形を作らなければならないものや範囲の広いものは複雑で、やや時間がかかる。

そして、アスクアリュードなどの水魔法や土魔法は実際に質量があり、重い。到達時間には時間がかかるが、質量があるためにマジェディ――魔法特化の防御魔法では防ぐのが難しい。


……だからこそ、フェンネムを選ぶ。


防御魔法を展開させず、飛行魔法で避けさせる。


「ヴォラーレル」


……予想通り。


コリスリウトはふわりと宙を舞った。波は真っ直ぐ進み、コリスリウトはその上を飛んでいる。魔力供給を止め、水が消えると同時に雷の矢がコリスリウトに向かって上に飛んだ。


「マジェディ!」


コリスリウトは足元に防御魔法を展開。雷の矢は散った。


……防がれた……。


流石は武官団長の息子だ。

次の攻撃に移ろうとすると、コリスリウトが先に攻撃体勢に移る。


「スバーデ!」


杖が剣に変わり、コリスリウトが距離を詰める。

剣を防ぐには変形魔法でもある、スクートゥム――盾を作る魔法を使うのが、最も合理的だ。

だが、杖とは言っても、偽物であるこの杖では使えない。


「マジェディ」


後ろに後退しつつ、防御魔法を発動する。コリスリウトが剣を振りかざし、展開した魔法陣にあたる。

パリンとガラスが割れるような音がした。魔法陣が崩れ、剣はこちらに向かう。


剣は体を覆う結界にあたり、クリスティーネにあたることはなかった。

だが、その衝撃で結界は壊れ、魔力で覆われていたような感覚がなくなった。


「……っ」

「やめ!コリスリウトの勝ち!!」


そのレンリトルの声に体の力が抜けた。杖にもたれかかって立っている状態である。

結果にいろいろとざわざわし始めた。


「大丈夫かい、クリスティーネ?」


ミカエルが駆け寄ってくる。その後に、クリスティーネの側近が続いた。


「大丈夫です。怪我はしていません」


ニコリと微笑むと、ミカエルは「良かった」と安心したように笑う。


「クリスティーネ様、凄かったですよ。わたくしも、クリスティーネ様の魔法を使ってみたいですわ」

「ありがとう、リーゼロッテ」


そうリーゼロッテが言うと、コリスリウトもやってきた。心配そうな表情をしてくれている。


「お怪我は?」

「ありません。コリスリウトは成長しましたね」

「当り前です。毎日、兄上たちや父上に勝てるように訓練していますから」


コリスリウトは苦笑交じりにそう言った。


「もう少し魔力を多く使うべきでしたかねぇ……」

「……え?クリスティーネ様はまだ魔力が余っているのですか?本当に一年生ですか?」


レニローネが驚いてそう言う。コリスリウトが答えた。


「クリスティーネは武官よりも幼い頃から訓練を行っている。まだ測定はしていないけど、魔力量は皇族にも引けを取らないと思うよ」

「そ、そうなのですね……」


レニローネが考えるように俯いた。しばらくは放っておこう。こういうときのレニローネは人の話が聞こえていない。


クリスティーネの体がだんだんふらついてきた。


「あの、あの……」

「何ですか?」


クリスティーネの言葉に振り向いたリーゼロッテが「え!?クリスティーネ様?」と驚きの声をあげる。


「あのぅ、あのぉ……眠いです」

「え……!?ここで寝たら駄目ですっ。早くお部屋に戻りましょう」

「はぁい……」


うとうとしてきた。油断していたら、瞼が下がっていく。

そんなとき、イディエッテが無表情ながら、決め顔のような口調で言う。


「クリスティーネ様、わたくしが運びます」

「え、いや、いいです。いらないですぅ……」


そんな問答をしている間にも、頭はカクンカクンと落ちる。

コリスリウトが何か合図をしたようで、イディエッテがクリスティーネを抱き上げた。


「失礼いたします」

「ふぇっ!?……イディエッテ、いいですぅ。降ろしてぇ……!」

「それはコリスリウトにお願いします」


イディエッテは知らん顔で、つんと澄ました顔をする。


……そこは降ろしてくださいよぉ、イディエッテ。


かくして、イディエッテに抱き上げられたまま寮に戻ったクリスティーネは寮に着く前に、眠ってしまったのであった。

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