聖女の復讐~復讐のためだけに生きるつもりだったのに他のことが楽しくてたまりません~

山内 琴華

〈零章〉呪われた子

プロローグ とても愉しい日

レフィルネーテ1年1月


何千か、何万年後の今日はとても愉しい日だ。


あたしが運命を変えた子が大きく運命を動かす日だ。別に運命を変えるなんて、初めてのことではないがな。でも、一番印象に残る出来事だッたなァ。


ここ、レッフィルシュット皇国のエミリエールで。


別に、影響力が大きいわけでもないエミリエールで起こッた――――否、起こした出来事だ。レッフィルシュット皇国という大国の歴史に名を刻んだ、とかそんなことはない。


第四領養女 マリナ・ドティフ・エミリエールと第三領女 アイシェ・エミリエール。

マリナ・ドティフ・エミリエールは美しくなッた。

真ッ白な肌。〈光の女神〉様のような金髪に、太陽のように光る橙色の瞳。

まさに、〈光の女神〉様の祝福を受けている、といわんばかりの容姿に生まれた――否、生まれさせた。

性格も優しく、明るい。

そりャあ、「聖女様」と呼ばれるのも頷けるよね。


アイシェ・エミリエールは醜くなッた。

書類仕事や洗い物で、荒れた肌。〈混乱の女神〉の黒髪に血に染まッた赤い瞳。

まさに、〈混乱の女神〉に目をつけられている、といわんばかりの容姿に生まれた。

性格も虐められッ子で、臆病。「第三領女は密かに何かたくらんでいる!」と声を上げる者まで。

そりャあ、「呪われた子」と言われるのも仕方がない。


さて、エミリエールは果たしてどうなるのか。仲の良い養姉妹、マリナとアイシェの関係はどうなるのか。


あたしはその結果を知ることができる。最終的な結末はどうなるのか。でも、そこに至るまでの過程を知ることはできない。


結果を知ッているからこそ!過程を見るのはさらに、より多く、増大して、愉しめる。それに、人間という愚かな生き物はとても面白い。


これが、あたしに与えられた仕事―—否、使命の中から見つけ出した愉しみなのだ。あたしと同じ立場にいる他の奴らも同じように、使命の中から楽しみや趣味を作り出す。そうでなければ、どんな生き物よりも長い年月を生きるあたしらは、一生同じ事をやるのにやッてられないでしョ。


運命というのは人という糸が絡み合ッてできるのだ。その糸の心情が、考えが、意図が、絡みに絡まッて歴史ができていく。

その絡まり合う結果も、過程も、全てが面白い!愉しい!楽しいッ!



恍惚とした心情に浸ッていると、男が肩を殴る。恍惚とした心情から一気に現実に引き戻されたような気がする。


「――おい!」


……手加減しろッての。


その気持ちをそのまま表情に出して、目の前にいる男に顔を向ける。ついでに、煽るように目を向けておいた。


「あァ、なァに?前にも言ッたんだけどさァ、お前の力は結構強いの。特権のせいもあるんだけどさ。あたしでも痛いんだ。手加減しろ。それとも、可愛い可愛い女の子を殴り殺す趣味でもあるわけ?あ、泣き喚いてほしいのォ?」


「はぁ?馬鹿馬鹿しい。其方は阿呆だ。私にそんな趣味があるわけなかろう。私が何度呼んでも、其方が返事をしないのだから仕方ない。あと、別に其方は何から何まで可愛くない。可愛い要素など一つもない。勘違いは早急にやめた方が身のためだぞ」


本気で心配そうな顔をしているコレに腹が立ッてくる。今からでも遅くない。燃やし尽くして、木端微塵にしてやろうか。


「あッそ。そんなこと、あたしだッて知ッてるし。で、何?」

「〈火の女神〉様がお呼びだ」

「……なんで、お前がわざわざ言いにくんの?」


コレは〈雷の神〉様の眷属。あたしは〈火の女神〉様に仕える眷属だ。それに、あたしらの主人同士は仲が悪いので、眷属も大体対立してる。あたしだッて、コレ以外に仲の良い〈雷の神〉様の眷属はいない。あたしらが特殊なのだ。


「私は〈束縛の神〉とは仲がいいからな。私は〈雷の神〉様の中でもそちらの眷属とは中立派。他も、其方以外の眷属が過激すぎるだけのことだ」

「それだから、裏切り者ッていわれるんじャないの?ま、いいけどさァ。ん、じャ。行ッてくるよ」


コレにフラフラと手を振り、未来に住まうエミリエールの平民に思いを馳せる。


「さァ、あたしを楽しませてね、マリナ」


何千か、何万年後の今日はとても愉しい日だ。

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