第2転「それは転生と言うにはあまりにも」
「あんたさぁ、幽霊か何か?それとも悪魔?どっちにしろ僕の身体に何か変なことしたら承知しないよ?」
僕の頭の中で生意気そうな少年の声が響く、それはきっとこの身体の「本当の持ち主」であることは明白だ、この異常事態に対して困惑に喘ぐ僕の声と全く同じなんだから。
目の前のこの鏡に映る金髪のマッシュカットヘアに瑠璃色の右とプラチナ色の左の瞳、温和そうな整った目鼻立ちに高山〇な〇さんに似た声、これは決して僕の身体じゃない。
僕の容姿は黒髪の茶色の瞳で如何にも日本人といったような容姿、レイに人懐っこそうと言われた顔つきに体育会系なケニーよりも控えめな体格、それが僕の容姿なはずだ。
だというのに、これは一体どうなってるの!?なんで僕はこんな小さな男の子に!それにここは一体どこ!?
「ねぇ、早く僕の質問に答えてよ?いきなり人の身体を乗っ取っておいて無視とか、ふざけてんの?それに僕辺り一面真っ暗な場所にいるんだけど、これ隅に追いやられてるみたいで腹が立つよ」
「こ、答えろって言われても、僕も何が何だか分からないんだよ、確か...大学を出てノートを買いに行った時、信号が変わるのを待ってたら変なトラックに突っ込まれて...そこから記憶が曖昧だ...」
「はぁ?大学?トラック?何それ?そんな聞いたことないもので僕を誤魔化せると思ってるの?もっと頭を使ってマシな言い訳考えれば?」
「へっ?いや...言い訳なんかじゃ...って酷いこと言うなぁ。あとその声色だともしかして、トラックのことを知らない?貨物自動車って聞いたことある?一応トラックの正式名称らしいんだけど」
「そんなの聞いたことないんだけど、僕が今まで生きてきた中で...あぁもう僕の頭の中にもあんたの声が響いてきて紛らわしい!今から【俺】って言うから!あんたと同じ一人称とか嫌すぎる!」
「なんか酷いなぁ!だから僕も故意に君の身体を奪ったわけじゃないんだって!」
「うるさい!信じられるかこのクソ野郎!外道魔道士!」
「いだだだだ!?左手が勝手に!?ほっぺをつねるなぁー!?」
僕は勝手に動く左手をなんとか必死に押さえつける。
「はぁはぁ...おい!これ君の身体だろ!?後で後悔するのは君なんだからな!僕も痛いし止めろ!それより本当にどうやってんの?さっきの中指もそうだけどさぁ」
「ふんっ...信用出来ない奴に俺が話すかバーカ!」
「なっ...!クソガキ...!」
なんなのこの子!?今すぐに嫌いになりそうなんだけど!?
その時、部屋の扉がノックされ返事も待たれずに開けられて、茶髪のメイドさんらしき人が寝間着姿にランプを持って僕の様子を伺ってきた。
「ハウゼル様、何か急を要するようなことでもございましたか?何やら叫んでおられたご様子でしたが...」
「おい!誤魔化せよ!面倒なことになる!」
おそらくハウゼルというのがこのクソガキの名前なんだろう、頭の中でうるさいほどに叫んでくる、それにしてもこいつもしかして良家の人間なのか?よく見たらこの部屋、まるでお屋敷の一室みたいに広い。
「うるさ...!」
「ハウゼル様?」
「い、いや...特に何もありませんよ。ただ部屋が暗かったので躓いて軽く膝をぶつけてしまっただけで...」
「おい!俺はそんな気持ち悪い話し方はしない!何やってんだよ!」
いでででで!?こいつ後ろに回した手で背中に爪立ててきやがったぁー!?
「...?いつもより口調が大人しい気が...」
「な、なんでもないですよ〜!」
「...ッチ」
えっ...?今、このメイドさん...目の前で露骨に舌打ち...した?
「こんな深夜に面倒なこと起こすのやめてくれない?あんたのせいで仕事増やされるとか嫌なんだけど。ただでさえ屋敷のこんな端っこの部屋に追いやられる邪魔者なんだから追い払える年になるまで大人しく出来ないわけ?」
メイドの女は恨めしそうに僕のことを見ると心底不快そうに舌打ちしながら「次面倒事起こしたら、またあの熱い蝋をあんたのその気持ち悪い目に向かってぶっかけてやるから」と吐き捨てるように言うと扉を強く閉め、足早に足音を遠くに運んで行った。
扉の向こうから微かに「なんで私があんな奴の隣で様子を見張ってなきゃいけないのよ、あぁ本当にムカつくガキ!」と言う声が聞こえて来ていた。
「...」
「おい、お前のせいでまるで俺のせいみたいになっちゃったじゃん。どうしてくれるんだよ、おい...聞いてんの?ねぇってば」
次の瞬間、ぐらおは心の底から今まで出したことのないような凄まじい怒りの感情をその声に乗せ叫んだ。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁー!?なんなのあのクソ女ぁー!?」
「...っ!?え...ちょっと、いきなりそんな大きな声出したらまたなんか言われるって...!」
「それがなに!お前の事情はよく知らないけどいきなりあんなこと言われたら腹立つに決まってるでしょうが!それにあれメイドでしょ!?そんでお前は多分雇い主の息子かなんかでしょ!?なのにあのクソ失礼な物言いはなに!?関係ない僕まで聞いてて腹が立ってくるよ!!」
「ちょっ...と...なにマジになってんだよあんた。関係ない奴が嫌われてるってだけで、そんなマジになって怒るとか...」
「ねぇ!あの女何!?なんでお前にあんな態度とってきたわけ!?」
「その...俺は忌み子なんだ、この2つの目は【魔女の目】っていう呪いで、この左目は不幸を、右目は幸運を運ぶって言われてる。俺は大人になったら2つとも左目と同じ色になるから、要らなくなったら両親から屋敷を追い出される、今ここに置いてもらえてるのも利用価値があるからってだけなんだよ」
「ふ...ふ...!ふっざけんなよぉぉー!!何そのクソみたいな話!?親の風上にも置けない!我が子が呪われてるのに用済みになったらポイ!?はぁぁー!?」
そして身体をも追い出されぐらおに取って代わられたハウゼルの身体の中、頭の中の隅っこにも思える暗闇に満ちた空間、1人しゃがみ込み目の前の白いモヤのような映る怒り狂うぐらおをただ見つめている少年。
ハウゼルはこの関係のない赤の他人の境遇にここまでの怒りを抱いているこの男の怒りっぷりを、そして頭の中に響いてくる声と共に心に流れ込んでくるその理不尽への憤りに、ぐらおには見せないほんの少しの信用を覚え始めていた。
「...変なやつ」
そう言いつつも、その声色は暖かい寝床を見つけた拾われた子猫のようにどこか和らいでいた。
しかしぐらおのその乱れは目の前に「あのタイトル画面」がどこからともなく現れたことにより水をかけられたかのように鎮まる。
「っ!?これは!」
「んっ...なに?お兄さん知ってんの?」
奇天烈にも空中にポカンと浮かびながらディスプレイもなく表示されているその画面には、あの泣いている白いワンピースの女のアイコンはなく、ゲームの普通のタイトル画面がただ表示されているだけだった。
しかし画面はタイトル画面から勝手にプレイ画面に移り変わり、画面にはハウゼルの姿のぐらお自身がドットで写っている、そして画面の左横にパーティーメンバーの情報が表示されており、ぐらおの他に「あと2人」入れることを空欄が示していた。
「な、なんだ!?何このクソなろう系お馴染みのウィンドウみたいなの!てかこれ僕の本名じゃん!」
ゲーム画面に表示されたぐらおの名前はニックネームのぐらおではなく、本名の「
そのメッセージの内容とは...
「初めまして、
不思議な縁に「引き寄せ」られて...
to be continued
Geek×Boy 異世界トリップ シロニ @shironi3
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