第5話 魔王決戦・苦闘の章

 戦場に現れた魔王の威容は、ただ立つだけで兵の心を砕いた。

 黒き王冠、燃える双眸。纏う気配は、存在そのものが災厄と化したかのようだった。


「愚かな人の子らよ。覇断の勇者とて、我が前では無に帰す」


 魔王が腕を掲げると、天が裂けた。

 黒雷が降り注ぎ、数百の兵士が一瞬で灰と化す。

 リリアの結界も軋み、彼女は膝をついた。

「っ……この力は、防ぎきれない……!」


 青年は歯を食いしばり、剣を振るう。

 覇断の刃は雷すら裂いたが、その直後、魔王の拳が彼を叩き伏せた。

 衝撃で大地が割れ、青年の体は血に染まる。


「まだ立つか。だがその力では、我を斬れぬ」

 魔王の声は冷酷だった。



 その時、カインが立ち上がった。

「勇者殿を……守れぇぇぇ!」

 血にまみれながらも盾を掲げ、兵たちを奮い立たせる。

 矢も剣も通じぬと知りながら、彼らは魔王に立ち向かった。


 次々と倒れる兵士たち。

 そして――カインの盾が砕けた。

「ここまで……か……」

 致命の一撃を受け、彼は倒れ伏す。


「カイン!」

 リリアの悲鳴が戦場に響いた。涙を浮かべながらも、彼女は最後の魔力を振り絞り、巨大な光槍を放つ。

 だが魔王は片手でそれを掴み、粉々に砕いた。


「人の抵抗など、虚しい」

 魔王の掌がリリアへ伸びる。


「やめろぉぉぉッ!」

 血を吐きながら、青年は立ち上がった。

 しかし剣は重く、膝は震えている。


 魔王は冷ややかに笑った。

「覇断の勇者よ。お前の力は“物質”を斬るだけ……我が存在を斬ることはできぬ」


 絶望が、戦場を覆った。

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