「影が立っている」

人一

「影が立っている」

影は、いつもそばにいる。

それに見られている。と感じ始めたのはいつからだろうか。


いついかなる時も、ピッタリと自分にくっついて離れない。

分かたれた分身。

まさしく裏切ることの無い影武者。


何気なく足元の影に視線を落とすと、目が合った。

……気がする。


忠実に私の身体を映し出す影を、評価しようだなんて、考えたことは無い。

だがもしかすると……影は違うのかもしれない。

『自分の主人はこいつでいいのか。』

そんな値踏みをされている感じがする。


私は、影に気を遣うことなく振る舞う。

影は、私に文句を1つとして言わず付き従う。

誰もが同じ、当たり前の日常。


だが仮に、影に目があったところで何ができるだろうか。

確かに怖いし不気味だが、逆に言えばそれ止まりだ。

何をされる訳でもない相手に、神経を擦り減らすのは、愚か者がすることだ。

きっと『目が合った』という感覚も、気のせいなんだろう。

……だって、影には合わせる目がないのだから。


影は、今日もそばにいる。

もう視線を感じることは無い。

ただ、静かに存在している。

だが、確かに存在感を放っている。


影が立っている。

昨日も、今日も、明日も、これからも。

私たちの、足元、背後、どこにでも。

誰にも何も主張することなく、揺らめくように立っている。




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「影が立っている」 人一 @hitoHito93

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