嘘と真が入り乱れる華麗なる世界の終焉

ネット上にあふれる多種多様なブログ。かつて仕事や家事の合間に、気分転換や情報収集のためにブログを読み漁ったことがありました。次第に隙間時間ではなく、ブログを読むために時間を捻出するようになり、ぞっとしたことがあります。誰かの日常を垣間見て、時にその人と直接交流できるというのは、どうしてこうもわくわくし、ときに執着してしまうのでしょう。

それは読む方ではなく書く方も同じでしょう。たくさんの人に読んでもられえば嬉しい。コメントをもらえばなお嬉しい。ちょっとだけ嘘を織り交ぜつつ、刺激的なブログを書いて、読者をひきつけておきたい、そんな気持ちになることでしょう。ただ、その人気が現金収入に直結するとなれば、これはブログというのものが目指す方向性を大きく捻じ曲げてしまいます。

『シングルマザーの怪奇調査ノート』は都市伝説の正体に切り込むと謳ったレイコさんのブログです。都市伝説そのものが真偽怪しい、というか、たぶんに面白おかしく創り出されたフィクションばかりでしょう。でもその言葉の持つ吸引力は半端ありません。ブログを目立たせるにはうってつけの題材です。

そこに真っ向から切り込み、ベールを取り去っていくと、「たいてい」その先には何もないので、取り去る過程ににおわせぶりなものをまき散らし、ベールも最後の一枚をはがさずに余韻を残すなど、工夫が必要です。

ある読み手は疑うことなくレイコさんを応援し、その一挙手一投足にどきどきはらはらするでしょう。ある読み手は最初からフィクションととらえてエンタメ小説的に楽しむのでしょう。ブログにどれほど真実味を感じるかは読み手それぞれです。ブログが順調に運営されている間は、みんながそれぞれの楽しみ方で楽しめているのです。

ブログである以上、その運営はブログ主にゆだねられています。人気ブログが突然終了されることだってまれではありません。そして終了してしまえば、裏にどんな事情があったのか読み手が知ることはできません。ブログの記事も主との交流も、束の間お邪魔させていただいた「よその世界」だったことを思い知らされるのです。

レイコさんの調査は謝罪記事にあるように収益に目がくらんだレイコさんのでまかせだったのでしょうか? P券関係者がなりすましで書いた可能性はないでしょうか? P券は存在し、その販売者やストーカーも存在していたら? そして行方不明の加賀見 玲子さんがレイコさん本人だったとしたら? ブログの読者にはそれらを知るすべはありません。

ブログの世界が真実であろうと虚構だろうと、そこに大差はありません。読者を魅了した人気ブログが破綻してしまったとき、現実世界と望ましくないかたちでリンクしてしまうことこそ、ブログ世界の真の終焉なのではないか、そんなことを考えさせられるホラーでした。

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