椿

ファシャープ

第1話

雪だ。


真白に輝くそれは、真黒にうずまく天から舞い降りていた。


街灯の下を西よりの方から吹いている。


木の葉にしたたるとけ水は、光をたっぷりと含み、ふるふるとふるえながらやがて落ちた。


外気温は3℃、体感温度0℃の中、それは僕の体をゆっくりと冷ます。


ポトポトとしたたる音。


車の、水を引く音。


まるでかき氷のようなそれがシャリシャリと音を立てていく小気味よさが、たまらなく僕の心を満たした。


現在時刻18:00。


気になるあの子と待ち合わせをしている。


街灯に照らされる雪の結晶が、影絵のようにくっきりと影を落とす。


もうこんな季節なのかと心からのため息を吐くと、白いモヤが風にのって暗闇に食べられるのだった。


まだ来ないのかなと、カイロの入ったポケットに手を突っ込んでると


「お待たせしました〜!」


元気な彼女が手を振りながらこちらへ走ってくる。


反射的に振り返した僕の手は赤みがかり、頬は緩んでいた。


白黒だった世界を、彼女は美しいほど鮮やかに色付けてしまった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

椿 ファシャープ @Fasharp2

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ