第7話

第六章 世代の物語


 夕暮れ時、窓辺の光がゆっくりと色を変えていく。

 白いカーテンに映る影が、どこか懐かしい姿に見えた。

 ――それは、私の父母の面影だった。


 病室を訪れた両親は、以前よりも小さく、そして静かになっていた。

 椅子に腰かけ、言葉少なに私の顔を見つめている。

 その視線の奥には、長い年月の積み重ねが刻まれていた。


 私はふと思い出す。

 幼い頃、母の声で読み聞かせられた物語。

 父に肩車をしてもらったときに見た、空の広さ。

 それらの記憶が、いま自分が子どもに絵本を読み聞かせてきた時間と重なっていく。


 世代は重なり合い、物語は受け継がれる。

 かつて私は「語られる子ども」であり、やがて「語る親」となった。

 そして今、病床にある私は、再び「語りを受け取る存在」に戻っている。


 父母が差し出す小さな言葉は、手紙のように短くても、心に深く沁みる。

 「無理するな」「ここまでよくやってきた」

 その声は、時間を超えて私を抱きしめていた。


 六尺の空間に、三世代の声が響いている。

 絵本の読み聞かせから、手紙のやりとりへ。

 そしていま、親から子へ、子から親へ、さらにその上の世代へ――物語は連なっている。


 窓の外に、淡い夕焼けが広がっていた。

 その光は、まるで世代をまたぐリレーのバトンのように、静かに病室を照らしていた。


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