第2話
第二章 時間の頁をめくる
カチ、カチ、カチ――。
病室の静寂の中で、時計の秒針の音だけが響いている。
一秒ごとに刻まれるその音は、まるで時間が私から少しずつ削り取られていくように重たかった。
けれど、そのリズムに耳を澄ませているうちに、ふと思い出す。
かつて、子どもに毎晩読み聞かせをしていた頃のことを。
声を出して一冊、また一冊と読み進めるたびに、ページをめくる音が重なっていった。
――それはまるで、秒針の音と同じように一定のリズムを刻んでいたのだ。
三十冊を読み終える頃、子どもは夢の中にいた。
私の声は子守唄のようになり、時計の針と競い合うように夜が流れていった。
その時間は、何も削り取ることなく、むしろ満ちていくものだった。
今、病床にいる私にとって、時計は違う顔をしている。
秒針の音は「未来を奪う刃」のようにも思える。
けれど同時に、あの頃の記憶を呼び覚まし、「時間は生きる物語を刻むためのリズムでもある」と囁いている気がする。
子どもが成長し、大学を卒業するまでに流れた時間。
その長い川の流れは、いま私の六尺の空間にも確かに届いている。
時計の針は、奪うものではなく、受け継ぐものを刻んでいたのかもしれない。
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