第21話 決意の日 ② (渡是 芽衣 編)
「これで、とりあえず大丈夫だと思うんだけど……」
私は買った食材を再確認すると会計を済ませ、近所のスーパーを出る。
スマホで時刻を確認すれば、9時15分。
うん、概ね予定通りだ。
榛くんの家まではここから、15分くらいだから、9時30分くらいには着くだろうか。
そんなことを考えながら歩き始めると、少し肌寒い風が頬を撫でる。
少し早い木枯らしだろうか。
ふと辺りを見渡す。
街路樹は少しずつ紅く色づき始め、足元は沢山の落葉が道を彩る。
その光景は、秋の到来をこれでもかと感じさせた。
そういえば、タイムスリップする前。
いや彼に振られたその瞬間から、世界はモノクロのようだった。
それが今や辺りはいろんな色で溢れていて、少し眩しいくらいで。
きっと私は、欠落していた“何か”をようやく取り戻したのだろう、そう強く感じた。
やっぱり、私には榛くんがいないとダメなんだ。
そう再確認すれば、私の足は先ほどよりも軽くなる。
早く榛くんに会いたい、お話がしたい、触れ合いたい。
様々な願望が心に湧いてくる。
しかし、そんな私の気持ちを邪魔するように、秋風は向かい風を寄越してきた。
逆風──今思えば、それは私の今日一日を示していたのかもしれない。
♢
「おじゃましまーす……」
誕生日に榛くんからもらった合鍵を使って、家に入る。
返事がないし、物音や足音も聞こえない。
まだ、寝てるのかな?
初めて入るはずなのに慣れた足取りで彼の寝室へ向かう。
一呼吸して、ドアを開けると榛くんはベッドの上で寝ていた。
これも記憶では知っていた、彼の寝顔。
しかし、それを肉眼で見れば──かわいい、そう思ってしまう。
これが母性なのだろうか。
ついほっぺを触ってしまいたくなったり、写真を撮りたくなるのを必死に堪えて、寝室を後にする。
取り敢えず、榛くんの所在は確認できた。
あとは前もって考えて来たプラン通りに進めるだけでいい。
少しだけが気持ちが楽になるが、油断は禁物だ。
念のため、絆創膏を剥がして指輪を確認するが色はいつもの黒色。
近くに誰かがいると言うことはなさそうだ。
確認を終えるとまた絆創膏を巻き直した。
絆創膏──これは、榛くんに指輪の存在を勘付かせないための、カモフラージュだ。
ご飯を作っていた際に、包丁で怪我をしたという事にすれば、榛くんは信じてくれるはず。
そう信じて具材まで買ってきたわけだけど、順調すぎて急に心配になってきてしまった。
思わず、床にしゃがみ込むとズボンのポケットから合鍵が落ちる。
そうだ、そうだよ。
私は、恋の戦争に勝利してこれを手に入れたんだから大丈夫だよ!
勝者の証とも言える合鍵からの鼓舞を受けて私は立ちあがった。
よし、気合十分! 絆創膏作戦成功のためにも、早くご飯を作らなきゃ!
そうして、買って来た具材や冷蔵庫にあった物を使ってハンバーグとサラダを完成させ、一息つけば時刻はあっという間に11時になっていた。
榛くん、中々起きて来ないなぁ……。
なんて思っていると、タイミングよく寝室の方から何やら音が聞こえてきた。
悪いことをしているわけではないのに、心臓がどきりと跳ねる。
大丈夫、あとはプラン通りにやるだけなんだから。
自分にそう言い聞かせると、居住まいを正し、榛くんが部屋から出てくるのをゆっくりと待ち────そして、寝室の扉が開かれる。
「おはよう、榛くん。よく眠れたかしら?」
こうして、私の運命の日が幕を開けた。
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2025.9.25 新作をあげました。
ヤンデレ少女達に責任を取らされる話
↓
https://kakuyomu.jp/works/822139836336866080
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