2 帝国行き
父である国王に呼び出されて告げられた内容に、ディーウィットは言葉を失っていた。
躊躇いもなく下された命令は、「皇帝の皇配となるべくすぐに帝国へ赴くこと」だったのだ。
父の話では、皇帝から届けられた親書に『王家の至宝、夜の光石の化身を我が妻に所望する』といったようなことが書いてあったという。『夜の光石の化身』など聞いたこともないディーウィットは、最初聞いた時はなんのことやらと思った。何故なら、王家には妻に差し出せる独身女性はいないからだ。となれば三人の王子の内の誰かのことしかないが、まさか仮にも天下の皇帝が男を妻に望むだろうか。
さすがに何か行き違いがあるのではと思い尋ねようとしたが、父は取り付く島もなく、ディーウィットに質問すらさせてくれなかった。
後で聞いた話では、王家の四人の間で先にこんな会話がなされていたらしい。
「王家の至宝と言ったら、可愛いデアーグのことしかないではないか! 皇帝すら魅了してしまうなど、さすがはデアーグ! だが、デアーグは渡すことはできないぞ!」
と言う父に、「勿論ですわ!」と賛同する母である王妃。
そこに兄である王太子が、「父上、母上。幸いにも、向こうは明確にデアーグを寄越せとは書いてきておりません。だったら役立たずのディーウィットをやってしまえばいいではないですか」
と入れ知恵したらしい。
「兄上、頭いい! 皇帝っておじさんなんでしょ!? ディーウィットは可哀想だけど、おじさんに嫁いだらやっとこの国の役に立てるよね!」
「あの役立たずのディーウィットのことまで心配するなんて、私たちのデアーグちゃんはなんて心優しいんでしょう!」
「愚図なディーウィットに王家の宝であるデアーグの爪の垢を煎じて飲ませたいものだな!」
「父上、デアーグの爪が勿体ないですよ!」
「もう兄上ったら、ひどーい!」
「ワハハッ」
この会話については、事情を知る古くからの臣下のひとりに教わった。あまりにもな内容に、伝えることを躊躇ったそうだ。逆に申し訳なさで、ディーウィットの方が恐縮してしまった。
「それは……僕に伝えるのは嫌だっただろう。すまないな」
「いえ、こちらこそ、お止めできず申し訳ございません……」
臣下に泣かれてしまい、泣きたいのはこちらだと、ディーウィットは心の中で溜息を吐くしかなかった。
なお、皇帝に対する返信はすでに送付済なのだそうだ。「逃げるなどと馬鹿なことを考えるなよ」と実の父親に睨まれながら言われてしまえば、元々発言権などないに等しいディーウィットが異論を述べることなど不可能だ。
国王の言葉は、既に決定事項なのだ。ディーウィットの意思など問われることなく、こうしてディーウィットの帝国行きは決定した。
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