20 暗殺者と若き剣帝(後半アルゴス視点)
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「何者だ? なぜ俺を狙った?」
俺は黒装束に問いかけた。
奴は答えない。
無言で、そしてノーモーションで二本目のナイフを放ってきた。
「!」
完全に意表を突かれた一撃だったが、俺は半ば体が勝手に動く感じで、それを避けることができた。
【竜翼】の紋章をあらかじめ発動させておいて助かった。
この紋章の超反応能力がなければ、今ので殺されていたはずだ。
「――今のも避けたか」
男がわずかに目を細める。
今度は俺が無言で、ノーモーションで一気に床を蹴った。
このまま距離を詰めてやる――。
「…………」
が、奴も俺の行動を読んでいたのか、すぐに大きく跳び下がった。
「新人とは思えぬ手練れの動き……お前こそ何者なのだ」
黒装束が問いかける。
「……そうか、魔族を退けたのはお前か――」
「お前の知ったことじゃない」
俺はふたたびノーモーションで突進する。
【竜翼】の紋章の力も上乗せし、超スピードで距離を詰める。
が、黒装束はやはりそれを読んでいたらしく、大きくバックステップする――。
「そこだ!」
その瞬間、俺はいきなり右手から青白い光弾を放った。
「くっ……」
黒装束の両手に黒い輝きが宿る。
「【ダークウォール】!」
そして防御魔法を発動した。
こいつ、魔法も使えるのか――!
どおおおおんっ!
すさまじい爆発音が響く。
黒煙が晴れると、その向こうには装束がズタズタに裂けた奴の姿があった。
すらりとした長身の青年。
その顔はゾッとするほど整っていた。
「ここまでの威力とは――」
男がうめく。
「……いずれ、必ず仕留める――」
言うなり、男は背を向け、走り去った。
一瞬のことに追うのが遅れる。
慌てて追いかけるが、既に奴は建物を出て、闇夜に消えて行った後だった。
恐ろしいほど手際の良い逃走――最初から逃げることも選択肢の一つに入れ、すべて計算して行動していたということか。
「一体、誰が俺の命を狙っているんだ……?」
首席合格を妬む誰かなのか?
魔族を退けた俺の力を恐れる者がいるのか?
あるいは――。
いずれにせよ、俺の敵は帝国だけではないのかもしれない。
※
SIDE アルゴス
扉が開き、黒装束の男が入ってくるのを、少年は冷ややかに見据えた。
「遅かったな、レザレ」
「――申し訳ありません、殿下」
黒装束の男レザレは彼の前に平伏した。
少年――アルゴス・ルーファスはわずかに顔をしかめる。
「その様子だと失敗したようだが」
「…………」
レザレは答えない。
「我らと魔族のつながりは、まだメルディアに嗅ぎつけられるわけにはいかん。オルバレオの愚か者のせいで、目撃者の始末はこちらに回ってきた……」
アルゴスは苛立ちを露わにする。
彼は生まれながらにして剣の才能に恵まれていた。
その才は幼い頃から周囲を圧倒し、わずか十歳にして『若き剣帝』との異名を持つほどだ。
しかし、彼は別に優れた剣士として名を馳せたいわけではなかった。
彼には夢と野心があった。
平和な中堅国であるこのルーファス帝国を、いずれ大陸に覇を唱えるような超大国にしたい。
しかし現皇帝、つまりアルゴスの父は平和を望んでいる。
いずれは皇太子である彼が父の跡を継いで皇帝になるだろう。
だが、それでは遅い。
だからこそ、アルゴスは極秘裏に魔族と接触した。
来たるべき大戦争に備え、彼らと同盟を結び、さらに魔獣兵器を開発して圧倒的な兵力を帝国全土に配備する――。
その実験の最中、メルディアの一部隊が調査任務にやってきて、魔獣兵器を、さらにはそれを操っていた魔族オルバレオを目撃されてしまった。
今はまだ、ルーファス帝国と魔族とのつながりを知られるわけにはいかない。
ゆえに、その部隊の全員を始末するよう、帝国最高の暗殺者と呼ばれるレザレと接触し、依頼したのだ。
「あの日、魔族を目撃した連中は演習中の事故に見せかけて全員殺しました。ただ、一人だけその演習に参加していなかった者がおり、それも殺しに行ったのですが――」
レザレがうめく。
「お前ほどの男が仕損じるとはな」
アルゴスがため息をつく。
「あるいは、帝国最高の暗殺者というのは評判倒れであったか?」
「お言葉ですが、その少年は人知を超えた力を持っていました。おそらく魔族を退けたというのは彼でしょう」
レザレが抗弁する。
「そんなことは予想できたことであろう。お前はそれに対する備えを怠ったのだ!」
アルゴスが叱責する。
剣を抜き、レザレに突きつけた。
一度激するとうまく己を抑えられないのが、自分の欠点だ。
分かってはいるのだが、どうにも自分を止められなかった。
「私を斬りますか、殿下?」
レザレは冷たい目でこちらを見上げている。
まるで『お前の器はその程度か?』と挑発されている気分だった。
「……ちっ」
アルゴスは剣を収めた。
なんとも言えない苦い敗北感があった。
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