10 再会と誓い
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「ゴードン副団長、なんの騒ぎだ」
エドウィン団長が問いかける。
「だ、団長閣下……! これは、その……し、新兵の訓練に、少しばかり熱が入りすぎてしまいまして……」」
ゴードンはすっかりうろたえている。
さっきまでの威圧的な態度は完全になりをひそめていた。
典型的な『上には弱く、下には強い』タイプなのだ。
「訓練だと? 入団式の日に、わざわざ?」
エドウィンの視線は冷たかった。
「君の新人いびりは私の耳にも届いているぞ。是正するように再三申し付けたはずだが?」
「うう……」
「騎士団の品位を落とす行為は慎んでもらいたい」
「も、申し訳ありません……!」
ゴードンは深々と頭を下げた。
その光景を見ながら、俺は未来の出来事を思い出していた。
エドウィンは有能で、誰からも慕われる偉大な騎士団長だった。
けれど、彼は不慮の事故で命を落とすことになる。
そして、その後釜に座ったのが、無能な二代目団長だった。
つまり団長と副団長に無能がそろった格好だ。
結果、彼やゴードンのせいで騎士団は弱体化し、帝国との決戦ではロクに役に立たなかった。
それどころか、味方の足を引っ張って無様に戦死する始末だ。
もし、エドウィン団長が生きていてくれたなら……。
帝国との戦争で彼が騎士団を率いてくれていたなら、未来は大きく変わっていたはずだ。
――未来を変えるためには、エドウィン団長に死なれては困る。
彼を守ることも、俺の使命の一つだ。
決意を固めた、そのときだった。
「エドウィン団長。ゴードン副団長。そちらは新人の方々でしょうか? みなさま、ごきげんよう」
鈴を転がすように可愛らしい声が近づいてきた。
美しい銀色の髪を足元まで伸ばし、紫色の瞳は慈愛に満ちている。
まだ幼さを残しながらも、気品とカリスマ性を感じさせるたたずまいに、俺たち全員が息を呑んだ。
「ルナリア王女殿下!」
エドウィンもゴードンも恭しく一礼した。
俺とミゲルもそれにならい、深々と頭を下げる。
ルナリア・メルディア――この国の第三王女だ。
そして――未来において、俺が命を懸けて守ろうとした女王陛下。
ああ、ルナリア様……!
未来の記憶が鮮明によみがえる。
この時点では、彼女はまだ第三王女に過ぎず、王位継承権は低い。
けれど今から五年後、メルディア王家はお家騒動に見舞われる。
野心あふれる王子や王女、そして腹黒い貴族たちの思惑が渦巻く、熾烈な政争が繰り広げられるのだ。
その中で、他の王族たちは次々に失脚し、最終的にルナリア様が次期女王の座に就くことになる。
彼女はその可憐な見た目とは裏腹に、強い意志と優れた知略を秘めている方だった。
そんな彼女のカリスマに惹かれ、多くの有能な人材が集まり、彼女の治世を支えることになる――。
が、それはもう少し先の話だ。
それに……この世界が、俺が体験してきた未来の歴史通りに進むとも限らないからな。
「騒ぎになっているのが聞こえましたが、ほどほどになさってくださいね。今日は新人騎士たちにとって晴れの日なのですから」
ルナリア様が穏やかに微笑んだ。
その笑顔には、人の心を自然と惹きつける不思議な魅力が宿っていた。
やがて、その魅力は女王として多くの臣下を魅了するカリスマへと成長していくはずだ。
「エドウィン団長。今年の新人たちはいかがですか?」
「はっ。例年になく粒ぞろいかと」
エドウィンが俺とミゲルの方を振り返った。
「こちらは首席のグレン・ブラスティと次席のミゲル・ラース。いずれも将来が有望な逸材です」
どうやら彼は既に俺とミゲルの顔と名前を覚えていてくれたらしい。
「まあ、首席と次席なのですか」
ルナリアの瞳がまっすぐに俺とミゲルに向けられた。
――どくん。
心臓が痛いほど跳ねるのを意識する。
俺は十五年間、ずっと彼女を想い続けてきた。
王女と平民の騎士から、やがて女王と六神将へと。
関係性は変わっても、決して許されぬ恋だということに変わりはなかった。
だから、ずっと――自分の胸一つに秘めてきた想いだった。
その想い人が今、俺の前にいる。
初めて出会った、あの日の姿で。
「グレン、ミゲル、あなた方の活躍を期待していますよ」
「もったいなきお言葉……!」
俺は深く頭を下げた。
未来で彼女を守れなかった悔しさがよみがえる。
剣帝アルゴスに捕らえられたときの、彼女の絶望に満ちた顔。
『帝国に連れ帰り、側室の一人にでもしてやろう』
あの下卑た言葉が脳裏で反響した。
ふざけるな……!
全身の血が沸騰するような怒りを感じた。
もう二度と、彼女にあんな顔はさせない。
――今度こそ、必ずお守りします、ルナリア様。
俺は心の中で強く誓った。
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