多分、うちには猫がいる
灯倉日鈴
第1話
「どうも家に猫が住み着いたらしいのだが」
コウがそう切り出したのは、二杯目の蜂蜜酒のグラスを空にした後だった。
「猫?」
聞き返す僕に、コウは三杯目の酒を注ぎながら、
「すばしっこくて、ちゃんと確認できていない。黒くて長い尻尾が見えたから、多分猫」
「いつから居るんだい?」
「さあ? 気づいたのは数日前かな」
「なんだよ、それ」
暢気過ぎるぞ。僕は苦笑いしながらナッツを一つ口に放り込んだ。噛みしめると、塩気の強い香ばしい味が舌に広がる。
ここはガルス国の西部に位置するエンバーの街。取り立てて特産物のない街だが、暗虚の森が近いので魔物が多く出没し、討伐賞金目当ての狩人やレア素材を仕入れにくる商人などでそこそこ賑わっている。
コウは何年か前にこの街に流れ着いた傭兵で、僕はこの街出身の兵卒。主に外壁の門番が仕事。
生まれも立場も違うけれど、偶然場末の酒場で知り合って、なんとなく会話を交わす間柄になった。
「捕まえたり、追い出したりしないの?」
僕が尋ねると、コウはグラスをくゆらせながら飄々と、
「今のところ、実害がないからな」
……呆れるほどに無関心で無頓着。僕はコウのそういうところが気に入っている。
「今度、ちゃんと見れたら教えてくれよ。どんな猫なのか」
「見れたらな」
適当な答えに、僕はまた苦笑する。
――これが、コウと“猫”の不思議な同居生活の始まりだった。
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