第11話 どしゃぶりの中で

「えっと、たしかこの辺に……」


 翌日、土曜日だったので私は例の駐車場に来ていた。


 蒼の家の近くにある、元パチンコ店の駐車場だ。おばあちゃんがここのパチンコ店に通っていた時期があったので、場所は覚えていた。このあたりで潰れた店は、ここのパチンコ店しかない。


 ここのところ天気はずっと崩れていて、今日も相変わらずのどしゃぶりだった。


 私は午前から、傘を持って駐車場を散策している。


 どうせすぐに見つかるだろうと高をくくっていたのだけど、なかなか見つからない。


 ちなみに、アカネの容体は順調によくなっている。昨晩、私は例の如く猫になったのだけど、目を開けたらそこは病院だった。身体も軽いし、もうじき退院できるだろうとお医者さんも話していた。


 でも、今大事なのは体調ではなく、耳だ。ちぎれた耳が見つからなくちゃ、くっつけることはできない。


「この辺で喧嘩してた記憶があるんだけど……」


 ヤンキー猫に絡まれたのはこの辺りのはず。


 でも、昨日の間に猫とか、あるいは鳥に持って行かれていたらその時点でアウトだ。


 そして、その予感は的中してしまったらしい。結局、駐車場をくまなく探してもちぎれた耳は見つからなかった。 


 あ、でも待って? 私の耳を噛んでた猫。私がパンチしたら、店の裏の方に逃げていかなかった? もし、そっちの方で落としたのだとしたら……。


 パチンコ店の裏には、大きな川が流れていた。ああ、そうだ。たしかおばあちゃん、パチンコの景品を餌にしてよくここで釣りをしていたっけ。


 川には岸もある。斜面を降りようとしたけど、ぬかるんでいて思わず転びそうになる。


「あ!」


 受け身を取ろうと傘から手を離してしまった。風に吹かれて、傘が向こう岸まで飛んでいってしまった。


 最悪……。


 大ぶりの雨を受けながら私は斜面に生い茂る草をかきわけて、ちぎれた耳を探した。


 草は鋭利で、なんの考えもなしに手を突っ込んだら指が切れてしまった。流れる血を舐めとって、ぬかるんだ地面を踏み抜いていく。


 もう、どこにあるのよ!


 なんだかイライラしてきた。いっそダイナマイトで、この付近を爆破してやりたい。


「って、あれ!?」


 火炎放射器でもいいな……なんて考えていたら、おもわぬ場所にそれはあった。


 なんと、ちぎれた耳が、川の中の岩にちょうど引っかかっていたのだ。おそらくあのヤンキー猫がこっちに持ってきたあと、鳥か何かが咥えてあそこに落としてしまったのだろう。


 うかうかしていられない。今は運良く引っかかっているけど、雨のせいで川の流れも早くなっている。これではいつ流されてもおかしくない。


「ああもう!」


 スカートでくればよかった!


 ズボンの裾をまくって、川に足を踏み入れる。じゃばじゃばと、膝の上まで水で使って気持ち悪い。


「きゃあ!?」


 川の流れはやはり早い。その場で私は転んでしまった。


 顔までぐっしょり濡れてしまう。けど、どうせ雨で濡れるのだから関係ない。


 ようやくちぎれた耳のところまで辿り着く。


 はあ、はあ……! 耳ゲット!


 岸にあがって、ズボンとシャツを絞る。


 今すぐ家に帰って着替えたかったけど、まずこれをあおに渡すのが先だ。


 週明けでもいいかもしれないけど、もし耳をくっつけるのにも期限があって、間に合わなかったら探し出した意味がない。


 急いで斜面を登ろうとする。しかし、足がもつれてしまった。


 その場でズザザ! と滑る。服も顔も、泥だらけだ。もう、なんて最悪な日なの!?


 こうなったら、意地でもこの耳をくっつけてもらわなきゃ困る。


 私は走って、蒼の家を目指した。


 インターホンを押すと、奥から足音が聞こえてくる。


「え、せ、先輩?」


 私を見た蒼は、目を丸くして私の惨状に驚いていた。


 そりゃそうだ。いきなり部活の先輩が、泥だらけになりながら家を訪ねてきたら誰だって何事かと思う。


「これ!」

「え?」

「耳!」


 もう、じれったいわね! 早く受け取ってよ!


 こっちとしては、一刻も早く家に帰ってこの汚れを洗い流したかった。


「あ、アカネの耳……!? でも、どうして先輩が……」

「偶然見つけたのよ」

「偶然って……」

「いいから、受け取りなさいよ! それとも、いらないの!?」


 私がちぎれた耳を引っ込めようとすると、蒼は靴も履かずに外に出てくる。


 蒼がちぎれた耳を大事に胸に抱えると、私はべちょべちょの靴をもう一度履き直す。


「いい!? 偶然、見つけただけだからね!?」

「あ、待って、先輩……!」


 私はその場を走り去った。


 なんだか無性に、恥ずかしくなってしまったのだ。


 わ、私のバカ!


 なにお決まりのセリフを言っちゃってんのよ! あんなのまるで。


 あなたのために探したって言ってるようなものじゃない!

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