自作小説のヒロインに転生したので、俺ルートは全力回避で百合ハーレム作ります!

世鳴ソバ

第1話 俺、ヒロインになる。

「私、アリシア=ルミナリアは、ユウシ=サガラを愛しています。そして、一生をかけて愛し続けることを、誓います。」

 アリシアの潤んだ目は出会った頃から変わらない強さと柔らかさを持っていて、それは俺が愛したアリシアそのものと言っていい。

「ユウシ=サガラは、アリシア=ルミナリアと一生を共に歩むことを誓う。―――アリシア、愛してる。」

 俺はそっと、ベールをあげた。

 祝福の鐘の音が、ふたりを包んだ―――。

 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


「ふうー。」 


 ついに書き上げた。


『転生したらxxxxxxxだったのでxxxxxxxします』


 本名、相楽侑士(さがらゆうし)。ペンネーム餓楽(がらく)。24歳。ニート。彼女無し。童貞。実家暮らし。etc...。の処女作がたった今、完成した。


 ニートが異世界転生したら最強の冒険者になって女の子にモテモテでハーレ厶三昧の王道作。

 そのままハーレムエンドでも良かったのだが、書き進めるうちに作家―つまり俺―は、ヒロインのひとりである貴族令嬢のアリシアに強く惹かれていった。

 その結果、最終的に主人公―つまり俺―はアリシアと結ばれ、ハッピーエンドに至る結末だ。


 他のヒロインだってクーデレ剣士にロリ魔法使い、ドジっ子シスターにお姉様エルフ、ツンデレお嬢様と理想を詰め込んだ訳だから断腸の思いだ。しかし、アリシアが俺には一番"刺さった"。嫁を自家生産できるなんて、自分の文才が恐ろしい。


「クロエ、リゼ、アリス、フェネラ、シャルロット…。すまない、お前たちのルートもスピンオフで用意してやるからな…。」 


 各ヒロインルートに思い馳せながらコンビニに弁当を買いに出かけた俺は、帰り道。


 キキーーーッ ドンッッッッ


 眩い光と強い衝撃。

 のちにマグマのような熱さと氷河みたいな寒さ。

 そして深海の如き暗闇。


「おい、大丈夫か!救急車!」


 なんだ神様、俺を転生させてくれるのか。

 トラックに轢かれるなんてテンプレすぎるぜ。

 どんな世界に転生するだろう。どんなスキルをもらえるだろう。どんなヒロインに会えるだろう。

 死後の世界が、俺の理想の世界だったなら―――

 俺はまた、アリシアルートを選ぶだろう。


 遠ざかる意識の中で、俺はアリシアとの幸せな日々を過ごしていた。


 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


「……。……い!おい!大丈夫か!」

 ……声が聞こえる。体が燃えるように熱い。俺はまだ生きているのか?

 しかし体は重く、瞼を開けることすらできない。暗闇の中に、風の音と土の匂いを感じる。


「とにかく、処置のできるところへ連れて行かなきゃ…。」

 何者か、男の声だ。

 声の主は俺の傍らに立ち、70キロはある体を軽々と担ぎ上げた。いわゆるお姫様抱っこというやつだ。そしてそのまま走り出した。

『まず救急車だろう』とか、『怪我人を無闇に動かすものじゃないだろう』とか思うこともあったが、口を開くこともできない。

 風を切るような音がする。相当のスピードだ。その割に腕の中は安定している。されるがままの俺はいつの間にか再び意識を失っていた。


 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


 どれくらいの時が過ぎたのだろう。

 次に見た景色は、知らない天井だった。やけに高い天井だ。

 病院…ではなさそうだ。


「お嬢様!ああ、アリシアお嬢様!お気づきになられましたか!良かった…!すぐにご主人様にお伝えしなければ!」


 声のする方に目をやると、メイド服姿のおばさんが慌ててドアを開けて出ていくところだった。

 ついでに、ずいぶんと華美な木製の棚だったり、美術館に飾られてるみたいな大きさの絵画が目に入る。

 反対側にも目をやってみると、これまた大きな窓の向こうには広い公園…いや、おそらく庭が広がっていた。


 ん?そういえばさっきあのメイド、アリシアって言わなかったか…?


 少ししてから、メイドと一緒に男がやってきた。


「おお、アリシアよ。無事で良かった。わかるか?」


 40歳くらいだろうか。いわゆるヨーロッパの貴族みたいな格好で、威厳のあるハッキリした顔立ち。イケオジってやつ…。

 などと考える間もなく、俺の口は勝手に動いた。


「お父様…。」


 お父様?なんでそんなこと言ったんだ俺は?


「アリシア、心配したぞ…!だからあれほど、ひとりで森に入ってはいかんと言ってあったのに。」


 いや、だから。アリシアって、どういうことだ?


 俺はゆっくりと体を起こす。薄ピンクのヒラヒラしたパジャマを着せられていることに気づく。

 体を起こした視線の先には、これまたお金持ちみたいなデカい鏡があって…。


「………うわァァ!!!!??」

「アリシア!どうした!かわいそうに、まだ気が動転しているんだろう、落ち着きなさい。もう大丈夫だからね。」


 大丈夫なもんか。

 鏡に映る俺の姿は、淡く透き通った紫の髪の毛が背中まで伸びている。大きな瞳は青く見開かれてこちらを見ていた。長い睫毛、小さな口。

 まさに俺の理想の女の子。というかこれって…。


「ア、アリシア!!???」


 高く澄んだ声が俺の耳に届く。

 そう、その姿は俺が頭の中で何度も思い描いた理想のヒロイン―――アリシア=ルミナリアにほかならなかった。

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