第18話 学生ローン
わずかな空間の歪みと共に、クスマの姿が、始まりの巨大な広場に現れた。
彼が現れると、すぐに会場中の視線が集中した。その中には、遠くない場所からの、三つの、極めて複雑な眼差しも含まれていた。
とっくに転送されて戻っていたふゆこ、クレイ、そしてみぞれは、一箇所に集まっていた。彼らがクスマのあの「泥まみれの彫像」のような姿を見た時、その反応は様々だった。
ふゆこの目には、すぐに心配の色と、「さすが師匠だ」とでも言いたげな崇拝が混じってきらめいた。クレイは無意識に眉をひそめ、鼻の前で手を振り、その嫌悪の表情はまるで「こいつ、匂いまで一緒に持って帰ってきたのか?」と語っているかのようだった。一方、みぞれは、ただどうしようもないといった風に、甘やかすように軽く首を振り、「こうなると思ってたわ」という苦笑いを浮かべた。
クスマ本人は、仲間たちの反応に全く気づいていなかった。彼の体にこびりついて固まったアリの糞は、彼をまるでどこかの抽象芸術家が手掛けた、失敗作の泥まみれの彫像のように見せ、さらには周りの空気さえも実質的に歪ませる、言葉にできないほどの匂いを放っていた。
広場では、転送されてきた受験生の大部分がうなだれており、明らかに過酷な試練に脱落したようだった。そのため、無事に合格したクスマたち四人、特にその奇抜な出で立ちで歴史に名を残すであろうクスマは、ひときわ注目を集めていた。クスマはまるでモノクロ写真の中の、唯一の色彩のようだった(もっとも、それは匂い付きの茶色だったが……)。
─ (•ө•) ─
『王のオーラ』を全身から放つクスマを前に、仲間たちの反応は様々だった。
「……あのさ」
最初に沈黙を破ったのは、この気まずさに耐えきれなくなったクレイだった。彼は二本の指で固く鼻をつまみ、その視線はクスマの方向を完全に避けていた。
「俺とみぞれは、先に宿屋に戻って休む。お前たちは……まあ、ゆっくりしてろ」
彼は言い終わると、誰の返事も待たずにみぞれの手首を掴み、振り返りもせずに足早に去っていった。
「あ……あの、ごめんなさい!」
無理やり連れて行かれるみぞれは、振り返って、クスマとふゆこに申し訳なさと、どうしようもなさと、そして「彼がこういう性格なのはあなたも知っているでしょう」という複雑な苦笑いを向けることしかできなかった。
かくして、クスマは一人で、その『王のオーラ』を身にまとい、周りの人々の畏敬(と嫌悪)に満ちた眼差しを浴びながら、宿屋へと続くアカデミーの道を歩むことになった。彼はまず宿屋に戻り、神聖な浄化の儀式を行うことを決意した。
クスマは自分が、即位したばかりの、歓迎されざる王のような気分だった。
彼がアカデミーの広い大通りを歩くと、その無形でありながら帝王の威厳に満ちた「匂い」が、彼のために道を切り開く最強の軍隊となった。
彼が近づくと、道端の学生や教師たちが、モーセの海割りの奇跡を目撃したかのように、驚愕して両側に退き、彼のために絶対的で、真空の、馬車が十台は並んで走れそうな王者の道を開けた。
中には体質の弱いひよこもいて、彼の『王のオーラ』に触れた後、その場で地面にひざまずき、道端の花壇に向かって何度もえずき、その光景はまるで、新王に最も誠実な、五体投地の朝拝を捧げているかのようだった。
そしてふゆこは、かろうじて彼に従うことを許された、唯一の忠実な臣下だった。しかし、それでも彼女は、申し訳なさそうな顔で、遠く、「国王」の後ろを十歩以上離れた場所で、付かず離れずついてくることしかできなかった。
─ (•ө•) ─
クスマはようやく無事に宿屋の部屋に戻り、かなりの手間をかけ、石鹸を丸ごと一個ほぼ使い切って 、ようやくその身にまとった『王のオーラ』を完全に洗い流した。
彼が清潔な服に着替え、前例のない爽快感を感じ、自分はまた清潔で可愛らしいひよこに戻ったのだと思っていた、まさにその時、ドアが「コンコン」とノックされた。
ドアの外には、王都アカデミーの制服を着た一人の使者が立っていた。彼は無表情だったが、シルクのハンカチで固く鼻を押さえているその手が、彼の内心の本当の気持ちを正直に物語っていた。
「失礼します、クスマ様でいらっしゃいますか?」
使者の声は、感情のない機械のようだった。
「はい、私です」
「こちらがあなたの通知書です」
使者は精巧な羊皮紙でできた二つの巻物を手渡すと、まるで極めて危険な任務を終えたかのように、素早く身を翻して去っていった。まるで一秒でも長くここに留まれば汚染されてしまうとでも言うかのように。
クスマは訝しげに一つ目の巻物を開いた。そこには金箔で縁取られた、威厳に満ちた合格通知が書かれていた。
「ここに証明する。新入生クスマは、今回の入学試験において、常規を超えた戦術的思考を発揮し、『兵隊アリの集団自溺を誘導する』という方式で合格した。この革新的な精神を表彰するため、アカデミーはここに、追加奨励金として金貨100枚を授与し、これを奨励する」
クスマの心は狂喜に満ち、その場で跳び上がりそうになった。
(見ろ!やっぱりな!アカデミーは見る目があるじゃないか!これはまさに天才的な戦術だ!)
しかし、彼が興奮し、期待に満ちて二つ目の巻物を開いた時、その顔の笑みは瞬時に凍りついた。それは「王都環境衛生部」から発行された、項目がはっきりと記された、文言の厳格な、法外な罰金請求書だった。
「事由・本日午後、貴殿がアカデミー大通り沿いに大量の高濃度魔物排泄物を付着・残留させた件に関し、深刻な市容汚染及び嗅覚公害を引き起こした。評価の結果、必要とされる街路清掃、空気浄化、及び周辺市民への精神的慰謝料として、合計200金貨を請求する」
クスマは左手の、金貨100枚の奨励金が書かれた合格通知と、右手の、金貨200枚の罰金請求書を、呆然と見比べた。
彼の脳裏には、ただ一つの考えだけが、無限に響き渡っていた。
(つまり俺は、まだ入学もしてないのに、いきなり法外な学生ローンを背負ったってことか……?)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます