【短編】尻を振っていたら世界を救って彼女も出来た話

カオス饅頭

尻を振っていたら世界を救って彼女も出来た話

 俺の名は尻太郎!

 複雑な家庭の事情でこんな名前になったけど、至って普通の男子高校生だ!


 尻太郎だから移動する時は尻を振りながらだ。

 周りに尻を強調出来るように、後ろを向きながら走る事を常としている。

 だが安心してくれ、ちゃんとパンツは履いているから。


「いっけな~い、遅刻遅刻~」


 そんな普通な俺にも珍しい事は起こるもので、通学中に食パンをくわえた女子高生とぶつかる事になってしまった。

 謎の直角の路地で、横から突然だ。

 この尻をアピールする走り方は、視界が悪くなるのが唯一の欠点だな。


 女子高生の食パンは、どうやら良い物だったらしい。

 時間が生んだ熟成の旨味と、酵母の豊かな香りが感じられる。

 フワフワモチモチの食感は、俺の尻を身体ごとカウンターで突き飛ばしたのだ。


 俺の尻はアスファルトに衝突し、そのまま反動で大きく弾む。

 空中をギュワンギュワンと何回転もした。

 その際に高速での尻振りを続けていたせいか尻が時空の壁に衝突し、障子に指を突っ込むが如く発生した時空の裂け目へ俺の身体がホールイン。


 こうして俺は異世界へ渡る事になったのだった。



 だが先ず目に入ったのは、物語のような異世界では無く、世界同士の隙間に存在する真っ白な繋ぎ目の空間だった。


 此処は物理法則が通じないので、重力も存在しない世界だった。

 無限に加速し続ける事による摩擦熱で様々な衣服が燃えていくが、パンツはちゃんと履いているので安心して欲しい。


「あの……」


──ギュワン


 途中でチートをくれる女神様っぽい人が見えた気もしたが、その時の俺は音速を超えていたので何を言っているか分からず素通りしてしまった。

 けれど本格的な異世界への行先的なゲート的なものは軌道上に設置してあったので、俺は別の世界へ行く事が出来たのだった。


 後で知る事になるのだが、この時に俺はチート能力を得ていたらしい。

 その名も『相手にちくわを装備させる能力』である。



 今度こそ、剣と魔法のファンタジーにやってきた。

 俺は尻を向けた体勢で、空中に開いた穴からスポンと出る。

 空中だ。


 前を見ればドラゴン的な魔物が飛んでいて、俺の尻に轢かれて落下していく。

 下を見れば中世ヨーロッパを思わせる要塞都市があって、住人たちは高速で飛ぶ俺をなんだなんだと指差しながら騒いでいる。


 未だに俺の加速は続いているが、そこは重要でない。

 問題は此処で何を成すべきかだろう。

 空中で尻を振りつつ顎に手を当てて考えていると、突如男が超高速でやって来て、俺と平行移動をはじめた。

 ランニングシャツを着た中年の男だった。


 俺はつい口を開く。


「お前は誰だっ!?」


 男は答える。


「私は……はじめの村に住んでいる、序盤の強制イベントの者っ!

無理やり無視しようとしても意地でもついて来ます!」


 そうか、強制イベントなら仕方ない。

 こんな事をさせられる彼も可哀想だと思うが、きっと好きでやっているのだろう。

 強制イベントで絡ませたら誰にも負けないという自負があるのかも知れない。


「貴方には魔王を倒して頂きます」

「魔王か、それが成すべきことなら良いだろう!血祭りにあげてくれるわ!」

「しかし魔王は凄い鎧を着ているので、ダメージが通らないかも知れません」

「なにい、どう凄いんだ!?」

「ファッション誌に三回連続で取り上げられました!

これを着た魔王がパリコレに出る日も遠くないと言われています」

「くっ、なんて凄いんだ!」

「だけど安心して下さい、魔王が鎧を着ていない時を狙えば倒せる筈です!」

「よし、分かった!」


 そんな事は誰でも分かるが、どうやって鎧を着ていない瞬間を狙うのか。

 聞こうとした時、男は隣に居なかった。

 後ろを見れば、親指を上げながら海に向かって落ちていく男が見える。

 強制イベントが終わったので能力の効果が切れたのだろう。

 あ、水柱が立った。


 そういう訳で俺は魔王を倒しに行く事にした。



 一方その頃、魔王城。

 此処は山に聳え立つ、自然を活かした要塞である。

 住んでいると凄い疲れるらしい。


「今日も一発、元気にソーセージ!」


 青空の下、城下町の広場で魔王チン太郎は、全裸になって股間のイチモツをブンブンと振り回していた。

 とても長く大きく、回る様はまるで汚い竜巻だ。

 周りの家臣が直ぐに止めに入る。


「魔王様、おやめ下さい!そういうのは大人になったらやらない物です」

「ええい、離せ!

これをやりたくて、私はこんな人里離れた場所に住んでいるのだ。

間違っているのは分からず屋の世界の方だ、こんな世界滅ぼしてやる!」


 なんでファッションリーダーとして名高い魔王がこんな性癖を持ってしまったのか。

 頭を抱える家臣の前に、突如『それ』はやってきた。

 『それ』は、衝突事故のように尻で魔王の身体を巻き込みながら、城壁に激突する。


「ぐわああああ!

まさか俺が鎧を直ぐ脱ぐ特殊な性癖だと知っている人間が居るなんてええええ!」


 尻太郎だ。

 その後も加速を続け、惑星を三周ほどした辺りで魔王城に辿り着いたのである。

 尻に押しつぶされる魔王の顔を見つつ、尻太郎は目を潤ませて呟いた。


「久しぶりだね、兄さん……そしてさようなら」


 魔王を倒したことで、温かさに溢れた強い光が世界を包み込んで、なんかいい話っぽい終わり方になったのだった。



 生き別れの兄さんを倒した俺は、気付くと元の世界に戻っていた。

 目の前には直角の曲がり角、そして再び声が聞こえる。


「いっけな~い、遅刻遅刻~」


 俺は前に突き出した尻を振りながら進むと、やはりドンと女子高生にぶつかる。

 しかし今度は、突き飛ばされていたのは女子高生の方だった。

 チート能力で彼女の食パンをちくわに変えたのだ。

 尻餅を付く彼女は、プルンプルンと震えるちくわを口にくわえて俺の尻を見る。


 そして彼女は一声。


「格好いいお尻ですね!

好きです、付き合って下さい!」


 こうして俺に彼女が出来たのだった。


FIN



 尻太郎の母です。

 私の事は嫌いになっても、尻太郎は嫌いにならないで下さい。

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