【自動化】スキルで快適スローライフ! 〜追放された落ちこぼれゴーレムマスター、実は伝説級の魔導具技師でした〜

@123te

第1話 追放

「今日限りで、お前を勘当する。二度と我が家の敷居をまたぐな!」


 父の怒声が、がらんとした屋敷のホールに響き渡った。


「ゴーレムマスターなどという時代遅れの職業……我が家の恥だ!」


 吐き捨てるような言葉に、俺――ユキ・アインズワースは、ただ俯くことしかできなかった。


(またか……)


 デジャヴだ。前世でも、同じような光景を見た。


 過労で倒れ、朦朧とする意識の中、上司から「使えない奴は辞めちまえ!」と罵倒された、あの日の記憶。ブラック企業で身を粉にして働いた挙句、あっけなく死んだ俺は、幸か不幸か、剣と魔法の異世界に転生した。


 裕福な貴族の家に生まれ、今度こそはスローライフを、と夢見ていたのに。


「……はい、父上」


 感情を押し殺し、俺は短く答えた。抵抗しても無駄なことは、前世で嫌というほど学んでいる。


「荷物をまとめて、とっとと出ていけ!」


 背を向けた父の言葉を合図に、俺は自室に戻り、最低限の荷物を小さな革袋に詰め込んだ。貴族の家柄とはいえ、落ちこぼれの俺に与えられた部屋は、屋根裏の物置同然。未練など、欠片もなかった。


(さて、どうしたものか)


 屋敷を追い出され、行く当てもなく森の中を歩きながら、俺は冷静に現状を分析する。


「金はほとんどない。あるのは、この体一つと……」


 俺は、自分のステータスを思い浮かべる。この世界では、誰もが神から与えられた職業ジョブとスキルを持っている。


名前:ユキ・アインズワース

職業:ゴーレムマスター

スキル:【ゴーレム作成】【魔力操作】


(本当に、これだけか……)


 ゴーレムマスター。それは、泥や石からゴーレムを生み出し、使役する職業だ。しかし、現代では魔法使いが詠唱一つでゴーレム以上の力を発揮できるため、完全に時代遅れの存在と化している。


 父が「恥」だと言ったのも、無理はない。


「はぁ……」


 思わず、深いため息が漏れる。前世でも今世でも、俺は「使えない奴」という評価から逃れられない運命らしい。


 日が落ち始め、森は不気味な静寂に包まれていく。


(野宿は避けたいな……)


 その時だった。


「グルルル……」


 茂みの奥から、低い唸り声が聞こえた。暗闇に光る、二つの赤い目。ゴブリンだ。


「……最悪だ」


 貴族とはいえ、戦闘訓練などまともに受けていない。ましてや、時代遅れのゴーレムマスターに、ゴブリンを退ける力などあるはずもなかった。


(死ぬのか、俺。二度目も、こんなあっけなく……?)



 諦めかけた、その瞬間。俺の脳裏に、前世の記憶が閃光のように蘇った。



(待てよ……ゴーレムの制御核コア……あの魔法陣、何かに似てないか?)



 教科書で見た、ゴーレムの心臓部である制御核の魔法陣。その複雑な幾何学模様が、前世で死ぬほど見てきた、あのプログラミング言語の構造と、なぜか重なって見えたのだ。


「……まさか」


// ゴーレムの基本制御プログラム

function Golem_Control() {

// 動作命令の定義

var command = "standby";


// 命令に応じた処理

if (command == "walk") {

// 歩行処理

} else if (command == "attack") {

// 攻撃処理

} else {

// 待機処理

}

}


「……試してみる価値は、あるか」


 ゴブリンが、涎を垂らしながら、じりじりと距離を詰めてくる。


 俺は震える手で、地面の泥をかき集めた。


「スキル、【ゴーレム作成】!」


 スキルを発動すると、手のひらの泥が淡い光を放ち、ぼんやりとした人型を形作っていく。大きさは、バスケットボールほど。これが、今の俺が作れるゴーレムの限界だった。


 通常、ここから呪文を詠唱し、ゴーレムに命令を与える。しかし、俺は違う方法を試すことにした。


(頭の中で、コードを組む……! ゴーレムの制御核コアに、直接、命令を書き込むイメージだ!)


 俺は目を閉じ、意識を集中させる。


(まず、変数を定義する。targetターゲットは、あのゴブリン。次に、行動を定義する。action行動は、tackle体当たりだ)


 脳内で、高速でコードを組み立てていく。前世では、納期に追われながら、毎日何千行ものコードを書いていた。それに比べれば、簡単な処理だ。


(よし、できた! 実行しろ!)


Golemゴーレム.execute実行(action体当たり, targetゴブリン);


 俺が心の中でそう叫んだ瞬間、だった。


 手のひらの上にいた泥人形――ゴーレムが、ビクンと動いた。


 そして次の瞬間、まるで弾丸のような勢いで、ゴブリンに向かって飛んでいったのだ。


「ゴブッ!?」


 ゴブリンは、何が起こったのか分からない、という顔で、腹にめり込んだ泥団子を見つめている。


 ドゴォッ!


 小さな体からは想像もできないほどの衝撃。ゴブリンは、くの字に折れ曲がり、白目を剥いてその場に倒れた。


「……え?」


 静まり返った森の中、俺は自分の手のひらと、気絶しているゴブリンを、ただ呆然と見比べていた。


「……もしかして俺、とんでもない力、手に入れちまったんじゃないか?」

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