第3話
「貴女、このままじゃ、全て失うわよ。千也さん、それが心配で貴女のそばを離れられないみたいだから」
「・・・・嘘よ・・・」
伸ばしていた手を下ろし、埃の積もった床の上でギュッと握りしめながら、吐き出す様に呟く。
「あんた、何者!?どうやって私の事を調べた!祖母が此処にいるわけないでしょ!」
すくっと立ち上がり、先ほどとは違う怒りの眼差しで奏を睨み付けた。
「霊能者気取りで私に説教するの?それともここであった事を家の者にチクるわけ?あんたの目的はなんなの!?」
ヒステリックにまくしたてる女に、奏は大きく息を吐いた。
「目的?そんなもん無いわよ。少なくても私にはね。だって、全くの赤の他人のあんたが強姦未遂で警察に捕まろうと、その事であんたの家族全員が世間から白い目で見られようと私には一切関係ないんだから。一文の得にもならない事なのよ。私にとってはね」
奏の言葉に女はびくりと身体を震わせた。
そしてこれまでとは違う、どこか戸惑の混じる眼差しで
・・・もう少し・・・・
奏は女の前に立つと、手を差し出した。
「な・・・何?」
女は警戒心をあらわにその手と奏の顔を交互に見る。
「私の手を握って。まぁ、だまされたと思ってさ」
「・・・・・」
少しの躊躇いと警戒心を表に出しながらも、女は奏の指先に己の指先を重ねた。
それを奏は強引にぐっと握れば、「何を!!」と女は手を振り解こうとした。
「静かに!・・・・そこを、見て」
目線で彼女の隣を指した。それに対し恐る恐る視線を移せば、彼女は目の前の信じられない光景に、正に惚けたように口を開けた。
今ここにいる場所は廃屋で、今ここにいる部屋は荒れ果てていて、決して七色の光が舞う空間ではない。
なのに彼女の目に映し出された光景は、眩しいほどの白い空間にシャボン玉のように舞う七色の光。その中に佇む老女。
先ほど廃屋の前で奏と立っていた老女がそこに居た。
老女―――千也は、そっと彼女の頬を撫で『あーちゃん』と呼んだ。
「あ・・・おばあちゃん・・・・」
『
それだけを告げると千也の身体はふわりと浮いた。そして愛華を包み込む様に抱きしめれば、その身の内から何かが弾け出ていった。
『愛華、何時も見守っているわ・・・幸せにおなり・・・』
そして、その身体が透けて消えかかったその時、千也は不意に奏へと視線を移し小さく会釈し、そして光に解ける様に消えていった。
それはほんの一瞬の出来事で、愛華の目にはもう先ほどの光景はなく、荒れ果てた室内が映るだけ。
愛華はゆっくりと奏を見る。その瞳には正常な光が宿り、悲しみと後悔と困惑が浮かんでいた。
こぼれ落ちるほどに大きく見開いたその
「あ・・・おばあちゃん・・・・ごめ・・・ごめん、なさい・・・おばあちゃん・・・」
力が抜けたように床へと座り込み、祖母を呼び泣き続けた。
そんな彼女をここには置いてはいけないだろうと、落ち着くのを待って一緒に外に出る。
薄暗かった室内から、色鮮やかな橙色が満ちる屋外へと出れば、その眩しさに三人は目を細めた。
正常な思考を取り戻した愛華の表情は、全く別人のよう。
自分が何故あんな事をしたのか記憶が朧げなようだったが、大好きな祖母に会えた事だけは鮮明に覚えているようで柔らかな笑みを浮かべている。
記憶は朧気でも、凛にしてしまった事は犯罪まがいというかほぼ犯罪なのだが、もう自分に関わらなければと凛が寛大な対応をしたため、無罪放免となった。
愛華は涙ながらに何度も何度も頭を下げ、その場を後にした。
「ねぇ、良かったの?」彼女の後姿を眺めながら奏が凛を見上げる。
彼はどこか諦めたようなそんな表情で「あぁ・・・正直、思う所もあるが・・・・仕方が無いだろ」と呟いた。
相手の事を考え引いたのだろうが、どんな理由があるにしろ凛と奏は巻き込まれ損である。
納得がいくかいかないかは別として、取り敢えずは丸く収まった事に二人は深いため息を吐いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます