死亡理由書
@sumina
第1話 からっぽ
※この物語はフィクションです、現実に存在する人物・地名、その他とは一切関わりはございません。
やっぱり、シボウ理由書を書き上げるのは難しいことです。そこには社風やアドミッションポリシーといったものはございませんから...
「私は将来良い大学に入って、お金持ちになって、それから...推しのショウくんみたいなイケメンと結婚するのがひそかな夢なんです。」
一学期初めの、自己紹介の時間。隣の席の彼女は僕にそう話してくれました。
「まぁ、私、勉強以外不得意なんだけどね。」
そういってやわらかく笑った、彼女の顔を僕は今でも覚えています。
「おい、おまえ数学どうだった?俺なんかマーク一つずつずらしちゃったよ!!」
馬鹿だなぁ。まぁ僕も、うまくできたわけではないが...。
今日はこの間受けた全国模試の返却日なので、いつもより教室がざわざわしている。
「おまえら、席につけ!模試返してくぞ~」
担任のヨコヤマがそう促す。
定期テストや模試の返却などのような一大学業イベントのとき、僕らは自然と彼女に注目する。
「やっぱり心愛ちゃん、今回も学校一位かな!?」
「毎回一位だもんね~、S大学とかいけちゃうんじゃない!?!?」
みんな勝手言うものだな...実際僕も少し、気になってはいるが。
「心愛~!...はいよ、今回はちょっと残念だったかな?」
「ま、おまえは心配してない、次は頑張れ!」
ヨコヤマの一言に、クラス中の視線が一人に刺さる。
「ーはい。」
力なくそう答えた心愛は、なんというか無機質な表情をしていた。
「珍しいこともあるもんだね~」
「あの子勉強だけのイメージだったから意外かも。」
そんな雑音に、僕はポチャンとした不快感を感じた。
彼女は笑って強がっていたし、僕はとくに何も声をかけなかった。
そんな出来事から少し経った、大学2年の頃だっただろうか、
彼女が一年浪人した末、自ら命を絶ってしまったということを知ったのは。
「私のこと、おぼえてますか?」
「これは私の死亡理由書です、どうかお読みください。」
あの時のクラスのチャットには、そんな文と共に、あるリンクが貼られていた。
「死亡理由書」、遺書のようなものだろうか。
リンク先はあるウェブサイトで、どうやらこれは彼女が書いたものらしかった。
「二組のみんなへ」
「この文書を誰に送ろうか考えたとき、このクラスを思い出しました、悪しからず。」
前置きにはそう書いてあった。
「私が死ぬことを決めた理由は大きく二つあります。一つ目は、私に友達がいなかったからです。私がどれだけ無理して話を合わせても、面白くないのに笑っても、一緒に遊んだり、お話してくれるお友達はいませんでした。休み時間も勉強ばかりしていたから、自業自得でしょうか?」
「でもね、私はみんなと過ごした時間で、笑い方も話し方も忘れてしまいました。」
「本当の自分がいなくなっちゃったんです、多分。」
「二つ目は、私にとって唯一の、勉強が無くなったからです。私が校内一位をとると、話しかけてくれるみんな。少し癪には触りましたが、それでも無いより断然良かったんです。」
「今はそれも無くなっちゃいました。私は空っぽです。」
「●●くん、私の夢を、覚えていますか?私、かなえられそうにありません。もう残りの寿命、時間に執着が無くなったというか、どうでもよくなったんですよ。」
「それでね、毎朝乗る電車、最近はなんだか吸い込まれそうな、呼ばれているような気持ちになります。多分、私はもう少しであちらに行くのでしょう。」
「私をよく知りもしないサラリーマンは、ダイヤの乱れに舌打ちでもしますかね?まぁ、よくあることなんじゃないですか?」
「最後に、みんなへ、誤解のないように。私たちはいずれ死にます。この世に生まれたときからそれは決まっていたのかもしれません。そんな簡単なことに気づいた今、わたしはあちらに行くのが怖くない、むしろ行きたいと思うようになりました。」
「以上が、私の死亡理由です。」
すべて読み終えて、また、あぁ、また。
僕は彼女の笑顔を思い出したのです。
※この物語は自殺を助長・推奨するものではありません
死亡理由書 @sumina
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